お金が欲しい4
「僕はヒーローなんかじゃない!!ヒーローなんて呼ぶな!!」田辺のヒーロー呼びに僕は、声を荒げる。
「おー怖い怖い、すみませんね。つい嬉しくなってしまいました。」田辺のニヤニヤした笑い方に、頭にきて、文句の一つでも言おうかと思っていると、樹里さんが茫然とした顔で僕を見ていた。
「ねぇ、私助かったの?本当に自由になれるの?本当に良いの?三百万だよ?私、あなたの事なんて何にも知らないんだよ?」嬉しいはずなのに、喜んで良いのか解らない、そんな顔をしている。
「大変だったね?」そんな彼女をねぎらう様に声をかける。
「あぁ多分、もう大丈夫だと思うよ、お金は僕がきちんと払うから、心配しなくて良いよ」確証がある訳じゃない。でもこういう奴は、自分が決めたルールだけは絶対に守る。そんな確証が僕にはあった。まぁ勘だけど。
僕が近付くと、樹里さんは大粒の涙を瞳に溜めて声も出さずに泣き始める。
出来れば、ちゃんと慰めてあげたかったけど、良く知らないこの子の事をどう慰めれば良かったのだろうか?
見ず知らずの女の為に、三百万払って彼女を助けるって考えるほど、突拍子もない出来事だよな、言った事に後悔は無いけど。
「お慶びの所、申し訳ありませんがね、私達は岩波樹里さんを自由に出来る権利をそちらのほむ……いえ、そう言えばお名前は?」田辺に名前を教えるのは非常に嫌だ。だけど今更、嘘や拒否したりしてもしょうがないのは、解っている。
「穗村いずみです。よろしく岩波さん」僕が手を差し出すと、少し照れた顔をして、本当に嬉しそうに笑った。「聞いたのは私なんですがね?」僕は田辺の言葉を無視したけど構わず、
「まぁ良いでしょう先程の話の続きをしましょうか?私達は岩波樹里を自由に権利をそちらの穗村さんに譲渡しただけです。実質貴方は自由になっていない。支配される人間が変わっただけなんですよ」
「僕はお前達なんかとは違う!!岩波さん、安心しても良いよ。僕は君に酷い事なんてしない」
「ヒーローは言う事が違うなぁ」ニヤニヤ面白そうに笑う田辺、
「その言い方はやめてくれ、僕はヒーローなんかじゃない」今日一日で、ヒーローって言葉が凄く嫌いになった。そんなニセヒーローに向かって岩波さんはうつ向いて言ってくれた。
「ヒーローだって、勇者だって言い方なんてどうでも良いんです、ただ貴方が助けてくれた。貴方は、その……恩人だって事だけは間違い無いんですから」彼女は両手をモジモジさせ始める。
「あの……こういう時になんて言ったら良いのか……全然思い付かなくて」樹里さんは深いため息をついて胸を押さえる。流石にアイドルになろうとしていただけあって、一般よりも少し大きめな胸部、いや生々しいな、バスト?露骨か?おっぱ……いや何を言おうとしてるんだ僕は?まぁ胸を凝視してしまい、慌てて目をそらす。
「……良いよ別に」心の中で、某有名なアニメのキャラのセリフ『笑えば良いと思うよ』って言葉が喉元まで出掛かって何とか、止める。
「これは僕の自己満、そう自己満足なんだ、君はきっと運が良かっただけなんだよ」僕は、あのお金を捨てたかった。親戚達がこれがお前の家族だと言うかの様に勝手に押し付けたお金を。
あの時、僕は本当は言いたかった。僕の家族は金じゃない!!今まで、関わっていなかったくせに、こんな時だけ、しゃしゃり出てくるんじゃねぇ!!この家から出てけ!!って、本当は知っていたあの家は土地代屋敷代、そして祖父母が残してくれていた形見や遺産を含めれば何千万にもなる事も……。
でも、そんな理不尽に対する怒りより、家族を無くした虚無感の方が勝っていて、本当にどうでも良かったんだお金なんか。それよりも、こんな金の存在自体が僕をイラつかせていた。だから……。
「あんな金なんかで、誰かが救えたなら、その方が良いよ、精々した」その時の僕の顔はどんな顔をしていたのだろうか?後で、彼女が言うには酷い顔だったらしい。
「なら、そんなに泣いてるのか笑ってるのか解らない顔しないでよ!!」
僕の両手を彼女は強く握っていた。
「貴方は、そんなお金って言うけど、私にとっては何にも変えがたい物だったの」僕の手のひらがじわじわと温かくなっていく。僕の手はこんなに冷えきっていたのを僕は今初めて気付いた。
「ありがとう……、貴方のお陰で私は救われました。貴方の気まぐれなのかな?その気まぐれのお陰で私は大切にしなきゃいけなかった物、私自身を捨てずにすみました。」握る手の力が強くなる。
「ぼんどうにありがどう」ボロボロと彼女の両目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
良かった、本当に……僕のしたことは無駄じゃなかったんだ。誰かを彼女を救えたんだ。目頭に熱いものが込み上げて来た。
「はいはい、メロドラマストーップ」
パンパンと手を叩いて、感動的なシーンをぶち壊す馬鹿がいた。
その考えに賛同してくれるらしい樹里さんも憎々しげにその男を睨み付ける。
「田辺……」睨み付けるだけで相手を即死させる力とか無いかな?少し、某ラノベの最強スキル持ちの主人公が羨ましくなった。
「まだ、お金は支払われて無いですよ?」
ニヤニヤ笑う田辺を睨みつつ、
「お前は僕を信用してないって事か?」
「いえいえ、貴方はキチンと払ってくれるのは分かってますよ?こう見えても、人を見る目は確かだと自負していますので」やれやれと肩をすくめる田辺。
「じゃあ何で?」
「いえね、そういう青臭いのは嫌いなんですよね……見ていてイラつきます」
「そういうのは、二人きりになってからやれば良いじゃないですか?こう言うの見てるとむず痒くなりますよ」うげぇと大袈裟に舌ベラを出して嫌そうな顔をする。
「じゃあ、さっさとどこかに行けよ!!」
「ふん、盛りのついたガキは嫌ですね~!!」
「なっ、盛りっ!?」
「あわてなくても、やる事やれば帰りますよ」そう言って背広の内ポケットから、名刺ケースを取り出して僕に名刺を差し出す。
「期日以内に、ここに振り込んで下さい。振り込む際は、車の購入だと言って下さいね」
名刺には、鍋田輸入車販売ナッベーと書かれた名刺とその振込先が書いてあった。
「やっぱり、ネーミングセンス無いな」吐き捨てる様に言うと、
「ほっといて下さい!!」と田辺が憎々しげに言った。
多分、僕と岩波さんは同じ様にざまぁと思った……と思う。
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