大兄弟の長男
気がつくと、知らない所にいた。寝ていた。ソファーの上で、薄めの
いや、これは、はるつぐさんが亡くなる前の記憶かもしれない。
自分は、体を起こした。レースのカーテン
大きな両手いっぱいに
ぱしゃーんと
顔を洗ったあと、母親がいる台所に行った。
「おはよう、母さん」
「あ、
はるつぐ! やはりこれは、はるつぐさんの記憶だ。亡くなる前の。
はるつぐさんは、母親の手伝いをした。
すごい。それを見ている私に
朝ごはんができあがってくるころになると、はるつぐさんは、台所を出た。まだ寝ている兄弟たちを起こすためらしい。兄弟たちが寝ている寝室へ。
ちょうど寝室からは、目覚ましの音が聞こえた。そして、うるさいほどに
はるつぐさんは寝室を
「おはよう」
はるつぐさんが、弟たちにそう言う。
最初に出てきた、むすっとした顔の弟は、
「んー」と言葉にならない声をだす。普段は綺麗に整えられていそうな丸い髪型も、所々
「
はるつぐさんの声に、小さな妹は、うーんと声を出し、ゆっくりと起きて一呼吸。可愛いらしいおかっぱヘアは、見事なほどに
「照行! 起きろ」
もう少し音量を上げたが、まだ起きない。
はるつぐさんは、弟に近づき、ほっぺをつねる。いてっ。そんな声とともにようやく起きた。
「朝だぞ」
しあげの一撃とばかりにきっぱり言うと、弟は寝室をあとにした。
はるつぐさんは、荒れ果てた髪の妹を洗面所に連れてきた。髪にいっぱいの水をかけて、ブラシでといでいる。弟たちを起こしにいったときから思っていたが、はるつぐさんとても素敵なお兄ちゃんではないか。下の子たちの面倒見も良いし、優しいし。なんだかほっこりする。
朝ごはんを食べおわると、みんながそれぞれ学校の
そこで目が覚めた。病室の中。
日が差していた。私はけっこうな重傷らしく、しばらく入院することになった。その間はもちろん学校にも行けない。でも、行きたいなんて思わない。学校なんてどうでもよくなった。
ノートを開いた。春次さんが亡くなった事故の記憶が書かれたノート。そのページのとなにさっき見た夢──春次さん家族の朝の記憶──を書いた。
『春次さん──六人兄弟の長男。お母さん、たぶん、お父さんも。
弟、むすっとした感じ。竹のような感じ。
ねぼすけ──てるゆきさん。だいふくのような可愛い子。妹、荒れ果てたおかっぱ頭の可愛い子──すずちゃん。
春次さんはとても良い兄』
記憶を一生懸命思い出していると、悲しい気持ちが
あの女性──同じく事故で負傷した女性は、春次さんと変わらないくらいの歳だろうが、そうだとするならば、事故に
今も、彼の両親や兄弟たちは、すごく沈んだ心でいるだろう。それは、いくつ年か変わろうと、沈んだものは、帰ってこない。
知らせを受けたとき。春次さんの
昨日、姉が春次さんが私の前世だったかもしれないと言った。もし、それが本当ならば、彼の家族やあの女性に申し訳なく思う。胸の奥が、きつく締め付けられているかのようだった。あんなに優しい良い人が、こんな役立たずな人間になってしまっただなんて。そう思うと、とてつもなく後ろめたい気持ちになる。
私は祈った。春さんは、私の前世ではなく、死んでしまったことは
しかし、私はすべてわかっていた。あまりにも
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