第33話 なでなでされたいんだって。天使ちゃん
という訳で勉強続行。
暫く結夢に教えながら(ドキマキしながら)いい感じに筆が進んだ。
確かに俺も結夢も、何だか変な感じになって教えて教えられてだったけど、それでもこの距離ならスムーズに進むところまでは着た。
結夢も頑張ってくれている。
それに、この分なら新入生テストで好成績を収める事もできるだろう。
「うわっ、こんな応用問題も出るのか……」
「はい……何か数学の先生、とても厳しい人で……ちょっとここが分からないです」
「まあ一応類題は見たことあるが……こんなん偏差値70の高校だぞ……」
「なな、70……」
「でも凄いなぁ。他の問題も、結構難しいのに。どれも正解じゃんか」
「ほ、本当ですか。にへ、にへへへ……」
おーい、参考書で顔を隠すな。教えられないだろ。
参考書で顔の下半分隠しながら、嬉しそうに見つめてくるな。可愛いだろう。
「礼人さんが……塾で、ひ、柊先生が……教えてくれたから」
「嬉しいけど残念ながらそこは結夢の努力だろう。中学時代、本当に勉強頑張ったからな」
「はい……勉強と料理しか、やる事無かったので……」
「でも今は、やりたい事沢山あるんじゃないのか。あのニートな癖にバイタリティ高すぎる菜々緒の近くにいると、いやでも振り回されるんじゃないか?」
「そ、そうです……ななちゃん、すごいです……私、ななちゃんと出会えてよかったです……」
「そう言ってくれると、兄として誇らしいよ」
「れ、れれ、礼人さんにも……会えて……こうやって一緒に勉強出来て……私の先生で……うれしい、です……」
「……ありがとうな」
単純に嬉しいじゃないか。畜生。
思わずなでなでしそうに手を伸ばしてしまった。
それくらいの庇護欲が、彼女にはあったからだ。
「……」
勿論理性で止めたけど。
女子へのボディータッチは、今の時代では教員が訴えられる可能性があるからだ。
この前胸を触ってしまったのは、彼女を暖める為の緊急処置だ(言ってて言い訳っぽい気がするが、もうこの際気にしない)。
今は、そこまで触る必要はない。口で褒めてやるのが正解だ。
「……えっと」
しかし結夢の眼は、相変わらず申し訳なさそうながらも願わくば……されたいと言いたそうな顔だった。
俺もそんな結夢を見て悟ったが、手を引きかけたその時だった。
「えいっ」
結夢の方から俺の掌に飛び込んでいった。
結果、俺の手が結夢の頭を触る形になった。
「ありがとうございます……撫でてくれて、嬉しいです……きっと、先生としてどうだろうとか、考えていたん……ですよね」
「……ああ」
「私は……礼人さんみたいに、尊敬して、カッコいい先生から撫でられたら……とても、嬉しいです……私は……撫でても……大丈夫です……」
それを見透かした上で、自分から飛び込んできたのだろう。
敵わないなぁ。
「ちょっとだけ」
「……はい」
俺の前でしゃがみ込んで、頭を差し出していた彼女の髪を撫でた。
何だか猫を撫でてるみたいで、可愛かった。
「やった、にへ、にへへへ……」
心の声相変わらず駄々洩れだよ。
でも同じ真っ赤な顔でも、ここまで嬉しさゆえに顔をほころばせているのは見たことが無いな。
でも、何か忘れている様な……。
俺が触れられるまで近づけている、という事は……
「あ……この距離でも大丈夫になったんだな」
俺が指摘すると。
途端に、嬉しさじゃなく恥じらいの顔で真っ赤になる。
「……あ、あ……えっと……平方完成が平方完成で……」
「……いや、何かに集中していれば近づいても大丈夫だと分かっただけでも――」
俺が離れようとした時。
結夢に手を掴まれた。
「……もう少し、この距離で……いさせてください」
「……」
俺もときめきを抑えながら、結夢の我儘に応じる事にした。
結夢がここまで頑張ろうとするなんて、頼み込んで変わろうとするなんて、珍しいなと思ったからだ。
だけど、この時。
俺は本当に悲しい事に、気づいてしまった。
「あっ……」
制服のスカートで、しゃがみ込んでいたがゆえに。
膝と太ももの隙間、水色のチェック模様の布が見えてしまっていた。
「えっ……」
それに――結夢も気づく。
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