第25話 妹から見た俺達の恋模様

「う、う―……ん」


 ソファですっかり逆上せた状態の結夢を横たえて、暫く経過。

 時折タオルを額に乗せたり、団扇で仰いだりして顔の熱を冷ます事に専念する。

 ソファの住人菜々緒も、流石に親友の危機にソファを明け渡しては、団扇をパタパタするしか手はなかった。

 

「でさ、ぶっちゃけこの前のピクニックで何があったのさ」

「だから言ってるだろう、天地神明に誓って何もないと」

「男子が来ているシャツを女子に貸してる時点でそれは神様に嘘を言っているんだよ」


 うぐ、菜々緒にしては珍しく反論のしようもない事を言いやがる。

 それくらい、実際ピクニックで何かがあり過ぎた。

 

「実際、結夢ちゃん高校でも良く聞いてくるのよ。兄ちゃんは今家でどうしてんのかー、とか」

「……そうかい」

「じゃあ何かあったのかなんて問い詰めると、完全にオーバーフロー起こしちゃうから何も聞けてなかったんだ」


 やはり高校生活でも不自由してるのか。

 しかも常にそんな様子を見せているとなると、他の人の眼も気になる。

 

「……結夢、高校でいじめられたりしてないか?」

「なに? やっぱり兄ちゃん気になるんだ」

「こんなにいい子がいじめられるような世界、嫌だろ」


 なんだ、菜々緒。その、にんまりした顔は。

 面倒くさい顔だ。やめてくれ。

 

「大丈夫大丈夫。小さくて優しいなんて第一印象しか知らない様な虫は、近づけないようにしてるから」

「虫って……男の事か?」

「そうそう。意外とグイグイ来る奴がいるのよ。結夢ちゃんみたいな子、珍しくないから。だから安心しとれ」


 いや、別に男が寄ってくるのとかは聞いていないんだけど。

 まあでもそうか。そりゃこんなに気配り出来る子とかはモテるだろうな。

 後は意外と交友関係の広い菜々緒と、好き嫌いをなくすように指摘できる関係ならそこも気にする必要はないのか。

 

「ただ、高校でもそうなっちまってるなら隠し切れないだろうな。別に付き合い始めた訳じゃない。ただ……俺が不甲斐ないせいで、色々結夢に負担を背負わせてしまったし、結夢がこうなってしまう原因の事もしたってくらいだ」

「小学校の頃、あんなに一緒に風呂に入ったのに」

「案外自我が芽生えてなかったという事か」

「じゃあ結夢ちゃんは自我の芽生えが速かったという事ねぇ」

「何で?」

 

 菜々緒がふぅ、と息をついて続けるのだった。

 

「だって、結夢ちゃんは兄ちゃんの事好きなのは昔から変わらないもん。ああ、ライクじゃなくてラブな方ね」

「昔から……?」

「兄ちゃん流石に中学生になれば気づくかなって思ったけど、全然結夢ちゃんにそういう感情見せなかったんだもん」

「結夢が、昔から俺の事を……?」

「兄ちゃん、時に中学校の頃バレンタイン誰から貰ってた?」


 えーと、中学生の頃か。

 あの頃は本当に女子と縁が無かったからな。絵美みたいな女友達もいなかったからな。(さりとて面白くない事に絵美からのバレンタインはチロルチョコ投げられた事しかない上、ホワイトデーのお返し要求が酷い)


「うん。結夢からしか貰ってないな」

「それがどういう意味かは分かってるよね」

「義理チョコだと思ってた」

「手紙付きで、ハートマークをした手作りの大きなチョコを貰っておいて、それが分からないのは流石に引くんだよ」


 うん。俺もそう思う。

 過去にタイムスリップしたらするべきことに、中学三年生の自分を殴り倒すという項目を入れたい。

 叶わなかった初恋にいつまでも現を抜かしてんじゃねえ! って。

 

「まあそれは置いといて、結夢ちゃんが今は兄ちゃんに好意を抱いているっていうのは分かってるって訳よね? そういう会話が本人からあったという事よね」

「確定じゃない。確定……じゃない」

「いや、結夢ちゃんのアプローチで確定じゃない言ってたらこの先兄ちゃん、全部確定じゃないで婚期逃すぜ」

「確かに俺も酷いかもしれないけど、ソファから一日も動かずスマホ弄ってるお前も婚期逃すからな」

「別にいい。私は結夢ちゃんとお兄ちゃんが結婚したら、養ってもらうから」

「仮にそうなったとして、俺はまずお前を千尋せんじんの谷に叩き落とす」

「何? お兄ちゃんには千尋ちひろの谷間があるから結夢ちゃんは要らないって言うのね! 誰よそいつ! 私の養ってもらう計画を台無しにする、ちひろなんて糞ビッチはー!?」

「どう頑張ったら『せんじん』から『ちひろ』に飛ぶんだよ! 何で新キャラが登場しちゃってんだよ! 何故お前はそこまで養ってもらう事にベストを尽くすんだよ!」


 ああ、もう今は突っ込む気分じゃないって言うのに!

 精神的に疲れてるから、今は結夢の看病に専念してほしいんですけど!?

 とまた声を荒げそうになった所でこいつときたら、また話の最中にスマートフォンを耳へ挟みやがった。


「あっ、もしもし? 結夢ママー? うん元気元気ー」


 えっ、また結夢のお母さんと電話してるのか。

 っていうかこいつ、前々から思っていたがいつの間に結夢の母さんとアカウント交換したんだ?

 

「うん。うん。ああ、結夢ちゃんね、今寝てるー」


 多分結夢に電話したけど繋がらないのーなんて話をしているんだよな。

 まさか俺と密着した結果、あまりの驚きに気絶中なんて言えないよな……。


「あー。分かった。兄ちゃんに代わるね」


 そして既定路線の様に俺にスマートフォン私やがった。

 

「もしもし、礼人です」

『あー、礼人君お疲れ様。結夢ちゃん家にいるよね?』

「すいません。また色々お世話になっております」

『気にしないでー、それで、ちょっとお願いがあるんだけどね』

「はい?」

「私、今日突然帰れなくなっちゃってさ……で最近、家の辺り不審者が出るじゃない? それで家に一人で居てもらうのも、正直不安でね……」

「は、はぁ」


 嫌な予感がする。

 すごい嫌な予感がする。

 

「で、申し訳ないんだけどさぁ……今度お礼するから、結夢ちゃんを一泊させて上げられないかしら。明日学校休みだし」

「……」


 丁度目を覚ましたところの結夢の事を深く案じてしまった。

 下手すれば結夢、今日の夜を超える事が出来ないんじゃなかろうか。

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