第36話 超難関ミッション!


 後輩の中村朋美の件はなんとか無事に処理をしましたが、少年にはまだ頭の痛い問題が残っていました。そうです。まだ、土屋朱美への手紙が書き上がっていないのです。少年は四苦八苦しながら、年賀状以外では理恵子以外の女性宛に生まれて初めて手紙を書きました。


 理恵子には「ヤッホー!」でも何でも書き始めることができますが、さすがに初めての相手にはそうもいきません。「拝啓」と「時候の挨拶」の初手からつまづいてしまい、「前略」という便利なワードを発見するまで、頭の中は不思議に天気の表現でパンクしていました。


 とにかく、なんとか手紙の返事も出して安心したある日の夕方のことでした。この日、いつものように両親は仕事で帰りも遅く、家には慎一ひとりしかいませんでした。


 慎一にはそれでもまだまだやらなければならないミッションがありました。それは、今まで以上に困難な、とてつもなく厳しいミッションでした。後輩の女子をエスコートすることも、他校の女子への手紙を書くことも、彼にとっては、それに比べればまだマシだったかもしれません。


「…はぁ。」


 慎一は自分の部屋の中で一人で思い詰めたような顔をしていました。ともかく気持ちを落ち着けなければならないのです。これから慎一には、一体、どんな試練が待っているというのでしょうか?


 すると、何を思ったか、急に慎一が立ち上がりました。


(もういい!やぶれかぶれだ!とにかくやってやれ!)


 慎一は、半分キレたように、意味不明なひとりごとを言うと、おもむろに服を脱ぎ始めました。


 あっという間にワイシャツとズボンを脱ぎました。更にTシャツも脱ぎ、最後にはパンツ一丁になります。


 そこまで勢いよく服を脱いでいた慎一でしたが、途端にそこで手が止まります。


(どうしよう…これも取らなきゃいけないのかな…。)


 そんな逡巡する気弱な思いが芽生えた時、あの懐かしく優しい声が聞こえてきます。


(私から盗んだパンツがあるでしょ。)


 あの時の理恵子の言葉が蘇るのです。


 慎一は自分しかいない部屋で顔を真っ赤にしています。そして、タンスの奥に隠していた理恵子のパンティを取り出しました。


 それは、純白の清楚できれいなパンティでした。控えめなレース飾りがついていて、理恵子らしい上品なパンティでした。


(こんな小さいの、僕に履けるのかな?)


 あの時は勢いでカバンに突っ込んで、そのまま返しそびれていた理恵子のパンティです。その三角形の布地は、どこからどう見ても男子のパンツに比べれば全然小さくて、何とも頼りなさげな布地に見えます。


 慎一は、かつて大好きだった麗美おばさんのマンションで、おばさんのスリップやパンティを着てオナニーしたことはあります。でも、その時はオナニーをするためで、パンティを穿くために着用したわけではありません。つまり、『穿く』ということは自分のナニを収納させなければならないのです。


 元々スリップを着用したのは、大好きなおばさんの匂いを感じ、そして、大好きな人との一体感を感じたくて着用していました。


 しかし、パンティは違います。その構造上、男子のような突起物を納める作りにはできていません。しかし、どうやらこのパンティというものは、かなり伸縮性があるようですが…。


(これ、どうやったらいいんだろう?)


 まず、女子の下着のもっとも核心的な部類である『パンティ』というものに脚を通すことへの抵抗感を排除すること自体に時間がかかりました。しかし、ようやく覚悟を決めてパンティに脚を通したあと、慎一は初手から悪戦苦闘します。だいたいにおいて自分のモノをどのように収納するか、それが大問題です。


 まず、自分の逡巡を振り切るように、パンツを思いっきり上に引き上げ、そのまま自分のナニを上に反らせます。でも、女の子の小さいパンティでは…。


(だめだ!これじゃパンティーの上からハミチンしてる!もろみえだ!それに、パンツのゴムであそこが痛い!)


 折角、覚悟を決めたのに、やはり正攻法ではこの難敵はなかなか攻略することはできません。じゃあ横にずらして…。


(これもダメだ!もろに横からはみ出ちゃってる!こんなの理恵子に見せられない!)


 あれこれ試行錯誤した末に、結局、どうしたか?最後はパンティーの股間の部分、生地が二重になっているクロッチという部分に、自分のものを下の内側へと押しやり、そのパンティーのクロッチで無理やりナニを押さえつける方法しかないようだと気付くのにそれほど時間はかかりませんでした。。


 これが一番確実な方法のように思えました。でもこんなことをしている人、やっている行為自体が変態じみた行為ですので、精神を平静に保つことの方が難しそうです。できるだけムラムラと興奮したりしないようにしなければなりません。


…だって、興奮したらナニが勃ってしまおうとして、ナニとパンツのせめぎ合いで、ナニが痛くなりそうです。


(できるだけ勃っちまわないように気をつけるしかないよな…。興奮しないように…3・141592、ひとよひとよにひとみごろ、富士山麓にオウム鳴く、…よし、この調子、この調子。)


 その瞬間、慎一の瞼の裏に理恵子の笑顔が浮かびます。スリップ1枚でパンティもあらわに走り回っていた理恵子の姿が蘇ります。


(うおぉぉぉ…いてててて…、鳴くよウグイス平安京、いい国つくろう鎌倉幕府、石国みつけたコロンブス…)


 少年は歴史教諭のハゲ頭を思い出して、なんとか立て直しをはかります。


(はぁ、はぁ、はぁ…、よ、よし、なんとか、…次だ、次、いくぞ。)


 次に、慎一はスリップを着用しました。これは全く問題ありません。


(我ながら情けない。これは完全に着慣れてるから…、でも問題は次だ。)


 いよいよ理恵子の制服です。恥ずかしながら理恵子の制服を抱きしめて頬ずりしたことは何度もあります。でもさすがに自分がそれを着るのは初めてです。


 まず、自分がいつも着ているワイシャツの要領で理恵子の制服ブラウスに袖を通します。


(女の子の袖口って、なんか短いし、ちっちゃいな…。柔らかいし、ちょっと頼りない感じがする。…ん?あれ?あれ?表裏を逆に着てる?…いや違う、これでいいのか。え?でもなんか変だ?…あ、反対なんだ!ボタンが逆だ!)


 男子のワイシャツとはボタンやボタンホールの位置が女子のブラウスではまるで真逆でした。真一は驚いきつつも慣れない手つきで四苦八苦しながら、ようやくボタンを留めました。


(先が思いやられるな…疲れた…。そうか、次はスカートだ…。)


 慎一はスカートのファスナーを下げ、ウエストベルトを持ち上げて、両手で広げたスカートの輪の中に足を差し入れます。そして、ウエストベルトを腰の位置に持ってきて締めようと思うとうまく締まりません。


 そこまでしてから、スカートのホックがアジャスター式になっていることにようやく気付いた慎一はスカートを外してアジャスターを目いっぱいに広げました。


(やれやれ、これはなかなか難しいぞ…。いつになったら着れるんだよ。)


 やり直しです。再びスカートに足を通して腹のところでホックを留め、ファスナーを上げます。でも、なんか違います。


(これでいいのかな?でもなんかちょっと違う…。あれ、そういえば女子のスカートはファスナーも左側じゃなかったっけか?あっ!ここにポケットがあるから…やっぱりそうなんか…。)


 真一はスカートのファスナーのところにポケットを見つけました。そのお陰でファスナーの位置がなんとなくわかることができました。そして、スカートを着用したまま、ウエストベルトを両手でつまんで、左側にずらしながら回転させて、ようやくスカート装着が完了しました。


(うわぁ、めんどくせー!女の子はみんな、こんなこと、毎日やってんのかな。だいたい、ホックもチャックもなんでわざわざ横にずらさなきゃいけねえんだ?男は全部前だぞ!前の方がトイレに行った時に便利だろうに。)


 男子目線では女子の服は不思議なことだらけです。しかし、慎一の受難はまだまだ続きます。


(これ、女子のベストだよな。改めて見ると、なんか幼稚園児みたいなデザインだな。脇にファスナーがあるぞ。このファスナーを緩めて頭からかぶるんだな。…ったく、縄文時代の貫頭衣かよ。)


 これは 真一にもなんとか早い段階で正解に導くことができました。こうしてようやく慎一の女装の儀式、お着替えが済んだのでした。

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