三節 「僕のキセキポイントは?」

 風が冷たさと共に、悲しみをつれてくる。

 その悲しみはいったい誰を思ってのものだろう。

 僕は季節の中で冬が一番好きだ。

 なのに、たまに冬になると胸が痛くなるときがある。

 冬に一体僕になにがあったのだろう。

 自分のことなのに、いつもわからなくなる。

 どうして自分のことなのに、こんなにわからないことだらけなんだろう。

 

 僕は自分のキセキポイント累計を確認する。

 確認すると言うよりは、いつも誰かに言い聞かせているようなものだ。 

 それが誰かはわからない。

 きっと、キセキを貯めて喜んでいる人たちに向けてだと思う。

 「ただいまの累計ポイントは、0ポイントです」

 国民の平均は300万ポイントぐらいだ。

 平均値は年々恐ろしい勢いで増えている。

 多い人では、1億を越える。

 芸能人や政治家はそれぐらいある。

 300万ポイントあると、老後に裕福ではないけど最低限の生活はできる。 

 平均値がそれだけあるのだから、制度としてうまくいっていると言えるのだろう。

 人生は昔より豊かになっている。

 600万ポイントあると、なに不自由なく生活できる。  

 ちなみに、一億までいくと、王様のような生活ができる。

 もちろん、そこまで貯めなくても、少しのポイントでも色々なサービスと交換することができる。

 そんな中、0という数字の人は僕以外にはきっといないだろう。

 なにせ、キセキは貯めて得することはあれ、損をすることはないからだ。 

 興味はあまりなくても、大なり小なり一回は受け取っているだろう。

 でも、僕は今後もキセキを貯めようと思わない。

 人生を豊かにしたくないわけではないし、諦めてもいない。

 むしろ人並みに幸せになりたいと思っている。 

 でも、キセキに頼りたくない気持ちがなんとなくある。 

 それはどこから湧いてくるものかわからないけど、これが確かな僕の意思だと思っている。  

 きっと大事な思いがあるから、僕はキセキを貯めないという選択肢をとっているのだ。 

 雪はいつの間にか止んでいた。 

 天候はすぐに変わるものだ。

 そうして、もうすぐ目的地に着く。

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