第3話 部屋を開けると、そこには天使な幼馴染が座っていた
慣れないバイトに、夜七時くらいになって帰路に就く。
分かっていた事だが、大学の勉強よりも疲れるなこれは。
二時間目の授業だが、二人の中学生が相手だった。
一応真面目に勉強はしてくれる子達だったが、それでも同時並行で別々のタスクを熟さないといけないわけだ。
しかもベテランになるにつれ、問題児とかの面倒を見ないといけないわけでしょ?
勿論そういう子を勉強させる事こそが塾講師にとって一番の誉れだと思うのだけど、果たして俺はそこまでたどり着けるのか。
はぁ、ここから料理ですか。
俺の家は両親ともども基本出張やら単身赴任やらで家を空けているので、俺と妹しかいない。
妹は家事はしてくれるが、料理スキルだけはやたらと低い。
もっと疲れて料理出来ないときの為に、そろそろ妹に料理を仕込んでおくかと考えながら、玄関の扉を開ける。
マンションだけど、一階なのが唯一の救いだなぁ。階段上らなくていいし。
「ただいま、菜々緒」
「あぁ、おかえり兄ちゃん」
帰るなり、いつものように速足でリビングから飛んでくる妹の菜々緒の姿があった。
もう入学して一週間が立とうとしてるのに、家の中でも高校の制服を着たままだ。そんなに見せびらかしたいか。
「で? どうだった? 初体験は」
「開口一番俺が風俗デビューした言い方をするな」
「えっ、兄ちゃんまさかもう風俗何回も行きなれてるの? うわ大学こわ……兄ちゃん大丈夫? 新宿歌舞伎町のカモになってない?」
「兄ちゃんは菜々緒の天然脳味噌が色んな人のカモにならないかが心配だよ」
やれやれ、菜々緒の天然キャラに付き合う体力も惜しい。
早く料理作って、大学の課題と明日の塾の準備を済ませて、本読みながら寝よ。
「ところで所変わってお兄ちゃん。結夢ちゃんが今日の生徒だったんだって?」
「なんで知ってんの?」
「そりゃ勿論。だって私と結夢ちゃん同じ学校だし、同じクラスなんだよ?」
「お前……そういう事は早く話せよ。結夢がこっち帰ってきたことも知らなかったんだぞ」
「でね、結夢ちゃんも併せて、三人でまた遊べないかなって思って」
「そうだな。どこかで三人で喫茶店でも行くかね」
と言って、また俺は後悔していた。
俺と結夢は塾講師と生徒の関係である以上、そういった遊ぶ事についても慎重にならねばならないのだ。
塾講師が生徒と遊んだ結果、クビになった例は枚挙に暇がない。
しかし菜々緒の気持ちもわかるし、どうしたもんかな、と思っていたが……菜々緒がしてやったりと見せた小悪魔的な笑顔が俺の悩みを全て吹き飛ばしてしまった。
「で、本当は……サプライズでお兄ちゃんに教えるつもりだったんだけど」
「へっ?」
「ちょっとお兄ちゃんの部屋に、一緒に来てくれない?」
俺の返事も待たず、菜々緒は楽しそうな表情で俺を引っ張るのだった。
力強い! 結夢程ではなくとも俺と比べれば全然小さいのに、こいつ力強い! 思考エネルギーを肉体エネルギーに変換してんのか。
男の誇りを傷つけているとも知らず、遂に俺の部屋の扉を開ける。
いや勝手に開けるな。
「なので今日のゲストは結夢ちゃんでぇぇぇっす!!」
……そして部屋の中心には、生徒が座っていた。
結夢が、借りてきた猫の様に座り込んでいた。桜色の顔付きで準備してくれてた。
黒髪の前髪を弄ってた。
「柊……先生。勝手に入ってて……ごめんなさい」
「実はねぇ、今日はこうやって兄ちゃんに結夢ちゃんが帰ってきたとサプライズするつもりだったんだよ! どうだ! どうだ!」
どうだじゃねえ!
開いた口がふさがらない。
首謀者は菜々緒だろう。
そうなんだよ! いつだってこいつはやらかすんだよ!
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