雪のような五男
この日は、雪がふっていた。つもってもいた。
「おはよう」
まだ幼く、ぼんやりとした声で言った。
「おはよう、
春次さんにうながされ、窓の外を見たゆきひろくんは、ほのかに感動した。空からはふわりふわりとたくさん雪が舞いおりてきた。
「雪ふってる」
「そうだね、ご飯食べたら遊びに行く?」
「うん。行きたい」
そう言うと、両手に息をふきかけ、両手をこすり合わせた。そのときのほほ笑みに、私はいやされた。
その笑顔とは打って変わって、くもり顔になっていた。場面は変わっていた。夜の寝室。他の兄弟たちは寝ている中、春次さんと雪弘くんは、二人ベッドに
「ぼくって、クラスのだれかにきらわれてるのかな?」
雪弘くんがきらわれてる? こんなに可愛くて、いい子なのに。なにかしらの原因があるのかもしれないけれど。
「どうしてだと思う?」
「うーん……。わからない。でも、なんか友だちが言ってたんだけど、ぼくってきらわれてるかもって」
なるほど、これはおそらくその友達になにかあるのだ。その友達が、なんらかの原因できらわれていて、その他のクラスメイトからも
「……その、友達ってどんな子なの?」
春次さんも同じことを思ったらしい。その友達はどんな子か。私も気になっていた。
「べつにわるい子ではないよ。とっても良い子だし、頭もけっこういいよ」
だとするならば、問題は周りにあるのだろう。
そうか。と、春次さんは
「また何かあったら、いつでも言って。それか、
「うん」
雪弘くんは、少しは安心した様子。それを見た春次さんは、にこっと
「今日はもう寝よ」
二人はそれぞれのベッドで
二人が寝るとともに、私は目が覚めた。そして、この記憶の出来事を記録する。
『雪が降る日。雪弘くん、五男。
夜。雪弘くんのなやみ。──まわりから冷たい目で見られる。──友達がいじめられている』
この後、雪弘くんはどうなっただろう。続き見れるかな。
扉をノックする音とともに、母と姉がやってきた。
「春次さんのやつはどう?」
「うん。今日もまた見たよ」
「ちょっと、それ見せて」
私は姉に、記憶の記録を書いたノートを見せた。姉はそれをじっくりと読んでいる。
「面白いね。毎晩こんな夢みてたんだね。いいなー」
全部読み終えると、表情を
今日は、お母さんと娘さんの二人で来ていた。
「こんにちは」
「あら、こんにちは。今日は二人なんですね」
「はい」
姉は娘さんに手を
「
「こんにちは」
姉と汐梨さんは、通う学校はちがうが同じ学年。姉がよく話しかけていて、友達関係になったかは分からないが、仲良くはなっている。姉が汐梨さんに「学校はどう?」とよく聞く。加害者当人のお兄さん──
「通信制の高校に編入したんです。事故のこともあって、今まで通り学校に通い続けるのは難しくなって。特にいじめに遭ったとかはないんですけど、どこか息苦しさがあって、いやになったみたいで」
気の毒に。一度起きてしまったことは、もう取り消すことができないのか。一度犯してしまった罪は、いくつ日にちが流れようとも時間とともに過ぎ去ることはできないのか。
被害者である私は、事故に対する
そんな私とは正反対に、加害者側は環境を変えなければならないほど追いてめられている。周りの目が厳しくなって、きゅうくつな生活をよぎなくされている。人を跳ねた責任なのか。いや、でも、実際に跳ねたのは二人ではなく、信士さんだ。
そんなことを思っていると、汐梨さんが私と姉に近づいて、小さく口を開いた。
「でもね、もともと高校の生活はきゅうくつでうんざりしてたから良かった。通信制は、全日制よりかはずっと自由らしいし」
なるほど。それは良かったかもしれない。
すると、母は持っていた紙袋を上げて示した。
「
栗まんじゅうは、私の好きなやつ。とても気分が上がった。栗まんじゅうは、病院の
私は、栗まんじゅうを食べながら、春次さんとその家族についていろいろと考えていた。
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