第57話賄賂


 メルロスから連絡が入り、急ぎ城へ戻った。


 城に配属した女性からメルロスへ連絡が入ったらしい。


 到着してみると、何人もの領民が俺に謁見する為、待っているようだ。


 その領民達を待たせている部屋へ行こうとすると、ラウールが俺を止めた。


「お待ちくださいテツオ様。

 領主自ら彼らの控え室へ行くのは好ましくありません」


 貴族には威厳や礼節が大事だと言う。

 俺にはどうでもいい事だが舐められても困るし、ラウールの言う事を聞いておこう。


 謁見の間にて椅子に座って待っていると、ギルド支部長、宿屋組合長、商工会会長、新聞社所長など、この街のトップが次々と入ってきた。

 十人はいるだろうか。

 全員俺より倍以上は年上のおっさんだ。

 一人ずつ俺の前に来て自己紹介をし恭しく挨拶をする。

 全員が何か小包らしきものをラウールに渡していた。

 それは何かと訊ねると、挨拶料だと言う。

 おいおい、賄賂じゃないの?それ。


「これは受け取るものなんですか?」


「慣例ですね。

 誰もがそういうものだと分かっております」


 贈収賄はこの世界じゃ罪では無いのか?

 でも、なんか俺の領地ではそんなの要らないな。


「金はお返しします!

 これからこの領地では賄賂を禁ずる事に決めました」


 その場にいた全員が驚いた。

 隣にいる者と顔を見合わせ怪訝そうにしている。


 金を受け取らなくても、いい仕事をすれば評価するし困っていれば援助もする。

 そう言って細かく説明したつもりだが、彼らはいまいち理解していないのか釈然としないまま退出していった。


 常識だと思っている事が覆された時、人は理解が追いつかないのかもしれない。

 前にクランでも話したが、この世界の法律はあるようで無い。

 王や領主がいるので君主制ではあるが、割と民意が反映される節がある。


 みんなが暮らしやすいように、法の整備が必要だな。


 直ちにアデリッサを呼びつけ、ラウールと三人で法律関係を見直す事にした。


 おや?

 悪魔に人間の法律を考えさせるってどうなんだろうか?

 とはいえ、貴族の娘だけあってその道に詳しいのも事実だしな。


 ラウールが現行の法律を示し、俺が率直な感想を言い、アデリッサが補足する流れでサクサクと法律が改正されていく。


 俺は一体何をやっているんだ?

 こんなことをする為に冒険者になった訳じゃないんだが。


 七時を過ぎた辺りで来客があったらしくラウールがエントランスに向かっていく。

 しばらくすると、俺にすぐ来て欲しいと血相変えたラウールが戻ってきた。


 何事かとエントランスに行くと、先程挨拶に来ていた街のお偉方がそれぞれ美女を連れて来ている。

 全員で十人か。

 入城するとあって、どの美女もかなりドレスアップしていた。


「こ、これは?」


「先程は失礼致しました。

 どうか、こちらをお納めください」


 全員がお辞儀をし、美女達が歩み寄ってくる。

 こいつら全然分かってない。

 これは完全にエリックのせいだな。

 エリックがこの街に良くない文化を根付かせたんだ。


「あー、皆さん勘違いしてるようだが、この街ではもうジョンテ家のやり方は通用しない。

 法律を改正するから、えっと、新聞社の。

 完成したら持っていくから、なるべく早く配布するように。

 それと、この城は労働力が足りないから彼女達はここで働かせる。

 いいかな?」


 反応を見ると、全員が受け取って貰えて助かったというような顔をしている。

 やっぱり、分かってなさそうだ。

 安心したのかお偉方はお辞儀をして帰っていった。


 贈呈された美女達に一旦帰るよう伝えたが、城に行くと言った以上もう帰る事が出来ないという。

 怖い怖い。

 それどんなルール?


 帰れないと言うなら仕方ないので、アデリッサに面倒事を押し付けて部屋に案内させる。

 明日からメイドとして頑張ってもらおう。

 メイド服なら大量にあるから問題ない。


 帰りたければいつでも帰ってもらって結構だが、帰る際にはせっかくだから先っちょだけお願いしたいな。



 そろそろお腹が空いてきた。


 城とリゾート間は転移可能なので、レストランから料理を運ばせて今夜は城で食べる事にしよう。

 城はやたら広いので、城で食事をするなら人数は多い方がいい。


 リリィに連絡し城へ転移させ、ソニアに話し団員全員を城に呼び、メルロス、ナティアラ、アマンダと手の空いた女性達、先程贈呈された女性達を、食堂に集めた。


 女性が増えたので呼び方を決めた方がいいな。

 助けた美女達はメルロス管轄下にあるので、

 呼び方はメリーズにしよう。

 先程贈呈された美女達は、メイドとして雇うので今のところはメイドでいいか。


 ラウールはあまりの人数の多さにあたふたしているが、座っていればいいと落ち着かせた。


 メルロスの指示でメリーズがメイドを指導しながら料理を配膳していく。

 来たばっかりなのにいきなり働かされて、戸惑っているが頑張ってもらうしかないな。


 右に座っているリリィが城内を見渡しながら話しかけてきた。


「テツオ、とうとう貴族になっちゃったのね」


「押し付けられただけだよ」


 リリィは柔らかく笑って酒の入ったグラスに口を付けた。

 酔わないで欲しい。


「そんな事ないわ。

 テツオなら王にだってなれそう」


 ハーレム王に俺はなる!


「テツオ、なんか言った?」


 口に出してないのに。

 というか、こんな乱世で王になるとかハード過ぎるから絶対なりたくない。


 リリィとは逆の左に座るソニアが話しかけてきた。


「そちらのお方は、もしかすると西国の姫君か?」


「ええ、そうよ」


 ソニアの問いにリリィが答えると周囲が騒ついた。

 やっぱりこいつ有名人なんだな。


 カンテやヴァーディばかりでなく、何十人の団員が食事を中断して集まってきた。

 なんなんだ、こいつらは。

 質問が矢継ぎ早に飛んでくる。


 なんでテツオと一緒にいるのか?

 勇者を探しているのではないのか?

 北の国で何をしているのか?

 手合わせさせてくれないか?


 最後のヴァーディの台詞は質問ですら無い。


「二人はスーレの村で会ったんだ。

 それから、二人は戦い、意気投合したんだ!」


 知らないおっさんが突然発言しだして、周囲が静まり返る。


「え?あ、いや、俺はスーレの村で防衛任務に就いてたんだが……」


 あー、スーレにいた三馬鹿の戦士か。

 リリィが一息付いて口を開く。


「確かに私は勇者を探す為にスーレの村に行ったけど……

 そこでテツオと運命的に出会い、テツオの強さに惚れて一緒にいる事したの。

 私の英雄としての力は、テツオの為にしか使わないわ!」


 清々しいまでの断言。


 配膳するメルロスの手がぴたりと止まった。

 アデリッサは俺とリリィを何度も交互に見る。

 ソニアは笑みをたたえたまま果実酒の入ったグラスを揺らしている。


 なにやら不穏な空気が流れているような……


「おお!

 英雄がテツオの仲間になるとは、なんと素晴らしい事であろうか!

 この領地は安泰だな!」


 果たして天然なのか、助け船なのか、三馬鹿の魔法使いが両手を広げて感極まっている。


「全くその通りだ!

 英雄に、そして領主に乾杯といこう!」


 皆が大声で叫び酒杯を掲げた。

 流石のリヤド。

 流れを逃さず宴会モードに持っていった。

 このクランの連携力は半端ないのだ。



「リリィ、明日は俺と一緒に冒険だ」


 発言の影響力を気にする事もなく涼しい顔をして食事をしているリリィに話を振ると、えっ?と途端に嬉しい顔になって食い付いてきた。


「何処に行くの?

 次の悪魔が見つかったの?」


「悪魔じゃない、恐竜退治だ。

 知ってるか?恐竜」


 悪魔と戦いたかったのか、露骨にがっかりした顔をするリリィ。


「もちろんよ。

 戦った事無いけど。

 それより、テツオとどこか行ける方が嬉しいかな」


「え?なんて?」


 気がつくと、隣の声も聞こえないくらいのどんちゃん騒ぎに発展していた。

 上半身裸で踊っている阿保も多い。


 女性メイド達が戸惑った顔をしている。

 慣れていないのだろうか。

 メリーズは教育が行き届いている為、誰にでも優しく対応している。


 見兼ねたソニアの指示で、裸になった団員が次々と城から追い出される様子を眺めながら、みんなで笑っていた。


 正直、ノリは嫌いじゃないんだよね。


「よし!飲もう!」


 平和だ。

 酒が美味い。

 美女に囲まれ、酒を嗜む幸せ。

 正に貴族。

 気分がいい。



 ふぅ……

 どれだけ飲んだのか……


 眠くなってきた。

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