第3話 カースト制度? あぁヴァルナとジャーティ……え、違う?
「この研究都市内の学校は幼稚舎から大学まで存在する。生活に必要な施設や、娯楽施設も同様。外に出られなくても不便のないように作られているんだ」
そう言うと彼は、首に提げているパスケースを見せてきた。写真付きのIDカードが入っている。私も似たようなものを先程手渡されたばかりだ。
「買い物は支給されているIDカードて支払う。限度額はあるが、生活する分では不自由ない金額が国から支給されるぞ。それで各自必要なものを買い揃える形だ」
そう教えてくれたのは私の担任になった河村先生だ。職員塔で出会った彼はどこにでもいそうな中年の男性。この人も超能力があるのかなとさり気なく観察しながら隣を歩いた。
「…先生もここの卒業生なんですか?」
この都市は超能力者以外立ち入り禁止。だからここにいる大人も、そういうことなのだろう。
「そうだ。先生はここで育って、そのまま就職したんだ」
「…外には出てないんですか…?」
「いいや頻繁に出てるぞ? 成人したら外に出られる仕組みだ。まぁ、当然のことながら能力のことは秘密にしなきゃいけないがな」
よかった。成人したらちゃんと外に出られるのか。ちょっとそこの所不安だったんだ。
「外で就職できるっちゃできるんだが、箱庭みたいなここで育ってきた超能力者には外の環境が合わない場合があってな……」
10年以上外の世界と触れなかったらそうなる人も出てくるに決まっている。……私は成人後ここから出て、ちゃんと外の世界に溶け込めるだろうか。
私が不安そうな顔をしていたのか、先生は「俺みたいに惰性でここにいる奴もいるけど、外で働くやつもいるから心配するな」と苦笑いしていた。
「……先生はどの能力持ちなんですか?」
「能力はテレキネシス。大武の能力と少し似てるな」
私のサイコキネシスは周りのエネルギーを念力で操ることで物体などを動かすこと。
先生のテレキネシスは物体そのものを動かす能力のことらしい。
似ているけど少し違う。
「この学校はそういうわけで特殊な面も多いが、悪いところじゃないぞ。早く馴染めるといいな」
「はい!」
まだまだ不安なことはあるが、馴染めばなんとでもなるだろう。
先生は簡単に学校のことをざっと説明してくれた。それは日色君が先程説明してくれたことに付け加えるような内容だ。
私が編入する高等部1学年は3クラスあって、S・A・Bクラスに振り分けられている。Sクラスは特殊能力、希少能力持ちの生徒の特殊クラスで、AとBクラスは平均的な能力持ちの生徒をランダムに振り分けているそう。
「あー、あとSクラスのやつなんだが…神経質な奴もいるから、なにもわからん内は無闇に近寄るなよ?」
「はぁ…」
日色君はそんな事なかったけどな……あれか。危険な能力持ちもいるって言っていたからかな。
危険な能力持ち…手から火を出しちゃう系の人であろうか。
校舎は教員塔と同じく、赤いレンガ造りの時代を感じる古ぼけた作りだった。それは外見だけなのか、中身は結構きれいにされていた。先生曰く、外はそのままで中身を綺麗にリフォームしたのだそう。
校舎の中身は私が通っていた高校とそう変わらないように見える。今の所変わった部分はないみたい。
緊張していたけど、なんかちょっと安心したぞ。
「ここだ。呼んだら入ってきてくれ」
「わかりました」
1-Aと書かれた教室。今日から私は超能力者育成校の一員となるのか。
先生が教室に一人で先に入っていくと、教室内のざわめきが静まり返り、先生の声が響いた。…転校とか初めてだからめっちゃ緊張するな…。
「大武、入ってこい」
声を掛けられたので、私は一呼吸置いて扉に手をかけた。教室に一歩足を踏み入れると、ざっと視線が集中した。
私はピャッと緊張の汗をかいたが、足を動かして先生の側まで近づいていった。
「先日話していた転入生だ。能力はサイコキネシス。この年まで能力が開花しなかったから超能力にもあまり詳しくない。色々教えてあげるように」
「お、大武藤です! よろしくおねがいします!」
実は自己紹介の挨拶を考えてきたのだが、緊張でそれしか言えなかった。
「大武の席はあそこ。
「は、はい…」
先生が指し示した先には、ショートカットの女の子がいた。雰囲気は子リスみたいに可愛らしい。
彼女はどこか緊張している様子で、おどおどとこちらを見ていた。その肩にはブルーの綺麗なセキセイインコと、手元にはリスみたいな生き物がいる。……教室に動物。ここってペットの持ち込みOKなのか。
私は先生に言われたとおり、自分の席に着こうと生徒たちの座る机の間の通路を歩いていたのだが、ピタリと足を止めた。
パチッと脳内に青い光が走ったのだ。
このまま進んだら、自分が無様に教室の床に転倒するイメージが流れたからである。
おもむろに下を見下ろすと、不自然に伸ばされた足が一本、通路側に飛び出ていた。
伸ばしていた相手と目が合うと、相手は眉間にシワを寄せて舌打ちをしていた。
相手は男子だ。今しがた出会ったばかりの名前も知らない相手。
なんだこいつ……女子を転ばせて喜ぶタイプなんか?
「大武? どうした?」
「…いえ、なんでも」
私が立ち止まったのを不審に思った先生から問いかけられたので、私はその足をサッと避けて自分の席に着いた。
あの車の事故の時もなのだけど、私に危険が迫っているときに流れてくるこの映像はなんだろう。今まで野生の勘だと思ってて大して意識していなかったけど、これも超能力の一種なのだろうか……?
今さっきのはなんだったのだろう…。
「──ちょっと、聞いてるの!?」
「…え?」
考え事をしている間にHRは終わっていたらしい。肘をついたままぼーっと考え事をする私の周りを数人の男女が囲っていた。
私はびっくりして、顎を乗せていた手のひらからガクッと顔がずり落ちた。
「えぇと…ごめん、聞いてなかった」
私が正直に謝ると、相手は眉をひそめてしまった。
「…なら、今度はちゃんと聞いてよね。…転入生だかなんだか知らないけどね、私達はあんたを歓迎してないの」
「お前をクラスの一員とは認めない。調子に乗るなよ」
「今まで外にいて何もなかったんだ。どうせミソッカスみたいな能力なんだろ。そんな落ちこぼれと同じに思われたくない」
マシンガンのように言いたいことを言ってきた彼ら。
口を挟む隙もなく、私は大口を開けてポカーンとしていた。
えっ…?
私歓迎されてないの? どうして?
「わかったなら、さっさと出ていきなさいよ」
「…そんなこと言われましても……出ていったら親が逮捕されちゃうので困ります。そもそも私も一能力者なのでここで学ぶ義務と権利がありますし」
学生であるあなた方は気に入らない人間を追い出す権限を持っているわけじゃないと思うの。
何なんだこの高圧的な人間どもは……あれか? 有名なカースト制度のバラモン(支配者階級)の位置にいる……そして新入りの私はシュードラ(労働者)の位置に追いやられているのか?
私が口答えしたのが気に入らないのか、彼らは苛つきを隠さずにこちらを睨みつけてきた。
……切ねぇな、私は何もしていないというのになぜそんな事を言うのか……同じ超能力を持つ仲間じゃないか。
私はちらりと他のクラスメイトに視線をやった。
彼らは私と目が合うと、ビクリと怯え、さっと目をそらしていた。申し訳無さそうな顔をしている人もいるし、怖がっている人もいた。
……怯えている。
このバラモンたちにか?
……それとも、転入生の私にか?
うーん……ここは外での常識が通じない場所なのかもしれない。
なんだか前途多難なスタートになってしまったようである。
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