四節 「最後のキセキ」
僕は神のキセキよりも大きなキセキを起こそうと思った。
仮に神のキセキよりも大きなキセキを起こせるなら、一人の運命が変わってもおかしくない。
そして、僕は神であることを放棄し、ただの人間になろうと言う考えに至った。
「僕は神であることをやめるよ」
僕は花蓮に話しかける。
今思えば、僕たちは対話を重視してきた。
話し合うからこそ相手をわかるのではないだろうか。
そして、そこに信頼や愛が生まれるのではないだろうか。
それらは奇跡なんかより素晴らしいもののなるのではないだろうか。
「えっ、神様やめちゃうの? なんで?」
「僕が神様をやめることで、僕が作ったキセキのシステムが大きく揺らぐ。そうすれば、何かの歪みが生じるはず。その瞬間なら、大きなキセキよりはるかなキセキをを起こせる可能性が高い。花蓮が死んでしまう運命なんて僕が変えてみせる。その時に僕が花蓮を連れ出すよ。助かるまでどこへだって連れていく。だから、僕を信じてほしい」
「何を今さら言ってるのよ。信じるに決まってるでしょ」
彼女は笑顔で答えてくれた。
「ありがとう。必ず花蓮を助けるから」
僕たちはやっと大切なものに気づけた気がする。
キセキを起こすことばかり考えていた。
でも、誰かのためにキセキを起こそうという思いが大切なのではないか。
神様をやめる日。
僕は彼女を連れて、父である神のところ行った。
「僕は今日で神様をやめるよ」
「また、人間の女のためにか?」
「うん、そうだよ。彼女のためだよ」
花蓮の方を向いて、そう言った。
「もう、好きにしたらいい」
そう言われてすぐに、僕の体から力が抜けていくのが感じた。
その瞬間僕は、花蓮の手を握って走り出した。
世界が変わるこの瞬間しかチャンスはない。
僕たちには、キセキを起こせる強い思いがあるはずだから。
ただ花蓮のことだけをひたむきに考えた。
彼女が助かることだけを考えた。
どこへむかえばいいかなんてわからない。
神の神殿を出て、僕たちは下界に向かって歩きだしたのだった。
二人はきっと輝いていた。
「誠、私の体が急に軽くなった。病気が、今私の体からいなくなったよ」
突然、花蓮からそんな声が聞こえてきた。
「キセキ起きたね」
そう言って、僕は倒れこんだのだった。
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