幕間4話先手 一方その頃妹の親友も、天使の恋愛について気になっていた
京都出身の
中学から同じバレーボール部である菜々緒の繋がりで会い、偶に結夢と弁当を交換する仲になったのだった。
新入生テストで学年一位を取った彼女に尊敬の念を抱いていた、GW明け。
その会話は、菜々緒と共に部活終わりの帰路に着いていた時の事だった。
「……えっ、結夢ちゃん、あの礼人さんと付き合い始めたん!?」
「そー。本人たちは隠してるつもりらしいけど。だから結夢ちゃんの前では言っちゃだめだよ」
「そらたまげたわぁ。でもあの礼人さんと結夢ちゃんならお似合いやんねぇ」
「初音っちから見てもそう思うの?」
「思うよぉ。何だかんだで中学時代、私たちが主力だった時代に全力で応援してくれた『聖人』柊礼人やで? こんな菜々緒んを養えるのも彼しかおらんで? 感謝しーや?」
初音も礼人の事は忘れはしない。
勿論彼にとっても母校だったこともあるのだろうが、妹も含めたバレーボール部の応援に駆け付けた姿を。
そして裏方として徹し、試合に負けそうな自分達を必死に励ましてくれた勇姿を菜々緒以外は忘れていない。
「めっちゃバレーボール部の中でも人気やったもんなぁ。あの後礼人さんの事めっちゃ好きな人多かったんやで?」
「まじで?」
「妹の菜々緒んが知らんってどういう神経してはるの!?」
菜々緒はまったく知らなかったらしい。
礼人と結夢の秘密の関係には即座に気付いたというのに。
「しかし……その塾、私も今週から行くところやんかー。礼人さんにまた会えるとか楽しみやわー」
「妹の私としては、あの二人が塾でどんなふうにイチャイチャしてるのか、あるいはしてないのか気になっている」
「礼人さん真面目そうやし、結夢ちゃん男が出来たというのが信じらへんくらい奥手やからな。面白そうや! 是非実況中継したるわ」
「かたじけない」
「任せとき」
そして後日。
初音、初の塾登校日。
ここからは、初音はこっそり菜々緒と連絡を取りながら、目に映った様子を静かに話していく。
世が世ならスパイでも暗殺者でも忍者でも出来そうな、連絡スキルである。
「塾きたで菜々緒ん!」
『よしコードネーム『木稲は実はこのみって読むんやで』、行ってこい!』
「もっと別のコードネーム無いんかい! 行くぞー!」
ええいままよ、と塾に特攻。
事務員らしき(森末さんと言うらしい)人に席を案内される。
個別塾故に、一つの教室にカウンター形式で三つの机がセットで置かれているのだ。
「菜々緒ん! 塾長、おらんで!」
『その塾、塾長が不在にしてる事が多いらしいよ。なんでも他の塾との掛け持ちなんだとか』
「教育業界は本当に人手不足なんやねぇ」
『先生教員の人手不足も、いじめに拍車をかけてんのかな……』
菜々緒がいじめの話をするとは珍しいな? 雪でも降るんやな、と思わず立ち止まってしまった。
「ちなみにウチの先生、礼人さんや無いらしいわぁ」
『準備不足だ! 兄ちゃんは現代文は専門外!』
「まあ数学も取っとるし、ウチの授業はまた今度やな……あぁ、礼人さんや! イケメン度増しとるがな!」
入ってきた礼人は初音の事を覚えていたようで、少しだけ会話を交わした。
ちなみに、自分の事は先生で呼ぶように、かつ今大学生である事は言わない様に釘を刺された。
『まあそれは塾講師の不文律みたいなものだから仕方ないね』
「……いやぁ、でも柊先生と付き合えてるなんて結夢ちゃん羨ましいたけやわぁ」
『結夢ちゃんそろそろ来るんじゃない?』
「噂をすれば結夢ちゃんや! おーい!」
手をぶんぶん振ると、結夢も予想外の様で驚いた顔で初音を見ていた。
「あー、学校で見る結夢ちゃんも癒されるけど、塾で見る結夢ちゃんも撫でまわしたいわぁ」
「もしもし? 初音っち?」
礼人と結夢が、同じ机に座った。
礼人が結夢に教える英語――の二人の後姿を見つめ、その授業を固唾をのんで見守っていた。
「そういえば結夢、受動系に難有って言ってたな……」
「中学時代も、ここで引っかかってしまって……」
「苦手意識がある所は仕方ない仕方ない。まあ、まずは概念の説明からするか」
「はい……」
完全に結夢が、惚れている人を見る目だった。
礼人も結夢ほど顕著ではないにしても、どこか声付きが優しくなっている様な気がした。
「成程……言われてみれば、やっぱりリア充の匂いがプンプンするわぁ……」
礼人の後姿で分かる、先生という肩書が良くに似合ったイケメン補正に。
そして結夢の挙動で分かる、礼人に惚れている事が分かる可愛さに。
そして、その二人を包む生徒と先生という関係では隠し切れない尊さに、同性の初音もときめく。
「やっばい、結夢ちゃん尊さ増しとらん……? あかんわ、私が行って二人に抱き着きたいわぁ。涎垂れるわぁ。待って、こんなん舞ってまうで」
『お主がぶち壊そうとしてどうすんねん。人選ミスったよ』
しかし、この後初音はさらに舞う。
ドキドキと、ドギマギが連続して二人の後姿から降りかかってくるのだ。
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