第4話 ボッチ飯。別にどこで食べても、誰と食べても同じさ。
新クラスメイトたちから仲間はずれ宣言をされた私は転校初日からボッチスタートとなった。まさかこんなスタートを切るなんて誰が想像したことであろう。
休憩時間はもちろん、お昼休みはもちろん誰も声を掛けてくれやしない。
後ろの席の小鳥遊さんにトイレや食堂の場所を尋ねたらおどおどしながらも教えてくれるので、みんなに無視されているわけじゃない。
だけどクラスの中の異物みたいな扱いは変わらず、私は授業中も休み時間中も居心地の悪い思いをしていた。
学校の敷地内に食堂はあった。ここの食堂は中等部との共用なのだそうだ。能力者だけが集う学校なので、外の学校のように生徒数が多いわけじゃない。
まとめてしまったほうが、場所もとらないし、人員や手間も抑えられるのであろう。
大勢の生徒が集う食堂、そこでも私は目立っていた。なんたって違う制服だからね。
中等部の制服もセーラーなんだけど、色がちがうのだ…。だってこっちのセーラー服は全体的に紺色で、私が通っていた高校は濃い緑の襟に白地の制服なんだもの! そのせいでどこの余所者だという目で注目されている気がしてならない。
……私が何をしたよ!! こんな扱いあんまりだ。
ぴかぴかのIDカードをテーブルに備え付けてある注文端末にスキャンして注文を終えると、私はため息をついた。
ここではテーブルで料理の注文を受けるシステムらしく、生徒たちに与えられた決済機能の付いたIDカードを使って機械で注文する仕組みなのだそうだ。私は現在4人掛けの席を一人で制圧している状況である。だーれも近寄ってこない。
簡単にいえばボッチ飯である。言わせんな…虚しくなる。
《お待たせしました》
配膳してくれるのはロボットである。めっちゃハイテクである。
ロボットが運んできたカートの扉を開けば、注文した料理ができたての状態で出てくる。それを取り出してテーブルに置くと、ロボットの胸元にあるパネルの完了ボタンを押した。ウィインと音を立てて自動で勝手に戻ってゆくロボット。
待って、今のなし。戻ってきてロボット。私を一人にしないで。
今の私はロボットが去っていくことすら、せつない気分にさせられている。
「大武さん」
もそもそと一人寂しくぼっち飯をしていると、爽やかな笑みを浮かべた日色君に声を掛けられた。
この学校で初めて会った人である日色君はこんなにも友好的なのに、家のクラスの人はなぜあんなに敵対心とか猜疑心バリバリなのだろうか…
「ひとりなの?」
「あーうん、まぁ…」
私の返事が曖昧だったからか、日色君は怪訝な顔をして「何かあったの?」と尋ねてきた。
「クラスの人にあまり歓迎されてないみたいでさ…」
「え…?」
一瞬、誤魔化そうかと思ったけど、私は正直にぺろりと今の状況を話した。誰かに話してスッキリしたかったってのもあるけど、彼に嘘をついてもそのうち知られることになりそうだなと思ったのだ。
「なんか警戒されているっぽいんだよね。それで認めない、学校から出て行けって言われて…」
あぁ説明してるだけでなんか凹んじゃう。やっぱり口にしないほうが良かったかも。説明している私にもダメージが…
「…僕が話をつけてくるよ」
「えっ!? いやいやいいよ! 大げさにしたくないの!」
私の話を聞いていた日色君が私のクラスの人に話をつけると言いだした。私はぎょっとする。
そんなクラスが違うのに日色君を巻き込むわけには。私が彼の腕を掴んで止めると、日色君は怒っているような真剣な顔をしていた。初対面から笑顔の日色君だったので、そんな顔するのかとちょっと驚いてしまった。
「大武さん、放っておいても状況は変わらないよ。むしろひどいいじめに繋がるかもしれない。この学校は閉鎖された空間だから、エスカレートすると逃げ場がないんだ。早いうちに解決したほうがいい」
私が数秒固まっている間に日色君が踵を返したので、私は慌てて引き止める。
勘弁してくれ、転校初日から目立ちたくないんだ。君の気遣いはとても嬉しいけど、待ってくれないか!
「日色君! 待って、落ち着いて! あのね、私思ったんだ! この学校って閉鎖された都市にあるから、尚更縄張り意識みたいなものがあるんだと思うんだ!」
私の言葉に日色君は振り返って微妙な表情をしていた。言葉回しが悪かったかな。動物の縄張り争いみたいな言い方になってしまった。
「私を警戒しているだけだと思うの。だってここにいる生徒は外部の人間と接する機会がないんでしょう? それなら、今まで外部にいた私を疑ってかかっても仕方のないことだと思う。誰だって未知のものは怖いじゃない」
「大武さん…」
日色君は気の抜けた顔をしていた。
クラスメイトの怯えたような、だけど興味があるような視線を見て感じた。敵対視している人たちもそうだ……どこかに恐れを抱えているような気もするんだ。まぁ、私も結構傷ついているけどさ。
お互いが歩み寄れていない状況で日色君が説教しても、逆効果な気もするんだよね…
「ほらそれに、ごはんを一人で食べるくらいは全然! ぼっち飯でも味は一緒……」
笑い飛ばそうとして急激に寂しくなってきた私は、両手で顔を抑えてうなだれた。
「嘘です…超寂しい…」
親元から引き剥がされて、閉鎖された都市に一人飛び込んで、転校初日からハブられて結構精神的にダメージ食らってます。
私が一人で落ち込んでいると、ふふ、と小さく笑う声がした。それにつられて顔から手を話すと、日色君が苦笑いしていた。
「大武さんは優しいんだか、お人好しなのかわからない人だね」
「それって褒めてる?」
「さてね。…僕で良ければご一緒するよ」
日色君の申し出に私は嬉しくなって笑った。
「ほんと!? 一緒に食べよう!」
1人では広すぎた4人がけのテーブルに日色君と向かい合って座る。日色君は手慣れた操作で注文していた。使いながら裏メニューなんて教えてくれた。いろんなメニューがあるみたいなので、今度試してみよう。
日色君とのやり取りの間で、私が注文していた料理はすっかり冷めていたけど、それでも味は美味しかった。
食事中、彼はおしゃべりに付き合ってくれた。私が一方的に質問してばかりだったけど、どの問も快く答えてくれた。この学校のこと、超能力のこと、わからないことばかりで疑問に思ったことが沢山あったけど、クラスの中に聞けそうな人がいなかったから本当にありがたい。
本当に…本当にいい人だ…
「本当に日色君はいい人だね! 私、日色君と同じクラスなら良かったなぁ」
朝は夢でいっぱいだったけど、今は不安がいっぱいだよ。
ひとりでもいいから、歩み寄ってくれる人がいたらいいのに……
「…そうかな? でも大武さんが同じクラスだったら楽しかっただろうね」
「ね! 2つ目の能力が急に目覚めたりしないかなぁ? すっごい変わってる能力とか! そしたら同じクラスになれるかもしれないのにね!」
わりかしマジで考えてる。
珍しい能力…例えば、死滅した毛根を生き返らせる能力とか……めっちゃ重宝されそうじゃない?
だけど彼は冗談に聞こえていたのだろう、眉を八の字にして、可笑しそうに笑っていた。私は本気なのに。
楽しかったランチタイムはあっという間に終わった。日色君は委員会の仕事があるからと立ち去ってしまった。見た目も中身も優等生だな彼は。
日色君にはあんなこと言ったけど……
警戒している相手に信用される方法とかわからないし、私も超能力者社会のことわかんないから、正直これからどうしたらいいのかわかんないや……。
私はため息を一つ、ガクリとうなだれたのである。
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