四節 「思い出したことは?」

まこと大好きだよ。これから先どんなことがあっても、ずっと一緒にいようね。うん、約束しようね」

 祝福するような明るい音楽が聞こえてくる。

 何てきれいな空なんだろう。

 僕も笑っている。

 この風景を切り取って、部屋に飾りたいと思う。

 

 はっと我に変える。

 そう、僕は 桜庭 さくらば まことという。

 でも、今の記憶は、いつのことのだろうか。

 そして、僕のことを呼ぶ女性は誰だろう。

 どうして思い出せないのだろうか。

 実は目的地はなぜそこなのか、自分でもわかっていない。

 スマホに登録されている場所がそこだけだったので、僕はそこに向かってみることにしたのだ。  

 きっと自分のことを何か知れるはずだ。 

「星降る丘に到着しました」

 スマホがそう伝えてきた。

 僕は、接道から降りる。

 そこは、見晴らしのいい丘だった。

 さっきまでいた街がよく見える。青くてきれいだ。

 今は日が沈みかけている。

 きっと、名前の通り、夜は星がきれいに見えるのだろうなと思った。 

 そこで、改めて街の景色をもう一度見たとき、頭が急に痛くなった。

 頭の中で情報が交差する。

 青く染まる街、僕を呼ぶ声。


 やっとわかった。 

 僕はこの場所に以前、例の女性と来たのだ。

 でも、何で来たのだろう。

 そこの部分はぽっこり穴が開いたようにまだ思い出せない。

 まだまだわからないことだらけだ。

 でも怖くはなかった。 

 むしろ、少しだけ心が温かくなった。 

 もっと思い出したいと思ったからだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る