異次元の恐竜
kumapom
異次元の恐竜
そのビルを遥かに超えるその巨大生物は、ドスンドスンと地響きを立てて、片道三車線の車道を進んでいた。
それは僕には恐竜に見えた。
恐竜が進む度に、地響きが起き、僕は上下に跳ねた。
しかし、奇妙なことに僕以外の道行く人々はまるで反応が無く、恐竜が存在していないようだった。
僕はついさっき買った、昼飯用のクリームパンと牛乳の入ったコンビニの袋を持ったまま、ただ呆然とその光景を見つめていた。
と、後ろで何か別の重いものが落ちる音がした。
振り返ると、全身金属の鎧というか、SFに出てくるバトルスーツと言うか、そういうものを着た人がそこにいた。
「ありゃー、今回のはデカいなー。こんなの見たこと無いよ」
彼は恐竜を見上げるとそう言った。
僕が彼の様子をじっと彼を見ていると、彼は僕の存在に気付いた。
「もしかして、君、オレが見えてんの?」
僕はコクコクと頷いて答えた。
「珍しいな。数年ぶりだよ。この世界で一般人と会話したのは」
「珍しいんですか?」
「普通はオレらの姿は見えない。次元が違うからね」
「次元?」
「ここは君らのいる普通の三次元と少しズレた次元なんだよ。君、たまにこの次元に来てたりする?」
「……えーと、多分初めてです。僕は普段、あんな恐竜は見たことは無いし、あなたのような人も初めて見ました」
「ほう……だとすると妙だな。地磁気に異変があったのか……それとも……」
と、もう一人、似たような格好の人が空から降ってきた。
ドンと言う音と共にアスファルトに亀裂が走った。
「ピンク、到着ーっ! うわー、今回のは大きいね」
「よお、先に来てたよ」
「ブルーちゃん!」
「ピンクで二人目だ。でも、やつに対抗するには、まだ人数が足りてないかな」
「まだ来るかな? あたしは非常招集を見て来たけど……あれ、この人は何?」
「ああ、この人は、どうやら漂流者らしい」
「あら、大変ね」
僕は聞いてみた。
「その、漂流者ってのは何なんです?」
「何かの偶然、または能力の覚醒で異次元に来てしまった人の事だよ」
「なるほど。僕はなぜ来てしまったんでしょう?」
「それは分からないな。データセンターに問い合わせれば次元地震の発生なんかは分かるけど、それとは限らないし。原因は色々ある」
「はあ……謎ですか……」
と、その時、上空から野太い声が聞こえて来た。
「……ぅぉぉおおおおおおっー!」
ダダンと言う地響きを立てて、ひときわ巨漢の男がやってきた。
「イエロー!」
「……来たっす!」
「三人になったわ! これで行けるかな?」
「どうだろう? ピンク、イエロー、いっちょやってみるか?」
三人はポーズをとって気合いを入れると、背中のジェットを噴射して、恐竜に向かって飛んで行った。
落ちてきた時から普通の人たちではないなとは思っていたが、その機動力は目を見張るものがあった。
ブルーが切り裂く攻撃、ピンクが電撃、イエローが体躯を生かした肉弾攻撃をしていく。
恐竜はみるみるうちにボロボロになっていき、もう倒れんばかりにフラフラになった。
が、その時である。
一瞬のフラッシュと共に恐竜が輝いた。
すると、どうだろう、今まで劣勢だった恐竜がみるみるうちに回復しだした。
「どういうことだ? 今までの敵と違うぞ?」
「何か変じゃない?」
「……どういうことっす?」
そしてそれどころか、恐竜のやられた部位から角が生えてきた。
「強化された?」
強くなった恐竜は凄まじかった。
今までの倍の速さで動き、謎の黒い粒子を放つようになった。
黒い粒子は弱体化する効果があるらしく、彼らはみるみるうちに劣勢になった。
「ダメだ、二人とも。いったん基地に帰って出直しだ!」
「分かった! 帰還のゲートを今開くわ!」
ピンクは何か機械を出し、呪文を唱えた。
しかし、うんともすんとも言わない。
「どういうこと?次元座標が滅茶苦茶な数値を示しているわ!」
「……どういうことっすか?」
「分からない……分からないわ……」
「ピンク、イエロー、とりあえず向こうのビルの先まで逃げよう!」
「分かったわ!」
「……うす!」
三人は少し離れたビルの所まで飛んだ。
その瞬間、かき消されるように、三人はふっと空間に吸い込まれて消えた。
僕はそれを見てなんとなく理解した。
彼らもまた、次元の異常に巻き込まれた、次元の漂流者だったのだと。
異次元の恐竜 kumapom @kumapom
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