第30話 ところで天使な生徒と、先生の妹の関係

 家に帰ると、バスタオル一枚で半裸の菜々緒がドライヤーをしていた。

 しかもリビングでテレビ見ながらお菓子食べつつ。

 

「あっ、おかえりー」

「お前……友達来てる時くらいはちゃんと服着て家歩け」

「ぎゃあ! 不審者! 夜の授業されちゃうよぉ!」

「目下お前が変質者な」


 最早いつも通りだし、見慣れた光景なので残念な事に「きゃー! ほにゃら太さんのエッチぃ!」みたいな事は思わないし思われない。

 兄妹としてはよくある筈のワンシーンだが、どうやらこんな事を重ねてきちまった事が原因なのかもしれない。

 結夢の接し方も必要以上に近い物になってしまったのは。

 

 隣でわなわなと親友のだらしない姿に白目になってしまっている結夢が妹なら、多分こんな事にはならないんだろうがな。

 

「な、ななちゃん……家だといつもそ、そんな、裸で、は、裸で……!」

「うん。着替えとか洗面所持ってくの忘れちゃうのよく多くてさ。まあエアコンついてるし、案外寒くない寒くない」

「ななちゃん、でも良くないと思います。ちゃんと服着ましょう」

「大丈夫だよ。結夢ちゃんも全裸になってみようよ。案外解放感が……」


 結夢が、これまで見たことないような怖い笑顔で返した。

 

「いい?」

「あっ、はい。すみませんでした」


 あっ、結夢の背中から一瞬灼熱の翼が見えた。

 笑顔ながらめっちゃ激怒してる事は俺にも分かった。

 あの菜々緒が即座に謝って、服を着に部屋に戻ったのが威力を物語る。

 しかも結夢も、ちゃんとそれを見届ける為か菜々緒に着いて行ってしまった。

 

「ふえええ……結夢ちゃん、別に新入生テストの勉強なんてやらなくてもいいじゃない。内申で人間価値が決まる中学時代からはオサラバ出来たんだからぁ」

「駄目です、今からちゃんと勉強の癖を着けないと受験にも差し支えるって、礼人さん言ってましたから……!」

「おぼぼぼー」

「一時間だけ。ね、頑張りましょう。菜々緒ちゃんの得意な社会からやりますから」


 意外な力関係。

 面倒くさがる菜々緒の手を引っ張る結夢の方がリードしてやがる。

 菜々緒が、菜々緒が嫌々ながらとはいえ勉強道具持ってるよ。兄として感動せざるを得ない。

 どうやって菜々緒にノートと参考書とペン持たせたんだ。ひょっとして俺よりも先生向いてる説ない?

 

「ほら、お菓子食べながら。ねっ?」

「ぬぬぬ……夜に食べるはギルティだが、結夢ちゃんの手作りならば食べない手はないナリ」


 で、その手作りなシフォンはいつの間に作ったんですかという話だ。

 さっき家でそんなものをパッケージした様子はなかったぞ?

 この家で作ったとか、明らかに時間停止でもなきゃ説明はつかないぞ?

 

「……礼人さん。社会はきっと範疇外だと思いますけど……もしよかったら、礼人さんも大学の課題とか……一緒にどうですか」

「先生舐めんな。分かんなかったら範疇外でも一緒に考えるさ……そのシフォンも美味しそうだからな」

「にへ、にへ、にへへへへ……」


 じゃあ、大学の課題を持ってきて……と。

 おい、菜々緒。なんて眼福そうな眼をしてやがる。

 

「ところでさ結夢ちゃん。兄ちゃんがどんな風に授業しているか、不肖の妹に教えてくれ」

「えっ、どういう事……?」


 俺は続きを聞きたくなかった。

 この悪魔のような顔をしている菜々緒は、大体やらかすから!

 

「例えばソファに二人で座って、実際に教えて見せてくれ。兄ちゃん」

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