第40話 天使から見た、先生
結夢が目を覚ました時、見えた時計の短針は夜中の二時を示していた。
けれど、結夢が正常に判断出来たのはここまでだった。
「……!? ――!?」
声にならなかった。
何故なら、自分の胸元で礼人が眠っていたのだから。
ソファの座る部分で、結夢を背もたれ部分に追い込む形で平行にねていたのだから。
「れ、れいと、しゃん、あ、ひゃっ……」
すっかり夢の中だった礼人は、結夢の中。
横向きで若干潰れていた二つの母性の塊に礼人は埋もれていた。
胸に伝わる感覚は、案外くすぐったくはなかったけれど。
かといって、女性にとって大事な二つの山。それを抑えられては、声を出さずにはいられない。
「あっ、あっ、はっ、ひゃっ、ん……」
喘ぎながらも結夢の中には一つの考えがあった。
沢山の鼓動がやっぱりなっていて、だけどその鼓動のおかげで礼人はぐっすり眠れているんじゃないのか、と。
「……私、この人の、恋人に、なっちゃったんだ……」
眼鏡を外しても、良く見える。良く感じる。
将来を誓っただけでなく、将来を一緒に考えてくれた仲。
礼人は自分の為に描いた夢のつもりだろうが、結夢にも使いまわしてくれた。
いきなり、幸せを分けてくれた。
もしかしたら、結局この二人の関係はどこまでいっても、あの小学生の頃と変わらないのかもしれない。
菜々緒も含めて、小学生の頃に『家族のような関係』は経験済みだ。
一緒に風呂にだって入ったし、一緒にこうして寝たこともある。
だけど、気持ちはあの頃よりも純粋になって、進化していると思うから。
ただ、礼人の隣にいたかったから。
ただ、礼人を愛おしく思ったこの気持ちに、嘘をつきたくなかったから。
だから、礼人にも嘘をついてほしくなかった。
嘘をつかず、先生と生徒の狭間に悩む礼人には本当に申し訳ないと思う反面、かっこよくも見えた。
だからこそ、礼人の夢が行き着く先を特等席で見たいし、その障害になるんじゃなくて潤滑油になりたかった。
「わっ、あっ、あっ……」
結夢の膝を包んでいたブランケット一枚を共有しながら、気持ちよさそうに眠る礼人が皿に抱き着いてきた。
「……あっ、ん、だ、め……」
尻肉を掴まれ、背中を掴まれ、胸に更に深く顔が突き刺さる。
特に尻は恥ずかしい。
こんな汚い所を触って、どうしてこんなに穏やかそうな顔になるのだろう。
でも、恥ずかしいと思うし、こんな一面もやっぱりあるんだなぁと思いつつ。
なんだか、嬉しく思えてしまう。
もう少しだけ。
もう少しだけ、このままで。
もう少しだけ、ここにいさせて。
もう二度と離さないじゃなくて、もう一度、何度でも。
「いつも……本当に、ありがとう……お疲れ様……」
疲れた時に、こうして隣で寄り添って、一緒に考えて上げられるだけの人になりない。
そんな風に寝ぼけ眼をこすりながら、礼人の寝顔をずっと、ずっと、ずっと――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます