二節 「彼女が伝えたかったこと」
「彩?」
僕は自分で起こしたキセキを信じられなかった。
だってこんなことが本当に起きるのだろうか。
死んだ人にもう一度会えるなんて、まさしく奇跡と呼べるものではないか。
「そうよ。待っていたわ。花蓮さん、わがままに付き合ってくれてありがとう」
肩まである髪をそっとさわりながら彼女は笑っていた。
甦らせたと言っても、僕が彩を触ることはできない。
映像として写し出されているものと話ができるような感じだ。
すごくもどかしい。
「僕はとんでもないことをした。本当にごめん」
僕はまず謝った。
彩がいない間のことで話したいことは山ほどあるけど、生きているときに僕は謝ることができていなかったから。
「それはいいのよ。私は誠に出会えたことで人生を満足しているから」
その言葉を聞いて、僕は涙が出てきた。
彼女のためにもっともっとしてあげたいことはあったのに、それをしてあげれなかった。
そして、今後もすることはできない。
僕は今の彼女のためになにができるのだろう。
「そうだ。僕に直接伝えたいことがあったんだよね?」
「そうよ。一度しか言わないからよく聞いてね」
「私のことを忘れてほしい」
「えっ、どうして?」
「それは、誠のためよ。誠はこれからも生きていかなければいけない。ずっと自分を責め続けていちゃ、ダメなのよ」
「でも、彩のことを忘れることなんてできないよ」
「誠ならそういうと思っていた。だから直接言いたかったのよ。いい? 誠のためだけじゃなく、私のためにもなることなのよ。ずっと写真を見つめ悲しんでいる姿を、あの世から見る私の気持ちにもなってみてよ。私も辛くない?」
「それはそうだね」
その姿を想像すると、まるで親孝行ができない子どものような気分がした。
本人が望んでいることもできていない。
それでは本当の意味で、相手を思ってることになれない。
「最後の私のわがままだと思って聞いてほしい。すぐにじゃなくていいから。でも、誠には笑顔で「これから」を生きていてほしいのよ。すぐ近くに新しい出会いもある」
「うん、わかったよ。最後の最後まで心配かけてごめんね。ありがとう」
「こちらこそありがとう。誠にまた出会えて本当によかった」
彩はそう言った時、初めて涙を流した。
きっと一番辛いのは彩だろう。
本当なら覚えていてほしいと思うだろう。
もしかしたら、言いたくない言葉を僕のことを思って言ってくれているのかもしれない。
それなのに、最後まで涙を見せなかった。気丈に振る舞っていた。
そんな彼女を抱き締めたかった。
「ちょっと待って、」
無情にも彩は、静かに消えていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます