第8話森の魔女③

 なんて目で人を見やがるんだ。

 悪魔はみんなこうなのか?

 本当に心が見透かされているようだ。

 だが、目をそらすと負けだ!負けな気がする。

 が、エリンに話しかけられて我に帰る。


「テツオ、わらわは長年【時空魔法】を研究してきておる。

 テツオの事を思い出せるように記憶を魔力により固定する記憶魔法タグ付けを掛けた。

 これは簡単に言うとわらわと会う前に時を戻そうが、わらわはもうテツオの事は忘れはせぬ。

 記憶が魔法によって時空を超えて呼び起こすのじゃ。

 時の流れが違う異次元から使い魔を召喚する際にも使われる魔法の応用じゃな。

 これでわらわとテツオの時間軸がズレる事は無い。

 が、記憶の効果時間もあるゆえ、三百年前のわらわに会ってもわらわはテツオを思い出せぬじゃろう」


「なるほど」


 その後色々な話をしながらゆっくりとした食事を終え、いよいよ帰り支度をし始める。


「また来るよ」


「もちろんだ。わらわの貞操を奪った以上テツオには責任があるからな」


「う、うん」


「ま、まぁ、たまに思い出して顔を見せに来れば良い。

 そうじゃ、使い魔を連れて行くか?」


「え?ベルを?」


「うむ。ベルはわらわと魔力同期シンクロする事が出来るからな。

 家事、戦闘、暗殺、密偵、夜伽なんでも出来るぞ。

 それに他の女を抱かれるくらいならベルを抱く方がわらわも嬉しい」


 へ?その感覚が分からないが。


「うーん、今はまだ大丈夫かな。

 それに借りたい時はまた顔出しに来るよ」


「そ、そうか。また会いに来るんじゃぞ!」


 エリンの館を出て森の入り口に【転移】した。

 森の中が暗かったから分からなかったが、外はもう真っ暗だった。夜だ。

 夜ってだけで何時かは分からない。

 時計あるのかな?

 なんか森探索だけで一日が終わるってのも勿体無いなぁ。

 エリンが俺の事を魔法によって忘れないというのならキュアフラワーを倒した時くらいに戻ってみようか。


時間遡行クロノススフィア


 一気に空が明るくなった。おそらく昼くらいか。

 そういえばと思い【収納】を見てみる。

 おお!キュアの蜜、魔石、ハイブラッドの蜜がちゃんとある。

 身に付けている物や【収納】の中にある物は【時間遡行】の影響を受けずに残る事が分かった。

【収納】にはエリンが言っていた【魔法記憶タグ付け】が自動でされているようだ。


 では依頼達成したから宿屋に報告しに行こう!

 来るときは一時間以上歩いたが、帰りは【転移】があるから楽勝だ。

 とはいえエリンからの情報では、この世界では【転移】はあまり頻繁に使われるものではないらしい。

 特権階級の施設、あるいは一握りの魔法使い、魔法具マジックアイテムを持つ者と、【転移】が使える者は限られる。

 未だ冒険者ですらない変なファッションした俺が突然村に【転移】なんかして現れたら目立って仕方ないだろう。

 村外れの馬小屋の裏に【転移】する。

 周りには誰もいない。

 セーフだ。


 宿屋に入りカウンターに手で持てる限りのキュアの蜜が入った容器をゴロゴロ置く。


「こんなに早く達成するとはやるな!

 しかも、こりゃたくさん取ってきたもんだ

 」


 計12個で600ゴールド獲得だ。

 ついでに魔石とハイブラッドの蜜も出してみた。


「これもお前が採ってきたのか?

 残念だがうちには該当する依頼は無いようだ。

 でかい街に行けばそれらの要請依頼はあるだろうし、高値で買い取ってくれる道具屋もあるだろう。

 魔石は銅等級ブロンズ依頼。そっちの蜜は銀等級シルバー依頼の価値はある。

 覚えといたらいい。

 にしても兄ちゃん、見た目より凄え奴なんだな」


「あ、そういや、宿代タダにしてやる約束覚えてるか?

 今夜はうちに泊まっていきな。晩めしも出すぜ」


 はぁどうも、とペコペコしながら、話を聞き流しつつ、金を受け取る。

 この世界で初めて金を入手した瞬間だ。

 やりました!俺!

 サラリーマンして稼ぐより不思議と達成感がある。

 冒険者面白いかも!


 宿屋を出ようとすると、奧から声がする。

 例の冒険者パーティの声だ


「こんなちいせぇ村で冒険者ごっこたぁ精が出るもんだぜ!なぁ?」


「ああ、大したモンだ!俺らはここで酒飲んでるだけで1日1000ゴールド貰えるんだからなぁ」


「俺らの護衛でこの村の安全は守られてるんだからな。酒くらい飲まないとやってられないさ」


 こいつらずっと酒飲んでるだけじゃねぇか。有事の際は大丈夫なのか?

 ちょっとイラッとしたがここで目立つのは良くない。

 酔っ払いの話のネタにされたに過ぎない。

 だが、この事は忘れないでおこう。


 宿屋を出て、ずっしり入った金貨の袋を握りしめ、商店通りに向かう。

 この世界に住むにあたって違和感の無い服が欲しい。

 あと、物の価値を詳しく知りたい。

 村レベルではあるが、ある程度基準にはなるだろう。


 武具屋らしい店に入ってみる。

 想像より全然細っそりとした村人が店頭にいた。

 商人なのだろう。

 ガチムチの元冒険者とか、宿屋のいかついおっさんみたいなイメージは、どうやら固定観念だったようだ。


 レベルの低そうな武器防具が、種類毎に乱雑に木箱に入って販売されている。

 鉄で出来た剣とか、皮で出来た防具とか【解析】するまでもない。

 値段は、剣も防具も200ゴールドらしい。

 200か。宿一泊の4倍。よく分からないな。

 防具なんていらないから何かしら服がほしいな。

 服を探すと、重ねて何枚か置かれていた。

 上下好きな色の組み合わせで25ゴールド。

 宿一泊の半分。安いな。安いのか?


「いらっしゃいませ。

 不思議な服を着てらっしゃいますね。

 素材もデザインも見たことがございません。異国のお召し物でしょうか?

 して、今日はどういったものをお探しでしょうか?」


 物腰の柔らかさは印象がいい。

 相談させてもらおうか。


「確かにこれは異国の服で、ここでは目立って仕方ないんです。

 服や靴などを何か見繕ってくれるとありがたいんですが。

 一応冒険者を目指してます」


「分かりました。こちらなどいかがでしょう?」


 しばらく待っていると商人は落ち着いた色合いの服にベルトの付いたズボン、皮の手袋、靴、胸当てを持ってきた。


 俺が今着ている服に色が近い物を用意してくれたようだ。

 試着室の様な部屋がちゃんとあったのでそこで着てみると意外にしっくりと身体に馴染む。

 想像以上に軽くて動きやすい。

 見た目がどんな感じなのか気になり店の中をキョロキョロしてみたが鏡は無かった。

 まぁしかし、これでどこからどう見ても冒険者にしか見えないだろう。

 ちなみに全部で100ゴールドだった。

 時間を戻せば金を払わずとも装備は揃うが今回は払っておこうか。

 気持ちのいい買い物だったからな。


 武具屋を出て、次に道具屋に入る。

 若い娘が店番をしているようだ。

 陳列された商品を見つつも、気になって娘の方もチラチラ見てしまう。

 茶色の髪に肩まで届かないくらいの癖っ毛に茶色の目、笑うとチャーミングなえくぼがそそられる。

 胸の大きさはそこそこか?

 なかなかいい道具屋じゃないか!


 液体が入った瓶や、草の入った袋などが、棚に所狭しと陳列されており、値札はあるが商品名が記載してない為、何が何か分からない。

 あ、そういえば【鑑定】出来るんだった。


 薬草20ゴールド、ポーション100ゴールドか。

 単純に回復量も五倍なのかな?

 時間を戻せば無傷で済む俺には必要ないがな。

 他にも生活雑貨や戦闘時に使うようなアイテムがあるが必要なさそうだ。

 寝袋や簡易テントもあるが【転移】があるから寝場所に困る事は無さそうだし。

 うーむ、欲しい物が無い。

 冷やかしになってしまうなぁ。

 娘を見るとニコニコと営業スマイルをキープしている。

 仲良くなりたいし、【魅了】でもしてみようかな?


「あの〜、ちょっといいですか?」


「はい、なんでしょう?」


魅了チャーム


「あ……」


 ふむ、成功だ。顔がみるみる紅潮し目がとろんと惚けている。


「あのぉ、冒険者様。何かご入り用でしょうかぁ?」


 声が甘くなっている。メロメロだ。

【魅了】やべぇ。まじやべぇ。


「名前なんて言うの?」


「え?あ、……アーニャといいます」


「アーニャ、君が欲しい」


 おもむろに唇を奪う。


「んん……」


 顔を更に真っ赤にして俯きながらアーニャは返事をする。

 こりゃ生娘だな?

 両親がいるから家は無理そうだし、夜に村外れの井戸を待ち合わせ場所にした。


 夜が待ち遠しいぜ!



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