二節 「躊躇い」
海の底まで見える透き通る水の透明さ。遠くには島も浮かんでいるのが見える。
海がきれいなことは当たり前ではないと色々なところを巡ってわかった。
世の中に当たり前とされていることは、意外と特別であることが多い。
それに気づかないからこそ、人間は時間や物をぞんざいに扱う。
しかし、この海はどこの海よりもきれいだ。
私たちは今海地に来ている。
時間帯は夜。
夜にこの街を歩いたことがないから、夜を選んだ。
私はまだ迷っていた。
ここに来れば、彼はきっと思い出す。
それを知ることが本当に正しいことなのかわからなかった。
私が怖くなっただけかもしれない。
そして、私がこの街にきた理由も話せていない。
「あのさ、どうして忘れたことを思い出したいの?」
彼の服の袖をつかみ、私は我慢できず聞いてしまった。
「うーん、どうしてだろう」
彼は少し考えてそう答えた。彼自身も深く考えたことなかったのだろうか。
少し驚いた顔をしていた。
「何かがあったから意図的に忘れたのかもしれないよ。いいことじゃないかもしれない。だから、それに向き合わず今を生きていくこともできるよね?」
私は彼にどうしてほしいんだろう。
「でも、僕は知りたいんだ。知らなきゃダメな気がするんだ」
「でも、」
「心配してくれてありがとう。でも、心の拠り所なんだ」
彼は私の言葉を遮ってそう言ったのだった。
心の拠り所。
その言葉を聞いて、私にも思い当たることがあった。
あのことが起きてから、私は今の時間を大切にしようと思った。
わかっていなければ、そんな考えに及ばなかっただろう。
ただ平然と生きていただろう。
一度知ってしまったら、もう後戻りはできないと私もわかっている。
目的自体が私の生きる源となっている。
彼とは出会って少ししか経っていない。そんなに彼のこともまだ知らない。
それでも、私は彼に幸せになってほしいと願う。
それは祈りに似ているだろう。
親密さは時間の長さでは、はかれないと思った。
だって私は今こんなにも彼のことを思っているのだから。
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