第9話騎士姫
他にも可愛い女の子がいないかと商店通りをブラブラした後、ぼちぼち空が暗くなってきたので宿屋に戻る。
長くなりそうな夜の戦の前に先に飯を済ませておくか。
あの酔っ払いパーティがいるからあんまり行きたくないんだよなぁ。
いなきゃいいなぁ。
宿に入るやいなや、ガハハハ!と大きな笑い声が響く。
あ、やっぱりいた。
仕方ない、なるべく奥のテーブルに行こう。
食堂のごついおばちゃんが料理を運んでくる。
トロトロに柔らかくなった肉とゴロゴロ野菜の煮込みだ。
パンとも合うが、酒が飲みたくなってくる味に我慢できずビールを注文する。
美味い!戦闘して汗をかいてるからか酒が身体中に染み渡る。
あっという間に三杯目に突入してしまう。
これは飲まなきゃやってられないあいつらの気持ちがちょっと分かるかも。
おっと待ち合わせの時間に遅れてしまう。
急いで立ち上がろうとしたら、トイレに行こうとしてた酔っ払いの戦士にぶつかってしまう。
しまった!
「あ、すいませ」
謝罪を言い切る前に胸ぐらを掴まれたまま壁に叩きつけられる。
凄い腕力だ。
「調子こいて酒飲んでんじゃねぇぞ!コラ!」
まったくもって理不尽な絡みだ。
待ち合わせに遅れたくないしもう一度謝ろうとしたら、
「冒険者になりてぇのか?俺が稽古をつけてやろうか?」
などと言われ外に連れていかれた。
ニヤニヤしながら後の二人も同行する。
俺も酒が入ってるせいか段々とイラついてきた。
やってやろうじゃねぇか。
騒ぎを聞きつけた野次馬が数人こちらを伺っている。
あんまり目立ちたくないんだよなぁ。
時間戻そうかなぁ。
「武器は持ってねぇのか?」
「なんだ、案外優しいんだな」
宿屋の側に転がっている棒切れを拾いあげ戦士に向けて構える。
「これでいいか」
「ふざけやがって!」
戦士が雄叫びを上げ大剣を構えて突っ込んでくる。
どうせ魔法使うだけだから武器はどうでもいいんだが。
戦士の攻撃はとても遅かった。
グッと魔力を込め棒切れを戦士の足元に向かって薙ぎ払う。
ボギギッ!
「ぐわぁ!」
両足の骨が折れる嫌な音がした。
戦士が地面でのたうち回る。
魔力を込め過ぎたか。
すかさずナイフ使いが投げナイフを、詠唱を終えた魔法使いが火の魔法を放つ。
見えないくらい薄く創った風の障壁により俺には何も届かない。
「弱いなぁ。
そんなんで本当に魔物がここに来たら防衛出来るのか?」
「なんて事だ。
我々は
「冒険者じゃないとしたら、どこかのお抱えか?
と、とにかく、我々は降参だ!」
二人の酔っ払いは狼狽しながら戦士を介抱に向かう。
回復してやりたいがそんな魔法あったかな?
【光魔法:
唱えた瞬間、戦士の身体を光の膜が覆い、程なくして戦士は何事もなかったかの様にむくっと起き上がった。
酔いもすっかり醒めている様で驚いている。
【回復】すげえ。
「貴方達、何をやっているの!?」
不意に後ろから若い女の声がする。
振り返るとそこには白い礼服の上に白銀色の鎧を纏った気品ある女性が立っていた。
声には少々怒気が混じっている。
冒険者が驚いたように彼女の名前を叫んだ。
「アディレイ国の
「何故こんなとこに?」
どこの誰か全く分からない……。
青く長い髪を二つに束ね、大きい緑の瞳をしており上品さを醸し出す可愛い顔。
村人風情には出せない気品だ。
だが彼女を見ていると何故か胸がズキズキと痛む。
何故だ?
「見たところ三人がかりで駆け出しの冒険者を虐めてるところかしら?
しかもこんな小さな村で。
関心しないわね」
スカーレットとかいう女が剣を抜こうとすると魔法使いのおっさんが手を挙げて慌てて訂正する。
「待て!もう勝負はついたのだ!
我々の完敗だった!」
「なんですって?」
スカーレットが俺をジッと値踏みするかの様に観察する。
「
まさか!?
もしかして貴方この村に住むエナって女性と知り合いじゃない?」
エナ?あぁ、井戸で水汲みしていた村一番のパツキン美女だ。
知っているというと、やはりと何か得心いったような顔で頷く。
「もしかしたら私がずっと探している人なのかも。
勝手なのだけれど、少し手合わせしてもらえないかしら?」
あ!思い出したぞ。
こいつ俺を刺し殺したヤツだ!
胸がズキズキ痛むのは刺された記憶が残ってるからなのか。
待てよ?
そういえば、時のお姉さんの話じゃこいつは勇者を探しているとかじゃなかったか?
となると俺を勘違いしているという線もある。
ふむ、いいでしょう。
英雄とやらの力、見せてもらいましょうか!
で、サクッと終わらせてアーニャに会いに行かないと!
「わかりました。
ですが、ここじゃ村に被害があるやも。
丘まで行きましょう。
では、こちらへ」
野次馬を避け宿の裏へ誘導し人目が無いのを確認し彼女を伴って【転移】する。
丘の上まで一瞬で移動した事にスカーレットは驚愕している。
「え!?そんな!
貴方ほんとに何者なの?
今のは上位空間魔法じゃない!」
俺以外の人間を指定する事で複数人での同時【転移】に成功した。
成功するかちょっと不安だったが可能な様だ。
「ビックリされても困るんですよね」
「まぁ、いいわ。私が勝ったら教えてもらう事にする」
スカーレットが剣を抜くと青い光が全身を包み込んだ。
【解析】するに、剣による
【解析】
スカーレット
LV:65
HP:1700→2300
MP:130→260
レベルという概念が追加されたようだが65てどれくらいの実力なんだろう?
ちなみに魔女エリンはレベル130を超えていたからいまいちピンと来ない。
まぁ、今後比較していくしかない訳だが。
「構えは無しか。では、参る!」
スカーレットが俺に向かって一直線に飛んでくる。
人間って飛べたっけ?
エリンに教えて貰ってから独自に
エリン程のチートさは無いが、
更に致命傷又は戦闘不能を感知したら数秒間の【時間遡行】を猶予して完全な死を回避できる設定にしてある。
臆病な俺はもう完全な死を体験したくない。
本当は霧等を使っての攻撃無効が欲しかったがどうしても出来なかった。
流石は300年生きる魔女、至高の領域だ。
【
今思えば随分と臆病な
スカーレットの剣突を強化された棒で撃ち落とす。
剣を弾き飛ばすくらいは魔力を込めたんだが、スカーレットの剣技がそれをさせない。
高速で襲いかかる連続攻撃に防戦一方になる。
速度も
だが、これはどうだ?
空中にいくつもの魔法陣を展開し【
「な!攻撃魔法まで!?
突如空中に浮いた盾が具現化し、氷の矢の動きに合わせて次々と防ぎ出す。
何そのファンネル?
防御をする必要が無い分、剣撃が止まらない。
なんだこのスタミナは?
もういいや、ちょっと強い魔法を食らって貰おうか。
【
3メートルはあろう炎の塊が5発、対象を取り囲むように凄いスピードで襲いかかる。
痛いけど我慢してね。
怪我をしたら治してあげるからね。
「
スカーレットの剣が一際光ったと思ったら、巨大な火球を一撃で粉砕し俺の前に一瞬で現れた。
剣先は確実に胸を狙っており、既に棒で防ぐ余裕はない。
【土魔法:
防弾ガラス並の強度を誇る壁だ。
まさかこんな魔法があるなんてね。
恐ろしく硬い魔法、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
ガキン!
「な!?」
透明度が高くこんな暗い外じゃ見えなくてビックリするだろう?
「この剣技は魔法障壁すら貫通する。防御不能だ!」
止まった剣先から刃を象った光線だけが障壁を貫通して俺の胸目掛けて伸びてくる!
何だよ貫通って!反則やん!
し、死ぬ!!
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