五章
一節 「忘れていたこと」
僕はすべて思い出した。
今まで彩との思い出を巡り歩いてきたのだ。
「彩」とは僕が一生一緒にいようと決めた人だ。今もいなきゃいけない存在だ。
そうなのに…。
彩に関する記憶をすべて忘れていたのだ。
彩と幼馴染みでずっと一緒にいたこと。
時計台で、小さな頃に何度も何度もかくれんぼして遊んでいたこと。
青色の花が咲く街でデートしたこと。
彩が僕にくれたたくさんの愛の言葉。
冬の星降る丘でプロポーズをしたこと。
そして、キセキが起こり、それが原因で彩が死んでしまったこと。
押し寄せてきていた悲しみは、彼女を思ってのものだろう。
キセキのせいで、彩が死んでしまったから僕はキセキに嫌悪感を抱いていた。
だから、僕は無意識にキセキを貯めないという選択肢を選んでいたようだ。
自己防衛機能のようなものだ。
思い出せば思い出すほど、涙が止まらなかった。
「最低だ」と小さく叫ぶ。
亡くなっていった人のことを思う人がいないことほど、寂しいことはない。
亡くなってから今まで、彩は一人っきりだったんだ。
何でこんなに大切なことを忘れていたのだろう。
僕はどうしてこんなに弱いのだろう。
僕はあの時彩を守ることができなかった。
誰よりも大事な彩が死んでいくのを僕はただ見ていることしかできなかった。
例えキセキが起こったことでの誤作動だったとしても納得がいかなかった。
キセキという政策がなければ、彩は死なずにすんだんだ。
しかも、僕はその後忘れるということで問題から逃げたんだ。
そして、あの日近くに花蓮がいた。
きっと花蓮がその問題のキセキを起こした。
花蓮は、キセキを集めることを習慣にしているし、たまたまあそこに居合わせたとは考えにくい。
でも、なんのために僕に記憶を思い出せた?
僕の考えが間違っていないと仮定すれば、彼女にとって得することはないはず。
僕は頭が混乱してさっきあの場から逃げ出してきてしまったのだ。
嘘だと信じたかった。
あんなにも明るくいい人な花蓮が彩を殺めたことを認めたくなかった。
あんなにも仲良くなったのに…。
追求することも怖くてできなかった。
人はなかなか変われないようだ。
僕はまた、前と同じように立ち止まっている。
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