四章

一節 「この街の最後の場所へ」

「明日は、海地にいかない?」

 ホテルの部屋の中は、暖房がついているのに、どこか寒かった。

 私たちは二人でソファに座って話をしている。

 いつの間にか私たちの距離は近くなっていた。

 私はまた本音とは別のこと言っている。

 嘘のようなものだと感じる。なんだか後ろめたい気持ちだ。

 私が本当に言いたかったことはそんなことじゃない。

 私はある理由でこの街に来たことをまだ全然ちゃんと伝えられていない。  

 彼はその話を聞いてどう思うかわからない。

 だから、言うべきか迷っている。

 彼はきっと隠し事なくすべてのことを話してくれている。 

 彼のひたむきさに感化されたのだろうか。

 本当にすごいなと思う。

 そばにいる以上、私も自分のことは話しておく方がいい気がしてきた。

 それによって彼が、今後一緒に行動するかどうか判断するだろう。

 彼の考え方を借りれば、それがウィンウィンな関係と言える。

 目的のわからない女と一緒になんか行動したくないかもしれない。

 そう考えると、胸が苦しくなる。

 でも、やはりまだ話すことはできない。

 ただ、彼の問題を解決することが私たちの最短コースであることは間違いないことだ。

 彼と接しているうちに、彼への思いやりが生まれてきた。

 こんなにピュアな人がいるんだと思えた。世の中の人がみんな彼のようだったら、私も人を避けたりしない。

 私はいつの間にか彼に好感を持っていた。

 引き寄せられている自分がいることに驚く。

 彼は私のことを拒まず理由も聞かずにそばにおいてくれる。

 そんな優しい彼に甘えているのだ。

 今現在も私の目的のために必要な時間だということを忘れてはいけない。

 私は、気持ちを再び奮い立たせたのだった。

「そうだね。この街の最後の場所だね」

 彼はそう言って、無理して笑っていた。

 きっとなくした記憶を集めることは、不安もあるだろう。 

 自分が何者かわからないなんて、すごく不安定だと思う。

 それからしばらく彼の話を聞いた。

 そして、海地でまた何かが起こる。

 それはきっと回避できないことであろう。

 私はそっと、彼の手に自分の手を重ねた。 

 彼は手を握ってくれた

 彼の手は温かかった。

 彼の話を聞くと、「キセキが貯まりました」と通知がきたのでいつものように受け取った。

 彼は少し嫌そうな顔していたけど、これは私のポイントだから、何も言わなかった。

 時計の針の音だけが、部屋に響いていた。

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