第2話スーレの村
さぁ、どうしようか。
再び丘を下りながら考える。
やはりここは現代の地球では無いようだ。
この時点でかなりショックを受けている。
もう毎日欠かさずしてたオンラインゲームの日課ができないじゃないか。
いやいや、頭を切り替えろ。
もうそんな次元じゃない状況だ。
ともかくこの世界にどれだけいるのか分からないけど、夢じゃない以上、生きていく為にも最低限の衣食住の確保をしなきゃいけない。
通貨とかはあるんだろうか?
文化レベルも全然分からない。
そもそもここがどういう世界なのかを把握しなければ。
存外大変な気がしてきた。
普通にサラリーマンとしてこき使われてる方が楽だ。
楽がしたい!
そういやあのお姉さん、数々の力を授けてあるとか言ってたっけ。
なんだよ、数々の力って。
ヒーローみたいに身体能力が上がるとか?
魔法使いみたいに魔法が使えるとか?
というか時を戻すってなんだよ?
ぶつぶつ言いながらしばらく歩いていると村に着いてしまった。
死ぬ前に行った井戸を見てみると、未遂に終わった、あの可愛い金髪の女性がまたも水を汲んでいる。
身を潜めながら馬小屋に移動し、恐る恐る井戸の方へ顔を出す。
「ヒヒーン!」
「うわぁっ!」
突然馬が鳴き出したせいで、びっくりして声をあげてしまった。
女性の可愛い目が俺を捉えた。
ヤバい!
悲鳴をあげられるかも!
と思い身構えたが、女性はキョトンとしながらも話し掛けてきた。
ヤバい、やはり可愛い。
「あら、旅の方ですか?
そんなところで何を?」
「へ?
お、俺の事覚えてないの?
かな?」
「え?えーと……すいません。
前に会ったでしょうか?」
「あ、そう?
いや、あー、ごめん、勘違いかも」
「は、はぁ」
なんかめっちゃ不思議がられてるな。
でも、この女性の反応を見る限り、やはり時が戻ってるということなのか?
それなら、これがこの女性にとっては俺と初対面になる。
なんだこの不思議な感覚は!?
「ここは、スーレの村だよね?」
「はい、そうです。
こんな小さな村の名前よくご存知ですね」
「いや、実はあんまりこの世界の事知らないんだよね。
この世界の事教えてくれない……かな?」
「えっと……どういった意味でしょうか?」
うーん、こんな聞き方したらこういう反応になっちゃうのかー。
うまく情報を引き出したいんだけど。
「うーん、あ、名前なんて言うの?」
「わ、私ですか?
私はエナと言います」
「エ、エナさん、実はわたくし最近この辺りに赴任したばかりで、この地域一帯に住んでる方の生活習慣や、状況などを調査する仕事をしてるんですよ」
「は、はぁ、それはお勤めご苦労様です」
「なんで、色々聞いてみてよろしいですか?」
「分かる範囲でしたらどうぞ」
仕事以外で若い女性とこんなに長く話する事に慣れてないので、緊張しながらではあるが、エナさんにこの世界の状況を大まかに聞き出す事に成功した。
俺にとっては素晴らしい第一歩だ。
簡潔にいうと、この大陸には四つの国が存在するようだ。
北の王国ボルなんたら王が統治する七つの領地の一つサルサーレ領の北にこの村はひっそりとあるらしい。
この村の生活は農作物や畜産が大半を締め、貧しいながらもなんとかやっているそうだ。
興味をひいたのは、村の回りに点在する森や洞窟で、貴重な鉱石や宝石が捕れるって事。
それを求める冒険者や行商人達がしばしば訪れ、金を落としてくらしい。
休息地としてうまく機能しているみたいだな。
うまい話には危険が付き物。
森や洞窟には、人を襲う狂暴な動物や魔物がでるという。
死人が出るのは日常茶飯事。
魔物ってなんだよ!?
怖すぎる。
だがそういった脅威から住人の安全を守る為、王国では依頼要請所【ギルド】を設け、冒険者達に報酬を出し、魔物を狩ったり各拠点を防衛させているそうだ。
俺みたいな流れ者が手っ取り早く金を得るには、ギルドで依頼を受けてこなすか、盗人になるか、の二択。
怖い魔物と戦うくらいなら、自給自足で暮らしていきたいとこだが、その手段も知識もない。
簡単な依頼だったらこの村の宿でも受ける事が出来るようだが……
……うーむ。
「あの、そろそろよろしいですか?
仕事がありますので」
「あ、ありがとうございます。
とても参考になりました」
あー、話が終わってしまうなぁ。
もうちょっと話たいなぁと、名残惜しく感じていると、不意に頭に何か文字を羅列したような術式が浮かび上がる。
え?なんだ?
なんで術式だと?
いや、俺はこれを術式と認知しているようだ。
んーと、なになに……時の、神の、
【時の神の力を《クロノススフィア》】発動!!
瞬間と表現していいのか、時が止まっているような感覚に襲われ視界が暗転したと思ったら再び明るくなる。
─────—
「あら、旅の方ですか?」
「え?」
声の主はやはりエナさんだ。
そしてこの台詞を聞くのは三度目だ。
なんだこれ?
やはり時間が戻っているという事か?
いやいやいや、これヤバくないか?
やっていける感が芽生えてきてゾクゾクした。
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