四節 「近づく距離」

 いつの間にか太陽は沈んでいた。

 星空を見ると、まだ少し頭が痛くなる。 

 星空……。

 僕は考えることをやめた。

 ふらふらしながら僕はまた歩き始めた。

 予約しているホテルにたどり着いた。

 汗は流れ、息は上がっていた。

 体がうまく機能しないのが、こんなにしんどいとは思わなかった。

 思い出したことの反動だろうか。

 体は、重りがのし掛かったように重い。

 彼女は「付き添うよ」と言ってくれたから、その言葉に甘えることにした。

 自然とそんな言葉が出てくる彼女を尊敬する。

 僕もそんな人間になりたい。

 彼女も泊まるホテルを探していると言っていたから、今日は僕の部屋で泊まったらいいよと言った。

 たまたま広い部屋を予約していたから。

 いや、色々なことが起こりすぎて、僕も麻痺していたのだろう。

 普通はそんなことを異性に言わない。

 それも会ったばかりの人には絶対言わない。

 でもこんな時間に、女の人一人でホテル探しをさせるわけにはいかない。それぐらいのことは僕でもわかる。

 彼女は少し驚いていたけど、「じゃあそうするね」と言っていた。

 確かにここ数日で色々なことが一気に起こった。

 でもこれから先も起こるのだろう。

 そんな予感がした。

 僕は一体何者なんだろう。

 しかし、僕はどれぐらい意識を失っていたのだろう。

 僕にとってはすごく長い時間だったように感じたけど、少しの間の出来事かもしれない。

 その間、彼女はそばにいてくれていたことになる。

 彼女は僕を守ってくれていた。

 彼女に感謝の気持ちを伝えた。

「びっくりしたよ。でも、なにか思い出せたみたいね」

 彼女はゆっくり話しながら、心配そうな顔をしていた。

 彼女としても複雑な気持ちなんだろう。

 いきなり目の前で人が倒れて、でも思い出したいことは思い出したのだから。

 「よかったね」とは素直に言えないだろう。

 そして、彼女は提案だけどと前置きをしてあることを話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る