会いたい
目が覚めた
記憶の夢のメモをした。そのときも、ペンを持つ手の中の軸が、震えていた。私がこんなにも震える相手というのは、死だ。死との恐怖におびやかされていた。死ぬのは、私ではなく
だから、怖くて怖くて私は震えていた。
そのとき、扉がノックされる音がして、母と姉が来た。二人は、私の状態の
「ゆかり、どうしたの?」
「大丈夫?」
二人は心配した。でも、もちろんこれは
「どこかえらいの?」
「ちがう。……なんだろ」
言葉が思いつかない。そして、私ののどまでもが、ほんのり震えていた。
「あの……春次さんのやつ」
春次さんの記憶の夢のメモが書いてあるノートをいつも読んでいる姉に言った。
「あー、あれね。それで何かあったの?」
「春次さんが、もうすぐ死んじゃいそう」
「え、なるほど。だからそんな震えているんだね」
ひと間をおいて、でもさ、と姉は言う。
「春次さんて、そもそも何だろ」
たしかに。春次さんて、何なんだ。一番
姉は
下の兄妹たちの顔は覚えていた。ぼんやりとだが、絵に描き出すことはできるだろう。
兄妹たちの顔の絵を描いた。短髪で、むすっとした表情の正雄さん。長めの髪で、竹のようなのびやかな感じの
これを姉に見せる。
「へー、こんな感じなんだ。だいたい想像できたけど」
姉はうれしそうに絵を見ていた。
「これ、ツイッターにあげてもいい?」
「え、なんで」
「家族を探すため」
「え⁉︎」
「春次さんは死んでいても、他の家族がまだ生きているんだったら、会える可能性があるよ。私、会ってみたい」
私も会えるのなら会ってみたい。みんな大人になっているんだろうな。
「でも、実在しているとは
「いや、実在してるよ。むしろ、
姉は、写真に収めた、私の描いた絵を姉のSNSにあげた。『こちらの春次さんという方のご家族に会いたいです。心あたりのある方は、ぜひご
あの兄妹たちに会えるのか。ちょっと
母が、もうそろそろ帰りたいかと聞いてきた。たしかに、もうずっとここにいる。そろそろ家に帰りたいな。私はそう答える。母が
この日の夕方。姉からラインのメッセージがきた。春次さんの下の兄妹の絵をSNSにあげたことだ。早くも
『ゆかりのとこに来たいってさ。春次さんの妹さん』
鈴美ちゃん⁉︎ いや、鈴美さんと呼ぶべきか。あのおかっぱ頭のかわいい末っ子ちゃんも、大人になっているのか。そもそも、実在していたんだ。姉曰く、明日にはこれるのだそう。楽しみだ。どんな姿になっているのかな。
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