お金が欲しい6
「ちょっと待って、いや泊まる所が無いって言ってたから、有り得るとは思っていたけどさ……」マンガとかラノベだと良くある話だしね。まさかそれが、自分の事になるとは思っていなかったけど……。
「やっぱり、駄目……ですかね?」一つため息をついて、肩を落とす岩波さん。
「駄目っていうか、流石に18才の女の子を泊めるとか無理でしょ?」えっと、18才は成人だっけ?
「でも、本当に泊まる当てが無くて……」思わず、可哀想になってしまい、先程の発言をやっぱり取り消そうかなんて 考えて、いやいや待て待て。
「一日位なら、お金は出すからビジネスホテルに泊まる?それに、流石にあんな事があったんだし実家に戻るんでしょ?」怖い思いもしただろうし、家族に報告だってしなきゃいけないだろう。そりゃ僕だって男なんだから、可愛い女の子がいたら意識してしまうだろうし……。
「私……帰れません、帰れないんです」岩波さんの言葉に僕は思わず彼女を二度見する。何故だ?まさかまだ、田辺に何か……。
「えっ?どうして?ねぇ岩波さん、もしかして奴らにまだ脅されてるとか、弱みを握られてるとかあるのか?」凄く嫌な奴だか、そこまでする様な奴だと思いたく無い。
「ううん、そうじゃないです。私、病気の妹がいるって言ったじゃないですか?」確か、田辺がそんな事言っていたな。
「契約金、妹の治療費で使ってしまったので、もし騙されたって解ったら母さんや妹に心配掛けちゃう。それだけは嫌なんです。特に妹には心配掛けたくないし、治療に専念させてあげたい 」
「気持ちは解るけど、残ってどうするの?君にやれる事はもう……」アイドルになる為に上京して来たんだ。それが駄目になったのだから、彼女がここにいる意味は残念だけど、彼女にはもう無い。
「いいえ、私には、まだやる事があります」
「やる事?」彼女は僕の顔をじっと見つめて、
「貴方に出してもらったお金を返します」僕は、今日何度目かになる深いため息をつく。幸せ逃げるよな。
「あのね、あのお金については言ったよね?返さなくて良いよって。僕の自己満足なんだって」
「はい、聞きました。貴方の決意も貴方の思いも」
「なら……」僕の言葉を、岩波さんの言葉が遮った。
「だから、私の決意も聞いて下さい!!」
「だって、このままじゃ私、惨めで情けなさ過ぎるじゃないですか?」岩波さんの目からは、今までの不安や恐れも無くて……。
「穗村さんが、親戚の人達に良いようにされて腹を立てた様に、私だってアイツらに騙されて頭に来てるんです!!」確かに騙されて、もう少しでAVに出演させられそうになって、
「私、逃げ出して捕まって、ただ泣いてただけじゃ無いですか!?」そう言われればそうだったよな?そりゃ頭に来るよな?僕でも納得行かないよな?
「……家のアパート1DKで凄い狭いし、プライバシーも何も無くなっちゃうよ?」
「ご迷惑掛けます!!」
「それに俺だって男だし、君みたいな可愛い女の子と一緒に居たら何するか、解らないんだよ?」
「覚悟は決めてます。でも……貴方を信じても、います」岩波さんの目は僕を見たまま、でも頬は凄く赤くなっていた。
信じてるって言われてもな。
「全く、僕だって男なんだよ?」
「穂村さんが望むなら、構いません!!」彼女のきっぱりとした物言いに、
「少しは躊躇して欲しかったな」僕は、心の中で頭を抱える。しょうがない、俺がしっかりすれば良いだけだ。少なくとも、この時はそう思ってた。
それでも……よしっ。
「いくつか条件を決めよう」
「えっ?条件?何でしょうか?」
「まず、岩波さんは危ない仕事やそれとその……風俗とかはしない。これは駄目、絶対駄目だ」いくらお金を貯めたくたって、危ない事や風俗で貯めたお金なんて僕はいらない。
「風俗なんてそんな事!!……解りました、アルバイトとか真っ当な仕事をしてお金を稼げって事ですね?ありがとうございます」
岩波さんは、恥ずかしそうな顔をして、
「その如何わしい仕事とかするつもり無かったですけど、焦ったら……変な事考えちゃったかも知れません。最初に釘刺されて良かった」笑顔で呟く彼女の言葉に僕は頷く。その顔は、何となくホッとした感じがして……。
「それと、期間を決めよう」
「きっ期間って、いつまでに返すって事ですか?」僕の言葉に明らかに慌て始める岩波さん。
「いや違うって、君がこれからの生活をやっていけるかって話」
「えっ?」話がいまいち通じなかったのか、首をかしげる彼女に、僕は頭を掻きながら話し始める。
「正直これから先その、一緒に暮らして行く事になるよね?今日初めて会ったばかりの僕らが」そうだ、何か急に同居とか訳が解らない話になっているけど、僕らは今日初めて出会ったばかりなのだ。
「只でさえ人と暮らしていくって事は難しいんだよ?もし、無理をして身体も心も悪くなってしまったら困るだろ?」
「そんな事……大丈夫です!!私、見かけによらずにタフなんですから!!」小さく両手でガッツポーズをする岩波さん。
「そうだとしても、どうなるかなんて解らないでしょ?」そう言った僕の言葉にむくれる彼女に苦笑いしつつ、
「だから先ずは一ヶ月、そこまでの様子を僕が見て無理だと思ったら諦めて貰う」
「えっ!?一ヶ月ですか?短すぎませんか?せめて一年位になりませんか?」
「一年!?流石に長すぎるだろ?僕にとっては一ヶ月だって長いと思うのに!?」彼女の言葉を大慌てで否定すると、
「じゃあ、せめて半年で」
「いや、長いって」
「あのですね穗村さん、世の中いえ日本には季節と言うものがあるんです」彼女の言葉の真意が解らずハテナな顔をしていると、
「季節が変わる様に生活も変わって行きます」
「はぁ?」そんな事は流石に知っているけど、彼女は何が言いたいんだろう?少し困っていると、
「その季節だけの自分を見て、判断をして欲しく無いのです!!」僕の目をじっと見て、力強く話す岩波さんに少し押されてしまう。
「季節によってそんなに変わるかなぁ?」半場呆れたように頭を掻く僕に、
「全然違います!!夏と冬とじゃ服装だって生活環境だって全然違うでしょ?」心の中で、駄目だなこれ押し切られる奴だと半分諦める。今は七月、これから暑い夏に向かって行く時期だ。
「そりゃそうかも知れないけど……」困ったな?と軽く頭を抱える僕に、
「お願いします穗村さん。今更ですが、真剣なんです。私も全てが上手く行くなんて思っていません。辛い事や厳しい事だって沢山あるんだろうと思います。それでも負けたく無いんです、自分に」どうも、強い言葉に押し切られる傾向があるよな?
でも、彼女の想いに答えてあげたい自分がいるのも確かで。
しばらく考えた、僕の答えはやっぱり、
「解った!!半年の様子を見よう。ただし、君が本当に無理だと感じた時は、強制的に終了させる。良いね?」
僕は、その時の彼女の勝ち誇った顔を今でも思い出す。
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