木偶の坊の私
でも、それはいやだった。春次さんは家族想いの、とっても優しい良い人である。そんな人を青い若葉のまま、失ってしまうのは、とてつもなく悲しい。その上、こんな木偶の坊な人間に変わってしまったということが、私はたえられない。
いやだ、いやだ。春次さんは、春次さんのままでいい。変わらないで、
──自分をそんなに責めないで。
えっ? 今、大人の男の人の声がした。穏やかな優しい声。この声は、春次さんだ。
いいえ、私は本当にダメで、何一つとして出来ないんです。
そう、私は本当にダメ。できないことが多すぎて、人に
たとえば体育。長距離のとき。ペアになった子のタイムを覚えて、その子に教えないといけない。でも、私はタイムを覚えられなかった。頭がぐるぐるとまわって、数字というものが大の苦手で。その子はとても優しく、行動力もあるから、同じくらいのタイミングでゴールした子にタイムを聞いて、自分のタイムをみちびき出した。もうしわけないと思った。本当は私が覚えていなければいけないのに。
たとえばやっぱり数学。私は数学がぜんぜんできない。特に最近のやつはまったくわからない。他のみんなはどんどんといて、進んでいく。でも、私だけは時が止まっていて、独りぼっちでぼーっとしている。だから、数学の時間が一番ゆううつだ。数学ができないと、他の教科にも影響が出た。主に理科だが、社会でも数学に向いていないと、とけないようなものもある。当然、数学に向いていない私は、それらをとくことができない。テストでそんな問題が出れば、見向きもせずに通り過ぎてしまう。もっと、数学に向いた人だったならば、そんな問題もこなすことができたはず。
そんな役に立たない頭の上に、私は
取り
そんな人間にとって、学校はとても
ため息が何度も出る。何の能もない人間は、この先、一体これから何をすれば良いのだろう。
風で木の枝が
毎日ほとんどここで座っている。あしを動かすことができないから。毎日ぼーっとしていた。何もしていないと、時間が過ぎるのが長く感じる。以前はすごく短く感じていた。それはもう、
今、こうしてぼーっとしているのも、以前は、なかなかできてなかった。そんな余裕はなかった。やらなければならないことが多すぎて。
逆に今は、何もない。やるべきこと、やらなければならないことが、全くない。何もなさすぎて、それはそれでわびしいものだ。
ほどほどがよい。ほどほどに動いて、ほどほどにぼーっとする。それが一番。多すぎず、なさすぎず。
あー、ひまだぁ。外からは、鳥の
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