第56話セキュリティールーム


 ——地下・セキュリティールーム


 テツオパークリゾート、略してテツリゾの遥か地下にあるセキュリティールーム内。


 分厚いガルヴォルン鉱石で四方八方囲まれたこの箱の中には、術者であるテツオの【転移】でしか入室する事が出来ない。


 領民思いの彼は、民の安心安全を第一に考え、エリア全域にて問題が無いかモニターで逐一チェックしていた。


 座るテツオの目の前にある十枚以上の液晶モニターには、各エリアに大量に設置されている監視カメラや、全スタッフの視点カメラなどから集められた映像を映し出す事ができる。


 特に、スパリゾートやビーチリゾートエリアにある更衣室では、若い女性を狙った犯罪が多発する可能性がある。

 この素晴らしい領主は忙しい職務の合間を縫って、犯罪を未然に防いでいたのだ。


「やっぱりこの街、結構美女多いやん」


「お、この子ええ胸しとるのぅ」


「けしからん乳!けしからん尻!」


 ナイスバディの若い美女は犯罪に巻き込まれやすい。

 裸をじっくりと眺めるその目の奥には、犯罪は絶対に許さないという厳しい光があった。


 多忙な彼の仕事は安全管理だけではない。

 何と彼は、キャストの体調管理も同時に行なっていたのだ。

 ピピ以外にも数体の妖精ピクシー達へ自分の身を削って魔力を分け与えている。


 酸素が足りないのと同じく、人間は魔力が尽きると意識を失う危険がある。

 そんな大事な魔力を、下半身から直接注入する事で、疲れた妖精ピクシー達の魔力を増幅させ、体力をみるみる回復させてゆく。


 見た目は可憐な造形をしているが、本質は人ならざる者。

 物の怪の類いと交わるなど、なかなか並みの人間にできる事ではない。

 これはやはり、この領主の器の大きさがあればこそなのだと言わざるを得まい。


 保護対象である丸裸の美女が映るモニターを凝視しながら、妖精に魔力を注ぎ込むその背中には、領主としての重責と覚悟を、ただひたすらに感じるのだ。


 この作業はしばらく続いた……



 ——感知出来ないんだけど何処にいるの?

ノールブークリエ】の方々がご到着よ


 グレモリーから強めの【思念伝達テレパシー】が脳に響き渡り、テツオを一気に現実へと引き戻す。


 ああ、いいとこだったのになぁ。

 ん?もう五時か。

 割と早かったな。


 領主の仕事は、次から次へとやってくるのだ。


ノールブークリエ】の団長ソニア、サルサーレから移転したギルド職員ラーチェと合流し、この街のギルドで【ノールブークリエ】の団員達が冒険者として活動できるよう手続きをしてもらう。


 その団員達には今日一日移動で疲れたと思うので、グレードの高いリゾートホテルのベッドルームを提供した。

 明日からは、空き家になっている貴族の屋敷を使ってもらう事にしよう。

 敷地も広いし、城やパークも近いから便利だろう。


 この領主の迅速な対応力、決断力には、頭が下がるばかりである。


 領主自ら街を案内しながら、ぞろぞろと団員達を引き連れてパークに向かって歩いていく。


「街の治安が悪くなっているという噂があったが落ち着いている。

 いやむしろ、賑わっているな」


 ソニアが話を振る。

 反乱軍の件を説明し、大変だったと嘆く我らがテツオ。


 何故か団長にはついつい甘えたくなるから不思議だ。

 包容力に身を委ねたい。


 領主には癒しが必要なのだ。


「この街では私達の仕事が無くなったのかもしれないな。

 もちろん、平和なのは何よりだが」


 ソニアがそう言うと、後ろを歩くデカ鼻リヤドが否定する。


「テツオの話を聞く限り、まだ解決はしてないんじゃないか?」


 目つきの鋭い団員ヴァーディが続ける。


「ああ、間違いなくその兵士や領民を扇動した奴がいるだろうな。

 そいつが次に何を企んでやがるか」


 もし黒幕がいるとして、けしかけた反乱軍が制圧されてしまい、更に兵士まで寝返った状況で他に何が出来るというのだろうか?

 カンテが恐れ多くも領主の考えに近い意見を述べる。


「革命が失敗したら、僕だったら尻尾巻いて逃げちゃいますけどね。

 捕まったら死刑だし」


「悪魔ならまだしも、黒幕が人間ならテツオにまだ挑もうって奴はいねぇかもしれねぇな!

 ハハハ」


 ヴァーディが意見をコロリと変える。

 こいつ、大丈夫か?


「今夜は精鋭で街を巡回しよう」


 心配したソニアが提案するが、領主はやんわりと断る。


「いや、今夜はゆっくりと休んで下さい。

 近々、城から使いの者が来るみたいなので、次狙うとしたらその時でしょうし」


 話し込むうちに一行はテツクロリゾートに着いた。


「す、凄いな」


「ああ、やべぇ」


「こんな規模の建物、僕見た事ないですよ」


 リヤド、ヴァーディ、カンテと三人が口をあんぐりと開け唖然としている。

 他の百人近い団員達も驚いている。

 その反応を見て、領主は満足そうに微笑んだ。


 別途料金が必要な高級クラブやカジノなどの施設以外は、全エリア出入り自由だと伝えると、団員達から歓声が上がった。

 旅の疲れはどこへやら、我先へと各パークへと向かっていく団員達に、団長は呆れて肩を竦めた。


「テツオ、色々済まないな」


「いえいえ、みんなが来てくれて心強いですよ。

 団長も遊びに行きますか?」


 ソニアは困った顔で笑った。


「私は止めておくよ。

 ガラじゃないしな。

 それより、ここへ向かう道中に気になる事があったんだ。

 今からギルドに行かないか?」


 街の最奥にあるテツリゾまで来て、また街の入り口のギルドまで戻ろうという女団長。

 だが、生きとし生ける全ての美女に優しい領主様は嫌な顔一つせずに快諾し、再び来た道を引き返す。

 なんて寛大なんでしょうか。


 紫がかった長髪にスラリとした長身、切れ長の綺麗な目。

 それだけで街の男性の熱い視線を独り占めにするソニア。


 黒皮のジャケットとパンツの上に、脛と腕だけに簡易的な嵌め込み式の白金製の鎧を装備している。

 体部分の守備力が低いのは、彼女の使う武具が巨大な盾だからだ。

 今は魔法で縮小されているが、彼女の短縮詠唱で瞬時に体より大きい盾を展開する事が出来る。

 その大盾の守備力は途轍もなく強固だ。


 盾が主武器とはいかにも彼女らしい装備である。

 人を殺さない団規が、彼女に盾を選ばせた理由だろう。

 団長はひたすらに優しい。


 今朝も戦闘中、団長の顔が浮かび上がり、怒りを抑える事が出来た。


 テツオはソニアをチラチラと見ながら、本当に団長に出会えて良かったなと頭の中で感謝した。

 簡単にそれを口に出して伝える事ができるのなら苦労しないが。


 ただ、様々な悪意に満ちているこの世界で、その優しさがどこまで通用するのかは不安になる。


 そういや一度、抱いたんだよなぁ。

 引き締まった腰やロケット砲二基を見ながら、テツオはあの夜を思い出そうとしていた。

 三大巨乳の一人、砲乳のソニア。

 どんな感触だったろうか?


「テツオどうした?

 ギルドに着いたぞ?」


「ええ、少し考え事を……」


 領主は考える事が多いのだ。



 ——冒険者ギルド・ジョンテ領本部


 建物自体はサルサーレの街とほぼ同じ造りになっている。

 各地を転々とする冒険者に利用しやすくする為だろう。


 金等級ゴールドであるテツオとソニアは、ラーチェの案内でそのまま三階へと上がっていった。


 階段を登るラーチェの尻。


 戻れないと思っていたあの頃。

 でも、戻ってこれた。

 戻ってきたんだ……


 中身を見てしまったが。

 裸を見てしまったが。

 目の前の、スカートに窮屈そうに収まる尻が左右にプリプリ動く度、俺の覗きたいという好奇心を蘇らせた。


 また中身が見たい。


 隣では、ソニアの長い脚がスイスイと階段を上がって行く。

 逞しく引き締まった戦士の尻。

 とはいえ程よい柔らかさも内包している。

 ピシャリと叩くもよし、優しく撫でるもよし。


 また中身が見たい。


 エロい妄想を膨らませている内に、残念ながらあっという間に三階に到着してしまった。



 自分の活動拠点を他の街へと移すと、新たに個室が与えられる。

 ソニアが個室を拒否したので、テツオの個室に三人で寄り合う事にしたようだ。


 ちなみに三ヶ月ギルドに戻らない場合、個室は破棄される。

 死亡したり、行方不明になったり、拠点が変わったり、理由は色々とあるが。

 クランに所属する冒険者はあまり個室を必要としない為、更新し忘れる事が多いらしい。

 もし三ヶ月以上掛かる依頼を受けた場合は、専属担当者に伝えておけば大丈夫だ。


「我々は今日ここに着いたばかりなんだが、サルサーレ領と違い魔物が多いな。

 特に山沿いの森に危険度の高い恐竜が数体、確認出来た。

 あれはこの地域に棲息するジョノニクスだろう。

 ラーチェ、討伐依頼はどこのクランが受けてる?」


 ソニアがラーチェに訊ねる。

 ラーチェがギルド指定の討伐依頼が記載されている分厚い冊子を広げ検索する。


「え?恐竜なんているの?」


 勿論だ、とソニアが即答すると、簡単に説明してくれた。

 ギルドに登録されている討伐対象ターゲットには、肉食獣などの動物や、魔物、魔獣以外に、古代種が存在する。


 古代種で危険度が一番高いのが竜。

 高い知能を持つので、悪魔すら近寄らない存在らしい。

 竜より危険度はぐんと下がるが、恐竜は動物界の頂点に君臨し、巨体でありながら獲物を捕食する為の数々の技を持つ。


 ギルドは魔獣討伐以外に、恐竜討伐も最重要任務とし、領地を守る為、クラン単位で協力を仰いでいる。

 依頼を受けれる基準は金等級ゴールド

 同行出来る等級クラスは最低銀等級シルバー

 四人以上のパーティーを推奨している。


「生活圏にまで出没した恐竜は早く叩かないといけない。

 近くに巣を作られたら、街を襲うようになり後々面倒だ」


 恐竜は巣を作るらしい。


「調べましたが、この街にはアレを討伐出来るような力のあるクラン、つまり金等級ゴールドが在籍するクランがないようです。

 没貴族が原因で移住したのかもしれません」


 この街には強いクランが無いらしい。


「ここを拠点とする金等級ゴールド冒険者は何人いますか?」


 領主の問いに、ラーチェは一人しかいませんと残念そうな顔をして告げた。

 その冒険者はクランには所属していない一匹狼のようだ。


「よし!

 では、明日にでも早速討伐しにいこう。

 テツオも忙しいだろうが暇があれば来てくれ」


 領主の業務を慮ってくれているようだ。


「テツオ様も要請受けておきますか?

 勝手に行っちゃダメ……ですよ」


 ラーチェが依頼手続きを進めながら領主に釘を刺す。


 正直、恐竜をこの目で見てみたい。

 前世では化石しかなかった。

 こういう記憶はあるんだよなぁ。


「じゃあ、俺の手続きもしてもらっていいですか?」


「はい、わかりました!」


 久々の冒険にワクワクするな。


 それより、目の前に二人の美女がいるのに手を出せないのが辛い。


 どっちでもいいから二人きりになりたいよー。

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