雪弘② (枝道編)
そして、四年生になった。また、クラスが変わり、クラスメイトも大きく変わった。それで出会ったのが、
進は、あまり自分に関わらないほうがいいと言った。
「どうして?」
「みんなにきらわれるから」
「きらわれる?」
「だって、ほら、こんなに汚いから」
「でも、それは、お家のこともあるんだからしかたがないよ」
「
「何でそんなことを言うの? 家が貧乏な人と友達になってはいけないなんて、誰も言っていないじゃん。ぼくは君と友達になりたい」
雪弘は、にこっと笑った。
「……、まあいいけど」
その笑顔に押され、
それからと言うもの、雪弘は進をよくさそって外で遊んだ。二人だけのときもあれば、新しくできた他の友達にさそわれたときも、雪弘は進をさそった。今までは、なんとなく進をさけていた友達も、進のことをよく知り、
ある日の朝。雪弘と進は
教室に入り、自分の席につくと、雪弘はハッとおどろいた。その目の先にある
「……雪弘くん」
進の方を見ると、彼の机にも黒の落書きがされていた。恐らく、そこにも同じようなことが書かれているだろう。
すると、背後から笑い声がした。二人をあざけるようないやな笑い声。
二人がふり返ると、
雪弘は、急いで進をひっぱり、教室から出ようとした。しかし、二人が出ようとした瞬間、出入口の扉が
後ろの扉から、五人が入って来た。
「
雪弘の行動を読んだらしい。昨年、中国から来た
「忘れてないよな。去年のこと。どうしてお前は変人ばっかりかばうんだよ」
「香花ちゃんも、進くんも、変人じゃないよ。君と同じ人間だよ。どうしていじめるの? もちろん、君とはちがうけど、どうしてそれがだめなの?」
彼は、口を開かなかった。
「雪弘くん、逃げてよ。もういいよ。僕のことなんて」
「それはできないよ。ぼくは君の…!」
雪弘が言い終わるのを待たず、彼は雪弘の鳩みぞおちに
「雪弘君」
「目障りなんだよ。さっさと死ね」
すると突然、激しい足音が、
「大丈夫!」
先生の後からは、同じクラスの女の子たち。彼女たちは、雪弘や進と仲が良い。教室の
先生は、真っ先に雪弘を背負う。女の子たちもそれを支えた。
雪弘は、保健室に運ばれ、ベッドの上に下ろされた。進や女の子たちも一緒に来た。そして、落ち着いたところで、先生は進に
この
「雪弘」
春次は雪弘の名前を呼んだ。
「お兄ちゃん」
雪弘は、兄の姿を見て、重い
「
雪弘は、
雪弘に変わって、進が口を開いた。
「……雪弘くんは、僕を庇かばってくれたんです」
進は顔は顔を暗くし、声も
「君は大丈夫なの?」
「……はい。雪弘くんがやられてすぐに助けがきたので、ぼくはやられていません。雪弘くんは、鳩尾に、強く一発をくらって、倒れました」
それをきいた春次は、真剣な顔になっていた。でも、どこかに悲しみがじんわりとでも
「……ごめんなさい。僕のせいで、僕をかばったせいで、雪弘くんがこうなってしまった」
進は頬に涙を伝らせながら、春次に
「あぁ、僕はなんていやな人間なんだろう。自分を大切にしてくれる存在にまで、不幸な思いをさせるんだ。人をイラつかせて、
「そんなこと、言わないで」
雪弘は、横になったまま言った。
「
「そうだよ。たった一つしかない命なんだから、自分で自分を傷つけてはいけないよ」
春次も、雪弘に続けて言った。
進が、続きを言おうとしたとき、
「照行」
「え、春兄。来てたんだ」
「うん、母さんと一緒に」
「……お兄ちゃん」
「ああっ、ゆき!」
照行は、雪弘の弱々しい声を聞くと、
「ゆき、大丈夫か?」
どう見ても大丈夫な状態ではなかった。
「……お兄ちゃん」
「照行」
雪弘くんと春次さんは、照行さんを心配していた。少し驚いているようにも見えた。
「何で来なかったの? 俺のところにきたら、助けてやるって言ったじゃん」
照行さんは、泣いていた。
「……ごめん。そんな余裕なかった」
雪弘はうつむき、謝った。
「雪弘くんは、危機を感じて教室を出ようとしてたんですが、それを読まれたみたいで、はばまれてしまいました」
雪弘の代わりに、進が説明した。
「ああああっ、くそっ! くそっ!」
照行は、怒り嘆きの叫びを上げた。それは、相手に対しての怒りか、役に立てなかった自分への怒りでもあるだろう。
春次は、照行の
「照行、雪弘はこの子をかばって、守ったんだって。雪弘はヒーローだね。もちろん、照行も立派なヒーローだよ」
春次は、照行や雪弘に対して、優しい言葉をかけた。この言葉で照行はさらに涙が
この
この悶着があって、二人の仲は、よりいっそう深まった気がした。
「お兄ちゃん、ありがとう」
雪弘は、春次にお礼を言った。
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