異変の裏側(枝道編)
近頃、
そのひとつ、
祖母が亡くなると、家が空いた。祖父は、春次が生まれるずっと前に亡くなっていた。
誰もいなくなってしまった家には、また春次たちがこれるようにと、
祖母が亡くなってからも、春次たちは、祖母の家に行った。下の兄妹たちが生まれてからもそうだ。祖母の家に行くたびに、お
そんな大好きな祖母だから、どうしても訪れたかったのだろう。春次が、大学を休んで祖母の家に行くと言うと、正雄も行くといった。正雄は、心配していたのだ。これまで、一度も大学を休んだことがない兄が、急に休むと言いだした。
正雄は、以前からも、春次に胸を痛ませていた。それを春次にもあらわしたのが、あの日の夜。ふだんは寝落ちすることのない春次がめずらしく作業の途中で眠ってしまっていた。それを正雄が起こした。そのときに、正雄は春次を心配している
今でこそ、立派な六人兄妹の長男である春次だが、そんなふうになったのは、露文が誕生してからだ。それまでは、よく泣いて、よく両親に甘えていた。弟の正雄の前でもそうだ。しかし、露文が生まれると、
次男で、大学生なのに、下の兄妹たちに何もしていない自分。本当は気弱な長男一人に、すべての
春次にそんな話をすると、春次は明るく大丈夫なようにふるまったが、それは表面上のものでしかなかった。それは、正雄も気づいていた。
最後に春次は、意味深なことを言った。今後、正雄に大変な思いをさせてしまうかもしれない。正雄は
春次と正雄が、祖母の家に行った日の夜。春次が、正雄をなでたあの夜だ。あの夜以降、正雄にはわだかまりがより強く残った。
本当をいうと、それ以前からも、
その後日の夜。このときも、春次のことが頭から
正雄は、春次の
そこには、春次が自分の死を匂わせた内容が書かれていた。それから、家族や友人に対する想いやメッセージなどや、自分が死んで生まれ変わったらこうなりたいということなどがいろいろと書かれていた。正雄は、最初は何だこれと思ったが、読み進めていくうちに、現実に起こることなのかもしれないと
「今後、正雄に大変な思いをさせてしまうかもしれない」それは、春次はもうじき死んでしまう。そしたら、その代わりは正雄が担うことになりそうだ。それを示していたのかもしれない。
正雄は、ノートを手にしたまま、
正雄は、勢いよくドアを開けた。そこはリビングだ。しかし、真っ暗だ。だが、ソファには、横になった春次がいた。正雄は、持っていたノートを春次に投げつけた。
「なんだよこれ!」
春次は、飛んできたノートを見るや、身を起こした。
「……見たのか」
「最近、変だと思ったら……。前に言った意味深な言葉、あの意味がわかった。死ぬってなんだよ。なんでなんだよ」
正雄の目からは、
「お兄、死ぬなよ。絶対に死ぬな。お兄が死んだら……、みんなどうすんだよ!」
「正雄……」
春次の目にも涙がにじんだ。いままでおおっていた布がはがれ落ち、丸
「でも、もう、……無理なんだ。俺はあと少しで死んでしまう。わかるんだ。直感で。そりゃあ、俺だって、死にたくない。もっとみんなと一緒にいたい」
春次は、
「正雄、俺が死んでも、また生まれ変わるから、そしたらまた、みんなに会いたい」
「生まれ変わり?」
「生物が死んで、魂があの世へ行くと、また別の生物に生まれ変わる。だから、俺が死んでも同じ。それでもし、また人間に生まれ変わったら、みんなに会いたい」
「……わかった。でも、死ぬなよ」
「わかってる」
春次は、笑顔をみせた。
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