三節 「時計台と思い出」
オフィス地は、とても広かった。
接道はどこまでも続いている気がするし、高層ビルはあちこちに建ち並んでいる。
少し没個性的で、殺風景な気がするけど、それは仕方ない。
オフィスが立ち並ぶ中に、住宅も多くあった。
「オフィス地には、住宅がたくさんあるね」
僕は彼女に話しかける。
なんだか彼女といると自然と笑顔になっていた。
そんなことに気づいた。
「そうね。利便性を考えると、やはり仕事場の近くに住みたいと思うよね」
「なるほどね。合理的に作られてるんだね」
突然、ごーんごーんと鐘の音が聞こえてきた。
「あっ、もうこんな時間なんだね。ほら、あそこに時計台があるよ」
時計台。
そう言われて振り返ったときに、またあの時のように頭が痛くなった。
ふらついて、膝をついた。
空は夕焼けがきれいだ。
大きな時計台だ。
時計が時間を知られる。
鐘の音色は、僕をあるときのことを思い出させる。
「誠くん、かくれんぼしようよ」
僕は子供の姿をしている。
また、女の人が僕に話しかけている。
その人も子供の姿をしている。
「どこでするのー?」
「あの時計台の中でしよー」
「うん、じゃあ僕が隠れるから探してね」
「もーいーかい?」
「まーだだよ」
「もーいーかい?」
いつまでも声が響いている。
鐘がごーんごーんと鳴り響いていた。
それは確かに幸せな音色だった。
「大丈夫?」
言葉が遠くから聞こえてくる。
花蓮の言葉で、僕は現実に引き戻される。
記憶が甦ってくる。
そして、僕は思い出した。
時計台に、僕はよく来ていた。
僕はこの時計台で誰かとかくれんぼをしていたんだ。
とても楽しそうに笑っていた。
誰かはまだわからないけど、例の女性の子供の頃の姿だと直感でわかった。
しかも、毎日遊んでいたようだ。
そして、僕は小さな頃からずっとこの街に住んでいたとやっと思い出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます