三章
一節 「困惑と部分的記憶喪失」
僕はあの時どうして彼女をこんなにも簡単に受け入れたのだろう。
損得勘定で考えるなら、彼女は未知だから得するとは考えづらい。
ただ、自然と彼女は僕の心の中に入ってきた。
その時僕は確かに彼女を意識した。
それは必然の出会いだったのかもしれない。
その女性は突然話しかけてきて、僕のことを知りたいと言ってきた。
背は低いけど、柔らかい大人な雰囲気がある。
実際僕よりきっと年上だろう。
でも、ツインテールと話し方から幼い感じがする。
そして、僕は二つの理由で困った。
一つ目は、どう接していいかわからないということだ。
僕は合理的な行動をするあまり、未知のことにたいしては対処がうまくない。
無視するという方法もあった。
でも彼女が近づいてきたのは、僕の記憶に関係がある可能性もある。
僕のことを知っているかもしれない。
そうすると、かかわる必要がある。
現段階ではわからないけど、様子を見てみる必要がある。
二つ目は、記憶に曖昧な部分があるということ。
あなたのことを教えてと言われても、自分でもわからない部分があるのだから教えられない部分がある。
しかし、誰かに話すことで何か思い出すこともあるかもしれないと思った。
辺りを見回すと、少し人だかりができていた。
このときは、彼女の累計ポイントのことは気づいていなかった。だから単純に、道のど真ん中でいきなり話しかけられたのだからそんな風になるかと思った。
このまま道端で話していると目立つから嫌だなと思った。
僕は個性的な服装のために街で目立つことが多い。
だからといってその服装をやめようとは思わない。
でも、実は目立つことはできれば避けたいと思っている。
ただ自分の好きな服を自由に着たいだけだ。
「とりあえず、どこかカフェに入りませんか?」
「そうだね、いこう」と彼女は楽しそうに前を歩き始めた。
カラフルな色のカフェだ。
ポップな感じがする。
一目でこのお店好きだなと思った。
彼女が選んでくれた。彼女と感性が似ているのだろうか。
僕たちは、改めて自己紹介した。
そして、僕は今の現状を彼女に素直に伝えた。
重要なことは始めに言っておいた方がいいし、今後の話も進みやすい。
彼女は少し考えていた。真剣さが伝わってくる。
そして、一言こう言った。
「それって、もしかしたら部分的記憶喪失じゃない?」
「えっ、そんなのあるの?」
僕には聞いたことない言葉だった。
記憶喪失なんて、事故に遭ったなどの脳に大きな損傷をしないと起きないものだと思っていた。
「何かが原因で、一部の記憶が消えてしまうことがあるらしいよ。思い当たる節はある?」
そう言って、彼女は詳しく症状を教えてくれた。
不快な体験や出来事などがあり、特定のことや人物を思い出せなくなる。
また自分のこともわからなくなることもあるらしい。
聞けば聞くほど自分に当てはまる気がした。
「うーん、全然ないから困ってるんだ。といういうか、わからないことだらけなんだ」
「そっか。じゃあさ、一緒に記憶の手がかりを探さない?」
「えっ、何で一緒に?」
「二人の方が早く見つかるからだよ。それにこんなにかわいいお姉さんと一緒に行動できるんだから嬉しいでしょ?」
彼女はおどけてニコッと笑った。
ついみとれてしまうような美しい笑顔だ。
「別にいいけど。何でそんなことしてくれるの?」
「私にもこの街に来た目的があるから、そのついでだよ」
なんだか彼女の勢いに負けた気がする。
そうして、僕たちは二人で記憶を探し始めるようになった。
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