第63話 今度はブラジャー着け始めたから透けない~七里ヶ浜③~
一瞬だけ海水の中に閉じ込められた俺は、呼吸もできない空間をさまよった。
どっちが上だっけ?
どっちが下だっけ?
とそうこうしている内に――そこまで伸ばしていない手が地面にあたって、俺はここが膝から下程度の浅瀬である事を悟った。
「ぷはっ……!」
俺が海面から顔を出すのと同時に、結夢も水中から顔を出していた。
「大丈夫か? 結夢」
「……はい」
「また盛大にやらかしたな……これは」
二人で立ち上がるが、ピクニックの時とは比べ物にならないほどにぼたぼたと水が垂れていた。
前は水をかけられただけなのに対して、今度は海の中に入っちまったんだもんな。
「えっと、えっと……えっと」
逆に頭が冷えたのか、更に冷静になり始めた様子で、海の中みたいに目が泳ぎ始めた。
そりゃ……まだあのショックも冷え切っていないだろうに。
折角の可愛い服がびしょぬれになったらそうなるわな。
やばい。
結夢の服、ピクニックの時よりは硬い材質みたいだが、しかし上半身は既に結夢の胸に張り付いている。
――と思ったら。
――今度は思ったよりも胸の形がはっきりしない。
「……礼人さん、服、替えありますか……?」
俺の心配か?
そんな余裕があるとは意外だが……、
「俺は気にしてない。この辺そういう時にも備えて服屋とか置いてあるみたいだし、そこで替えの服でも買っちまおう」
「……そう、だったんですか」
「またピクニックの時みたいに暫く我慢してもらう事になっちまうが……」
「いえ、私は、だ、大丈夫です」
「大丈夫?」
心配する俺を逆に励まそうと、海水が滴る顔に強さを宿らせながら返してきた。
「今回はこんな事もあろうかと……! 着替えを一式、持ってきていたので……!」
「マジで!?」
「だからわたしは……今回は濡れても、大丈夫です……」
いや、まあ確かにピクニックの時はずぶ濡れになっていたけれど、あれはイレギュラー中のイレギュラーだ。
確かに海の近くに来ることもこうして考えていたわけだけど、そんな『そんな事もあろうかと』があってたまるか。
「それに……今度は、お、おっぱい、す、透けないから……」
「透けない……? いや、まあ、それは」
何か顔赤らめてるけど、こっちの方が目を逸らしたいからな。それ。
「ブラジャー……最近、着けてみましたので」
「お、お、おう……」
いや、あのね。
男の子って、どんなブラジャーの形をしているかも興味そそられちゃうのよ?
例えば服に透けている二重の紐とか、結構気になるのよ?
「でも、礼人さんの方が服屋まで我慢する事に……」
「……いいんじゃないか?」
何だか俺が濡れる事はどうでも良かった。
何だか、もっと濡れて見たくなった。
海水の泥で服を汚して、跳びはねる水しぶきで結夢をもっと濡らしてみたかった。
「こういうのも何か、楽しいからさ」
「……」
ざぱん、と。
結夢の小さな体が俺の隣へ飛び込んできた。
更にぐしゃぐしゃになった髪
「にへ、にへへへ……」
以前ピクニックで水をかけられた彼女は、物凄い狼狽していた記憶がある。
でも今回は、これも思い出の一つであるかのように、楽しそうに笑って見せてくれていた。
俺達は暫く。
海の中で、じゃれあった。
別に泡から生まれたアフロディーデみたいに神として忙しくなければ、泡に消えてしまう人魚姫の様に過酷な運命を背負った訳でもないのだから。
で、俺達は一つだけ大事なことを忘れていた。
「どこで着替えようか」
「そ、そうですね……」
ピクニックの時は秘密基地があったから気にはしなかったし、結夢もそこまで気が回っていなかったらしい。
だが流石に今回は草木も無い砂浜だから、結夢の着替えを隠す事も出来ない。
「な、なんとか……着替えてみます」
「いや、恥ずかしいだろ」
「だ、だい、じょうぶ、です」
声が固まっとる。
さて、どうしたもんか。
「……あっ」
俺の眼に止まった一つの小屋があった。
民宿。
そこには一日を過ごす宿泊の代金と、日中の決められた時間だけ休む事が出来る休憩の代金が書いてあった。
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