第3話スーレの村②
おっと、【時間遡行】に戸惑ってエナさんを放置しちゃってた。
「ついさっき村に着いたばかりでして。
宿はどちらでしょうか?」
時を自在に戻せるならエナさんとはいつでも話せる。
まずは宿に行ってみよう。
村の高台には大きな屋敷があり、その下に連なるように商店や宿が並び、次いで家屋が建ち並ぶ。
人口百人もいなさそうだが、冒険者の出入りはそこそこあるみたいだ。
村の入り口には見張りの為の
変な冒険者が入ってこないように見張ってるのかな?
村で一番大きいといわれる宿に恐る恐る入ってみた。
酒と料理と木の匂いが、鼻を一気に刺激する。
一階を見渡すとかなり広い。
テーブルが四卓あり食事ができるようになってるのか。
長い剣を椅子に掛けている強面の戦士っぽい男や、魔法でも使うのか杖を携えた男、短刀を手入れしている身軽そうな男が、テーブルを囲み、酒を飲みながら話している。
ははぁ。
分かりやすい。
あれが冒険者だな。
他にも掲示板の前に数人冒険者らしきパーティーがたむろしている。
なんかじろじろと視線を感じるので、さっさとカウンターのおっさんと話をしよう。
このおっさんもかなり怖いから本当は話したくない類の人種だ。
「あの~、こちらで依頼が受けれると聞きまして」
じろっと睨むおっさんの眼光が怖過ぎて、びびってちびっちゃいそう。
「兄ちゃん見たことねぇ格好しているな。
よその国から来たのか?」
答えにくい事を聞いてくるなぁ。
確かに俺の服装は青のチェックシャツに灰色のパーカーに下はジーンズ、スニーカーと全てが現代っ子。
ここの村人と比べると極めて異質だろう。
しばらく黙っていると、
「いや、まぁいい。
冒険者には余計な詮索はしねぇ決まりだ。
で、
「
「そうか、知らねぇか。
こんな小さな村じゃ無理だが、街に行きゃ冒険者としてギルドに登録できる。
そしたら
まぁ、うちには
ちなみに冒険者じゃなくても受けれる依頼っつーのもあるから見てみるか?」
おっさんはそう言って俺に、羊皮紙に書かれた依頼書を何枚か見せてきた。
こんな記録媒体があるのは、教科書で見て知ってはいたが、実際手にすると軽く感動するな。
級外依頼:スーレ村北のタンタルの森にてキュアの蜜を採取せよ。
三本からで報酬150ゴールド
級外依頼:スーレ村西のデカス洞窟にてサーベルウルフの牙を入手せよ。
一本につき100ゴールド
「オススメはこの二つだな。
森で採取する蜜は、薬草より回復力のあるポーションの材料になる。
依頼を受けるなら空の容器を支給するぞ。
洞窟にいる狼は狂暴だが、魔物じゃないから冒険者じゃなくても頑張れば倒せる獲物だ。
森、洞窟、どちらも奥に行かなければ危険は少ないだろう。
どうだ、やってみるか?」
危険度がいまいちピンとこない。
こないが無一文の俺には、他に選択肢が無い気もする。
とは言っても、狼を倒そうにも武器が無いし、蜜取ってくるのが比較的楽なのかも。
ああ、気が重い。
「じゃあ、その蜜を取る依頼を受けていいですか?」
「おう、もちろんだ。
じゃあ、空の容器を渡そう」
おっさんがガラガラと筒型の木の容器をカウンターに並べる。
トゲとか無いよね?
「あの~、ちなみに、こちらの宿代と食事代って幾らになりますか?」
「宿代は食事一回分が付いて50ゴールドだ。
食事のみは10ゴールドだな。
酒は5ゴールド。
もし依頼達成して戻ってこれたら一泊
まぁ、あれだ、とにかく死ぬんじゃねぇぞ!」
怖い髭ダルマが不意にニカッと優しい笑顔になった。
見た目で判断するのは良くないな。
案外優しい人なのかもしれない。
宿を出ようとすると、テーブルに座ってる冒険者パーティが怒鳴り散らしている。
「あー、暇だぜぇ!
こんなしょうもねぇ村を、一体何から警護するってんだ。
飲まなきゃやってらんねぇぜ!」
「まったくだ。
腕がなまってしまうぞ」
「簡単な依頼だ。
休暇とでも思うしかあるまい。
退屈な村でする事もないがな。
おい女!酒を持ってこい!」
おやおや、典型的なダメパーティーか。
宿屋のおっさんを見ると呆れて首を振っている。
あんなのに因縁つけられたら地獄でしかない。
スルーを決め込みコソコソと宿を後にした。
しかし、この容器邪魔だな。
手が塞がってなんにもできない。
パーカーには二個ポケットあるがどうしようか。
と、考えているとまたも術式が頭に浮かび上がる。
【時空魔法:収納】
手の平に沿って空間に青白い丸が回転しながら浮かびあがり、容器がすうっと吸い込まれ消える。
は?
消えたから心配になって取り出そうとするとまた丸が浮かび上がり、容器が飛び出してきた。
丸って魔法陣?
これもお姉さんが授けてくれた力なのか?
いまいち判断はつかないがこんなの便利過ぎるだろ。
ありがたく使わせていただこう。
村を後にし、北にあるなんとかいう森を目指し歩いていた。
名前なんだっけ?
なんとかの森。
そもそも森の基準てなんだ?
人生で森に行ったことなんてないぞ。
木がいっぱい出てきたら森か?
ん?木が二倍で林。じゃあ森は木が三倍はあるのか?
はは、馬鹿馬鹿しい。
そういえば、こんな土の上を歩くのも久々だなぁ。
子供の頃の遠足を思い出し、なんとなくウキウキする。
なんとか、なんとか、なんとら、なんたら、たんたら、タンタルの森!
あー、スッキリしたー!
一時間は歩いただろうか。
こんなに歩いたのは久々だ。
通り過ぎる木の本数も徐々に増え、道らしい道もなくなり、足元には一面草が生い茂っている。
木に囲まれている為に薄暗く、気温も下がったような。
風が吹くと、ざわざわと魔物が囁いているように聞こえてくるから恐怖心を煽られる。
とっくに遠足気分は吹き飛んでいた。
何か出そうな雰囲気だなぁ。
突然何かに襲われたらどうしようか?
全然考えてなかったよ。
何か出た瞬間に時を戻しても、いつかは囲まれてどうしようもなくなるかもしれない。
周囲を見渡し、なるべく頑丈そうな1メートル程の木の棒を探し出し、拾い上げる。
こんなもので叩いてはたして効くのか?と、棒を眺めながら溜息が漏れる。
何も出ませんようにと祈りつつ、更に奥へと進むと、水の音がどこからか聞こえてきた。
そこには池があった。
池の周囲に一際目を引く赤い花が咲いている。
依頼は蜜を集める事。
え?こんな簡単でいいの?
拍子抜けしながら花に近づいていくと、何かがビュンと飛んでくる。
ビシィッ!
ぐっ、痛い!
首に何かが巻き付いて!
え?
この花のつるが伸びて?
人を襲う植物なのか?
ならばと棒で叩いて脱出しようと試みるが、別のつるが手に巻き付き離れない。
花は勝利を確信したかのように花弁を開かせるとボフッと俺の顔に花粉を浴びせた。
甘い香りにクラクラする。
あ、眠い……
…………意識が遠退いていく。
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