第12話デカス山脈

「お、おはよう。やっぱり宿にいたのね」


 不意に後ろから声を掛けられ振り返ると見知った女がいた。

 どうやら強制イベント発生のようだ。

 確かスカーレットとかいうお姫様だったか。


「貴方これからどちらへ行くつもりかしら?」


 スカーレットを無視して歩き出す。


「ちょっ、ちょっと待ってよ!」


 引き止めるように腕を組んでくる。

 胸が当たって悪い気はしないが、触らぬ神に祟りなしだ。

 軽く距離を取る。


「お姫様は勇者を探してるんですよね?

 俺なんかと一緒にいても見つかりませんよ?」


「勇者は……もういいの。

 それに貴方といればいつか会える気がするし。

 …………貴方の事もっと知りたいし」


 最後なんか小声で言ったぞ?

 困ったな。

 マジで一緒に来るつもりか?

【転移】で撒く事も可能だが。

 ……ふむう。


「まぁ、いいでしょう。

 少しだけパーティを組んでもいいですよ。

 その代わりにこの世界の事色々教えてもらいますね」


「本当!?ありがとう!

 ……えっと、私の事はリリィと呼んでちょうだい!

 貴方のお名前は何ていうの?」


「テツオです」


「テツオね。

 あと自分より強い人に敬語使われるの癪だから敬語はやめてね。

 じゃあ改めて、宜しくテツオ」


 可愛い笑顔が朝日のせいか眩しい。

 素材はいいんだよなぁ。

 高貴なオーラもびんびんに感じるし。


「じゃあ、敬語は使わん。

 ちょっとそこで待ってろ」


 さっと宿屋に行って戻ってくる。


「おい、行くぞ!」


「いきなり言葉使い悪くなったわね。

 まぁ、いいんだけど。

 で、どこに行くつもり?」


 西に向かって指を指した。



 ————————




 そこは雪国だった。


 完全に舐めていた。

 デカス洞窟を抜けると雪山に繋がっていたようで、寒波に凍えながら何故か頂上を目指していた。


 これは意地である。


 俺に着いてくると言った以上、それ相応の覚悟を見せてもらわねばならない。

 これはリリィへの試練である。


 そこへいくとサーベルウルフは雑魚だった。

 リリィに全て一撃で倒されてしまうという体たらく。

 まぁ、レベル65の聖騎士がレベル10程の狼にビビる道理もない。

 サーベルウルフの牙をいそいそ集めていると依頼品だと一発でバレてしまったが、


「か、金になるのかなー?これー?」


 と、華麗にかわした。


 デカス山脈は険しく鋭い山が連なっている。

 眼下に雲海が広がる断崖絶壁の細い足場を恐る恐る渡るリリィ。

 下から吹き上げる強風でスカートが捲れ上がるが本人は必死で気付いていない。

 眼福眼福。


「引き返すなら今のうちだぞー?」


「引き返せるわけないじゃない!これどこまで行くのよ!」


「もちろん、頂上までだ」


「えー」


 上品な話し方は何処へやら。

 確かに道のりは厳しい。

 急勾配に加えて殆ど雪に覆われ道らしき道も無い。

 剥き出しの岩が行く手を阻み、元より人が登る山では無いのだろう。

 岩石を魔法で砕きながら道を作る。


 リリィを見ると唇や足が紫がかってきている。

 彼女の活動限界は近そうだ。


 しばらく登ると両岸を急な岩壁に挟まれた谷に着いた。

 ゴルジュというんだったか。

 少し落ち着けそうかもとリリィが少なからず安堵している。

 上を見上げると岩壁がどこまで続いているか分からないくらい高い。


 ん?何か岩が動いた気がしたが。


【探知】


 成る程な。


「おい、先へ急ぐぞ」


 少し休みたいと文句を言うリリィを急かし先に歩かせる。

 不意に岩壁が突如動き出し何本かの巨大な毛むくじゃらの足がリリィに襲いかかった。

 寒さで体が悴んでるのか、それに対する反応が遅い。

 残念。

 太い足に吹き飛ばされ、そのまま向かい側の岩壁に叩きつけられた。

 更に、予め発射された糸に絡め取られ、グルグル巻きになるというこの手際の良さは熟練の技。

 もはや職人芸ともいえよう。

 岩壁に擬態する3メートルはあろう巨大蜘蛛に、あっさりと捕まってしまった。


「キャー!蜘蛛苦手なのよー」


 糸のミイラとなったリリィが、隙間から叫んでいる。

 英雄といえどこんなもんか。


【解析】

 ゴルジュスパイダー

 LV:48

 HP:1600

 MP:130


 蜘蛛もそこそこ強いが、まともにやればリリィの方が強い筈なんだがなぁ。

 擬態からの蹴り、糸吐きのコンボ技が凶悪だ。

 あ、噛まれた。

 このままじゃ蜘蛛の毒によりやられてしまうだろう。

 助けるか。


火球ファイアボール


 蜘蛛に直撃する。

 が、甲羅の様に体を纏う岩肌が【火球】を弾き飛ばす。

 擬態でもあり防御でもあるのか。

 などと関心している場合じゃない。

 早く退治しなければ。


【土魔法:水晶剣クリスタルソード


 案外突き詰めると土魔法は便利だ。

 選べる素材に限りはあるが、大きさや形をある程度自由に創り出す事が出来る。


 空中に、計10本の光り輝く水晶の剣が浮かび上がる。

 蜘蛛目掛け手を振り抜くと同時に、蜘蛛の胴体に10本の剣が全て突き刺さる。

 岩レベルの硬度では防ぎようがない。

 岩壁にへばり付いたまま標本の如く串刺しになり、ゴルジュスパイダーは呆気なく絶命した。


 落下してくる繭と化したリリィを受け止め、絡み付いた糸を剥ぎ取る。

 あらん?

 ダメだ。かなり衰弱している。


 仕方ないな。

 特別に風呂に入れてやろう。


 一瞬で透明な水晶の壁で四方を囲み、浴槽を創り出し温水を貯めた。

 リリィを裸にして一緒に浴槽に入る。

 雲海を望む素晴らしいロケーションに可愛らしい裸のお姫様。

 男なら誰もが羨むシチュエーションだろう。


 冷え切っていたリリィの身体は徐々に体温を取り戻しほんのりと頬がピンク色となってくる。

 これも偏に俺が後ろから丹念にマッサージしたお陰であろう。

 すると、何という事でしょう。

 もたれ掛かる体勢から、顎を上げキスを求めてくるではありませんか。

 これは流石の匠も拒む訳にはいかなくなりました。

 そのまま匠の匠を匠する匠。

 つう、とお湯に一筋の赤い線が浮かび上がってくるのは、匠だからこそ為せる技。


 なんか初めて多くね?

 慌てて【回復】を掛け、痛みを取り除く事に成功。

 ゆっくりと馴染むようにマッサージを繰り返す。

 堪らず身体をくねらせて逃げようとするリリィをホールドして乱暴にフィニッシュ!



 ふう、ヤッてしまった。

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