第47話アーニャ
【
前回より規模が段違いに大きく、人数も倍以上に多い。
新団員が百名以上増えたのと、新領地に行く為の人材をホームに呼び戻したのもあり、どうしても外せなかった重要任務の団員を除いても、総勢二百人以上が集まっていた。
百人座れる食堂のキャパシティを大幅に超えてしまっている。
なので、今回は食堂から続く中庭を宴会場として開催していた。
庭には身長の倍以上はある巨大なキャンプファイヤーが焚かれ、大盛り上がりの団員達の顔を明るく照らしている。
すでに酔っ払いは多数だ。
クラン所属のシェフではこれだけ多人数の料理を賄いきれないので、今夜は特別に街一番の酒場バッファロー・テリーの店員達に来てもらっていた。
料理の味はどれもが間違いない。
恐らく店主テリーには酒が進む料理スキルが備わっているのかもしれない。
バッファロー・テリーのウェイトレスお姉ちゃん達、略してテリーズはいつにも増して露出度が高く、ビキニとショートパンツだけの過激セクシースタイルだ。
色んな肉がはみ出しまくってやがるぜ!
三人とも見たことがある子達だ。
一回ずつお相手して欲しいところだが、相当経験豊富そうだし、多分、口も軽そうだから(マッサージを)ヤッてしまったら話のネタにされかねない。
目で楽しむくらいが丁度いいんだろう。
食堂側の出入り口にもたれ掛かり、エロく動き回るテリーズの肢体を眺めていたら背中からビチャッと肩を叩かれた。
振り返るとトイレを済ませた後のヴァーディがいた。
ビチャッてなんだよ?
俺の五万ゴールドもした服を手拭きに使いやがって!
「おいテツオ!おせぇじゃねぇか!
みんな待ってたんだぞ!」
本当かよ。
みんなエロムチテリーズとテリーの料理に夢中じゃないか。
「いい服着てるじゃねぇか!
馬子にも衣装だな、ハハハ!
さぁ、団長の元へ早く行きな」
ヴァーディに背中を押され、演説用に作られた立台の元へ向かう。
ヴァーディはそのままフラフラとテリーズの元へ酒を貰いに行き、ついでに尻を触り、ビンタを頬に食らっていた。
俺も触りたいなぁ。
団長の元へ来ると、モーガン爺様とリヤドが見た事無い笑顔で立っている。
ここもどうやら目線はテリーズだ。
「どいつもこいつも鼻の下を伸ばして困ったもんだ」
呆れた団長が座ったまま、手元のグラスを一口であおる。
強そうな酒の匂いが鼻を刺激した。
クランには女性団員が二十人くらい在籍している。
貴族になるのだから立ち振る舞いには気を付けよう。
「さぁ、始めるか」
団長が立台に登り、パンパン!と大きく手を叩いて注目を集める。
まず、ソニアは新団員の入団を歓迎した。
流れで教育係のモーガンを紹介する。
団長から既に伝えてあるが、団の規約をしっかりと守るようモーガンが念を押す。
次に俺がお立ち台に呼ばれる。
団長が腐敗した貴族に苦しめられた歴史を語り、それが俺の働きにより解決した事を簡単に説明する。
そして団初の貴族、
大きな拍手と歓声が中庭に鳴り響く。
音楽隊がファンファーレを鳴らすと、水や火や光などの放出魔法が空に大量に打ち上げられた。
闇夜に幻想的な光景が照らし出され、酔っ払いまでもが魅入っている。
なんて綺麗なんだ。
しばしその光景に目を奪われていると、【
やられた!
完全に気を抜いていた。
正面からリヤドにまで酒を掛けられる。
え?お前そんな事するタイプなの?
五万もする服がビチャビチャだよ、もう。
全身ずぶ濡れやん。
モーガンはソニアを避難させ、離れた位置で大笑いしている。
会場中が酒の掛け合い祭りで盛り上がりだした。
二百人で一斉に酒をぶちまけるって一体幾ら無駄にするつもりなんだよ。
高みの見物が癪だったので、【水魔法】を発動させソニアとモーガンに向けて水球をぶつけ、びしょ濡れにしてやった。
道連れだ。
「お!テツオ、やるじゃねーか!
おい爺様!風邪引くんじゃねーぞ?
ハハハハハ!」
ヴァーディが異様に喜んでいる。
逆にリヤドとカンテはビビりだした。
爺様に手を出したら不味かったのか?
そういうの、やめてよ。
モーガンが凄いスピードでヴァーディの首根っこを捕まえブンブン振り回す。
「やーめーろー!じーじーいー」
あのヴァーディが子供扱いだ。
最後はポイッと投げ捨てられ空の酒樽に頭から突っ込んだ。
死んでないよね?
「爺様は
決して怒らせてはいけない。
前団長も生前怒らせて一発でのされたらしいからな」
リヤドが俺にボソッと耳打ちする。
何だよ、そんな怖いの?この爺さん。
見てみるか。
【解析】
モーガン
年齢:53
LV:62
HP:3050
MP:80
え?
レベル高ぇ!
リリィが確かレベル65だったから英雄に匹敵するレベルがある。
というか体力3000超えって、人間の限界突破してない?
戦士長アムロドより体力150高いぞ?
人間でもこの高みにまで到達出来るのか。
爺様に敬意を表したい。
それよりも年齢五十三歳で爺扱いはないんじゃないか?
十三歳で成人の世界だから仕方ないか。
いかんいかん、数値にいちいち左右されたら駄目だ。
ヴァーディが派手に吹っ飛ばされ、周囲が静まり返ったので、リヤドが手を上げる。
合図で音楽隊が穏やかな曲調に切り替えると、大半が落ち着いたのか各々椅子に座り、歓談や食事に戻った。
ただ、半数はまたどんちゃん騒ぎを再開する。
ヴァーディが事あるごとにモーガンにのされるのは子供の頃からだそうで、どうやら日常茶飯事らしい。
モーガンなりの可愛がりだ。
魔法で服をさっと乾かしたが、酒の匂いまでが取れないのでジャケットを脱いで、食事を取る事にする。
バッファローテリーの料理の美味そうな匂いに刺激され急激に腹が減ってきたようだ。
「ガハハ!やっぱりホームは最高だなぁ!」
どこかで聞いた事があるような声がする。
ふと声がした方を見ると、見た事ある三人組が立っていた。
誰だっけ?
「やはり、クランに入ってくれたんだな」
「えっと、どちらさんですか?」
「なんと!我らを覚えていないと申すか?」
魔法使い風の男が、天を仰いでいる。
大袈裟な奴だな。
「俺らだよ!兄ちゃん!スーレの村でボコった戦士を覚えてないか?」
あ、思い出した。
スーレの三馬鹿か。
嫌な事は忘れたい派なんだよね、俺。
「思い出してくれたみたいで安心したぜ。
あれから数日も経ってないのに、もう
戦士のおっさんに続いて、ナイフ使いが話しかけてくる。
せっかくの宴会がおっさんに侵食されちゃうよー。
「私はナイフ使いじゃなくて、【
いや、そうじゃなくて、我ら三人も新領土へ行ってテツオ殿の力になりたいと思っている。
どうか今後ともよろしく」
「こちらこそよろしくお願いしまーす」
一応、さっと感謝を述べて話を終わらせる。
腹が減ってるんだ、食事をしよう。
話はまだ終わってない、と戦士が詰め寄ってくる。
だから怖いんだってばぁ、いかつい顔のおっさんが近寄ってきたらさぁ。
あからさまに不機嫌な顔で振り返ると、おっさんが困った顔になる。
あ、良くないのは俺の方か。
「実は兄ちゃんにどうしても会いたいって奴を連れてきたんだ
もちろん、危険は伝えたんだぞ?」
ん?何を言っているんだ?
おーい、とナイフ使いが誰かを呼ぶと、奥からとトテテッと女の子が駆け寄ってきた。
こ、この子は!
「ア、アーニャ?」
なんでこんなところにアーニャが?
スーレ村の道具屋の娘がなんでここにいるんだ?
アーニャの肩を押して食堂へ向かう。
背後にソニアの視線を感じたが止むを得まい。
「テツオ様、会いたかったです」
食堂に入ったらすぐにアーニャが抱きついてきた。
ま、まずいって。
【転移】
クランホームの自室に転移する。
残念ながら何も手配していないのでテーブル、椅子、ベッドしかない。
枕も布団も無い。
アーニャは俺を探して宿屋へ行き、あの三馬鹿に話を聞き、サルサーレに丁度帰還する際に同行したという。
「テツオ様に空へ連れて頂いた時に上空から小さな村を見て、もっと広い世界が見たいって思ったのです」
俺のせいか。
非日常的な景色を見せて、田舎じゃ満足出来ない体にしてしまったのだ。
田舎娘が都会への憧れを抱くのは良くある事だしな。
だが、クランに入るのはちょっと無茶じゃないか?
「でも、アーニャが冒険者になるのは俺は心配だ。
広い世界なら俺がどれだけでも見せてあげるぞ?」
そう説得してみたが、アーニャの気持ちは固かった。
例の三馬鹿とこちらに向かう道中、魔物に襲われ怪我をしたあいつらを、後衛から道具を使って回復させ命を救ったらしい。
後方支援なら役に立てると息巻いている。
「でも、テツオ様が駄目って言うならやめますけど……」
茶色の癖毛をクルクルと指で弄りながら、俺の反応を伺うアーニャ。
この癖、結構好きだなぁ。
腕を組み、暫し思考する。
後方支援か……
それならまだ安全か。
怖くなったら辞めさせたらいいしな。
「許可しよう。
だが、まずはここでしっかりと訓練してからだぞ!」
「やったぁ!
ありがとうございます、テツオ様!」
満面の笑みを浮かべ、俺に飛びかかって抱きつきキスをしてくる。
アーニャのえくぼが堪らなく可愛い。
アーニャの顔を両手を挟み、二人の関係は内緒だと念を押す。
あと、危険時にすぐ駆けつけれるよう耳に魔石ピアスをつけておく。
念には念を、だ。
これでスーレに行くより、クランにいる方が後輩団員を呼び出し指導するとかの名目で、アーニャとトレーニングしやすくなるだろう。
もしスーレの村に危険が迫ったとしても、もうアーニャやエナは居ないんだから、そこまで心配する必要も無いしな。
「マッサージして欲しいです、テツオ様ぁ」
安心したのか、甘えた声を出して俺にもたれ掛かってきた。
ずっと奥手だと思っていたが、こんな事を言えれるようになったのか。
急にムラっときて、アーニャを押し倒した。
危険を冒してここまで会いに来てくれたんだから、たっぷりと可愛がってやろうではないか。
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