四節 「真相は」

あやだったのか」

 彼は起き上がると突然そう言った。

 少しパニックを起こしているのだろうか。それともまだ思い出している途中なのだろうか。

 空気が冷たくて痛い。

「どうしたの、誠? 落ち着いて。 何を思い出したの?」

 私は覚悟した。

 私は実は嘘をついていた。 

 私は以前に、彼と出会ったことがあったのだ。

 私と彼はあの時が初対面ではなかった。

 そして、意図的にもう一度出会った。

 彼が部分的記憶喪失なのも知っていた。

 さすがにどうすれば記憶が戻るからわからなかったけど、何かがうまく導いてくれた。

 私は時間を大切にしている。 

 そんな私が、知りも知らない人と出会って仲良くなるために、時間を使うと思うだろうか。

 私はこの街にきたのは彼を探すためでもあった。

 もちろん、本来の目的は別にある。

 私は……。

「今キセキが起こった? えっ、彩が亡くなっている」

 キセキは人を幸せにするシステムだ。

 それが原因で誰かが死ぬなんて考えられない。あってはいけないことだ。

 でも、キセキがいいことを起こすばかりではなく、キセキの裏側には闇もある。

 何事にも悪い面はある。

「どうして、近くに花蓮がいるの? えっ、なんで?」

 彼は明らかに動揺していた。

 そう、それは一年前のことだ。  

 ある事故が起きた。

 その時、ある少年に声をかけてそこで少し話をした。

 ただそれだけだった。

 すると、なぜか大量にキセキポイントがたまった。

 その後、近くで人が騒いでいた。私が駆けつけると、そこには一人の女性が倒れていた。 

 そこに誠もいた。

 つまりは、本当は少年が死ぬはずだったのだ。

 それを私が助けた。

 しかし私がキセキを起こしたために、別のことが起きてしまった。

 それは神様のいたずらか、代わりに彩と呼ばれる女性が死ぬ運命に変わったということを意味していた。

 あなたの起こしたキセキのせいであの人が代わりに死にました。

 キセキシステムはそんなことをわざわざ通知してこなくていいのにと思う。

 少しキセキに疑問を抱く。

 神様が本当にいるとすれば、残酷なものだ。

 あの時を何度も後悔する。あの時キセキを獲得したことを後悔する。

 でも、時間を巻き戻すことはできない。

「もしかして……いや、でもそんなことがあるはずがない。だって……」

「待って。私の話を聞いて」

 彼はどこまで思い出したのだろう。

 もうすべてのことを思い出したのだろうか。

 それなら私のことを嫌いになるねと涙が出てきた。

 だって、私はあなたから最愛の人を奪った人なのだから。

 そんな思いも伝わらず、彼はどこかに走り去っていってしまったのだった。

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