第2話 おばさんの秘密
マンションのエントランスに入り、個人郵便受けのダイヤルキーの番号を前から教えられていた少年は、エントランスホールのおばさんの部屋のポストから、部屋のスペアキーを取り出して、目的の部屋へと向かいました。20階建マンションの低層階、3階のフロアまでエレベーターで上っていきます。そして、いつものようにおばさんの部屋の鍵を開け、マンションのドアノブをガチャリと開けます。
その日、少年がドアを開けて玄関に入ってみると、部屋はまるで誰もいないかのように静かでした。外からは激しい雨音がしており、時折、稲光も光っています。電気も落としている部屋の中は、まだ日中であるにもかかわらず、夕方のように薄暗い状態のままでした。
(あれ? お姉ちゃん、いないのかな? まだ、帰ってきていない? ……やっぱり、ちょっと早すぎたかな。)
昨夜のおばさんとの電話でも、夕食の買い物に行っているかもしれないからと少年は言われていましたから、少年はおばさんの不在を特に不思議に思う事もありませんでした。
(いいや、ゲームをしながら待ってよ。)
おばさんは必ず帰ってきますから、それよりも、少年は前にやった新しいゲームの続きがしたくて、玄関で靴を脱ぐと、まっすぐテレビのあるリビングルームに向かいました。
少年は、当然、おばさんが留守だと思い込んで部屋に上がり込んだのですが、リビングの手前にあるおばさんの寝室の前を通りかかった時、すごい雷鳴とともに稲光が走り、薄く開いたおばさんの寝室のドアの隙間から廊下にまで光が走りました。
(ヒィィ! )
その音に少年は思わずその場にしゃがみこんでしまいました。
雷鳴と稲光が収まり、再び雨音のみの静けさが訪れます。しかし、決して静寂とは言えない激しい雨音の中、それとは違う、かすかな息づかいのような人の気配を少年は感じたのでした。廊下にしゃがみこんだままの少年は、その気配のする方角に視線を向けました。それは、おばさんの寝室でした。
「……?」
不思議に思った少年は、そのままフローリングの廊下に膝をつき、寝室のドアへ手をかけました。ドアは閉まっていたわけではなかったので、ドアノブを回さなくとも隙間が出来ていました。少年は、そのドアに手を掛けて静かにゆっくりとドアの隙間を広げました。
少年がそのドアの隙間に顔を近付けると、部屋の中から何かうめき声のような、でも吐息よりもややしっかりした感じの声がしているように聞こえました。果たせるかな、そこにはやはりおばさんがベッドに横たわっていたのでした。
(はぁ……はぁ……ぁぁ……はぁん……はぁ……はぁ……。)
(え? お姉ちゃん、……まさか風邪でも引いたんかな? ……熱でうなされているんなら、ぼくがお医者さんを呼んだ方が良いかな?どうしよう。)
そんな風に思いながらも、少年はなんとなくおばさんに声を掛けにくくて、自分の声を圧し殺しながら、寝室のドアの隙間から、恐る恐る中の様子を覗いてみました。
(はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……。)
少年が目を凝らしてよく見ると、そこには白いスリップだけを身につけたおばさんがベッドに横たわっていました。電気もない薄暗い部屋の中で、おばさんのその白いスリップだけが浮かび上がるように綺麗に美しく見えていました。
(はぁ……はぁ……はぁ……あぁぁん……。)
おばさんが病気でもしたのかと思って心配しながら部屋の中を覗いていた少年でしたが、なぜか意味もわからずにそこでかたまってしまいました。熱にうなされて具合の悪そうなおばさんでしたが、その姿は今まで少年が見てきたおばさんの姿とは全然違っていました。しかも、少年がいつも見ている綺麗で可愛いおばさんとは別な意味で、不思議にドキドキするようなとても美しい姿でした。その時、少年の心臓は早鐘のように急激に鼓動を早めていきます。
(……トクン……トクン……トクン……トクン……。)
(あれ? ……どうしたんだろう……お姉ちゃん、やっぱり、具合……悪いのかな? )
少年が覗き見を続けていると、おばさんはベッドに横たわっていましたが、やはりいつもと雰囲気が違って様子が変です。ベッドの上に仰向けに寝ているおばさんは、上掛け布団をかけているわけでもなく、ただベッドの上に横たわっています。なぜだか具合が悪くて休んでいるだけのようには見えませんでした。でも、何かにうなされているように首を右に左にゆらゆらと振っているのが分かり、ますます少年には意味が分からなくなりました。
(はぁ……はぁん……はぁ……はぁ……あぁぁ……。)
(え? ……ええ? ……? )
ベッドの上に仰向けに寝ているおばさんは、片方の手を下半身に伸ばしています。その手の先は、めくりあげたスリップの裾からパンティの中に伸びているようでした。更にもう片方の手は、胸が苦しいのか、時折、胸の辺りを撫で回しています。よほど苦しいのか、胸を強くつかんだりもしています。
(はぁ……はぁ……ぁぁ……はぁん……んんっ……。)
おばさんは、そのような姿勢のまま、腕や指先だけは忙しくあちこちに立ち回り、おばさんの体の上で踊り回っています。そうしながら、おばさんは、うめくような声を出しつつ、荒い息遣いをしています。
(はぁぁ……あぁぁ……んんんっ……。)
胸やお腹や腰をさすり、少年にはどこかやはり苦しい様子にも見えましたが、なんとなくそれとは違うと少年の意識が疑問を呈し、結果、少年の思考回路は堂々巡りをしています。それでも少年はそのおばさんの姿から目を離すことができませんでした。なぜだか釘づけになって、視線を外すこともできません。
(ええ? ……なに? ……お姉ちゃん、なにをしているの? )
少年は何が起きているか、その意味すらも分からないままに、身体全体が熱くなり、胸がドキドキと高鳴ってきました。それだけでなく、なぜだか、おちんちんが不思議に疼いてきて、どうして良いか分からず、自然と太股がモジモジしてしまいます。少年にとってこんな身体の変調は初めてでした。
(……トクン……トクン……トクン……トクン……。)
少年の心臓はますます高鳴ります。生唾が出てきますが、喉の中は舌が内顎に引っ付くくらいにカラカラに乾ききっています。
(あぁぁ……はぁ……ぁぁ……はぁ……んんっ……。)
薄暗い部屋の中で真っ白いスリップから伸びるおばさんの脚は、透明感のある薄い肌色で、非常に美しく見えていました。時折、窓から入る稲光の明かりに映し出されたおばさんの姿は、学校の美術教室で見たギリシャ彫刻のような幻想的な美しさを感じさせました。
ちょっと前まではよく一緒にお風呂に入ったこともあるし、少年にも見慣れた筈のおばさんの下着姿でしたが、雨模様の薄暗がりと稲光の幻想的陰影という視覚的効果があったためでしょうか、常日頃のおばさんの下着姿とはまったく違う、別の何かを見ているような不思議なドキドキする緊張を、少年は感じていました。
(……トクン……トクン……トクン……トクトク……トクトク……トクトク……。)
(はっ……はっ……はっ……ぁぁ……あぁん……んっ! ……ぅうっ……。)
更に、少年の耳には不思議な物音までもが聞こえてきました。ピチャピチャと濡れたタオルでも触っているような、クチャクチャとガムかグミでも噛んでいるような、ニチャニチャとスライムの玩具で遊んでいるような、でも、そのどれでもない意味不明な、何か湿り気のあるような不思議な音がかすかにしています。それが窓の外から聞こえる雨音とはまったく異質のものであるというのは少年にも分かりました。音のする方向は間違いなくおばさんから来ています。
(……ぴちゅ……にちゃ……くちゅ……ぬちゅ……。)
かすかすぎて最初はその音に気付かなかった少年でしたが、一旦、それに気付いてしまうと、その音がどんどん、どんどん、気になって仕方がなくなりました。それと同じに、ますます少年のおちんちんの疼きは止まらず、少年の手は自然と股間に行って、無意識におちんちんを握ってしまっていました。
(ぴちゃ……くちゅ……にちゃ……ぬちゃ……。)
「ぁぁ……ぁぁ……あっ……ああん……ううっ……ううんっ! ……。」
おばさんは長い黒髪を乱れさせつつ、目を閉じたまま何度も何度も、苦しそうな吐息を漏らしています。こころなしか、あの変な音がするほど、おばさんの声も大きくなっていくように少年には感じられました。おばさんは片足の膝を少し立て、スリップのレースを太腿から垂らしつつ、股間が痒いからなのか、パンティの中で指を小刻みに動かしている様子が少年にも見てとれました。それになぜか胸も苦しそうで、おばさんは片手で胸をかきむしっています。
(くちゃ……くちゃ……びちゃ……ぬぷっ……ぬぷっ……)
「アン! アン! ……アアンっ! ……ヒッ! ……アッ、ア~~~~ッ! 」
少年の瞳は、次第に声を大きくしつつあるおばさんの様子に釘付けとなりました。少年には、苦しんでいるようにしか見えないその可哀想なおばさんの姿が、いつも以上にとても美しいもののように感じられて、ついつい時間を忘れて見とれてしまいました。
その間も、少年の手はおちんちんを無意識に触っていました。ズボンのファスナーを開け、パンツの上からおちんちんの先っぽを指でつまみ、おちんちんを包んでいる皮の先端をグリグリとしていました。皮の上から揉みくちゃにされたおちんちんの先端は、なぜか触れば触る程に気持ちいいような不思議な感覚が増していき、自分でもその動きを止められなくなりました。
一方のおばさんの様子は、膝を立てている右足が小刻みに震え、時折、その右足が大きく外側に振られて、おばさんのパンティのクロッチが見えそうになります。でも、スリップの裾のレースがひらひらと揺れて、チラチラとその先の視界を遮ります。見えそうで見えないのですが、その都度、少年は生唾をゴクリと飲み込みました。それと同時に少年の身体中がカッカと熱くなり、何故だか分かりませんが股間がじんじんとしてきました。少年がこんな不思議な気持ちになったのは初めてのことで、自覚のないままに軽いパニック状態に襲われていたのでした。
(ぺちゃっ……くちゅくちゅ……にちゃにちゃ……ぬぷぷぷぷぷっ……。)
「アッ! アアッ! ……ィクッ! ……アッ! アッ! アッ! アアン! ……ウウッ! ウッ! 」
ひときわ、おばさんの声がはっきりとした形をおびてくるようにまでなった時、立ち膝のおばさんの右足が大きく外側に振られ、見事にほどよい角度で止まりました。更に、身体をやや反らし気味にして腰を浮かし、少年の視野の中にしっかりと、両足を開いたおばさんの股間が飛び込んできました。おばさんはよほど股間が痒いのか、パンティの中に両手を突っ込んでいます。さらに、両手を突っ込まれて浮き上がったパンティのクロッチの隙間から、何か赤っぽいものが少年の視野に見えた……ような気がしました。
その時でした……。
「アアッ! アア~ッ! ア~~~~ッ! 」
ひときわ大きくなったおばさんの声で、少年は急に我に返りました。そして、何かとてもいけないものを見てしまったような、人には言えない恥ずかしいことをしてしまったような、そんな罪悪感に近い思いにかられてしまったのでした。本当は決して見てはいけない、おばさんの秘密の姿を見てしまったように思いました。これが映画の鬼婆なら、包丁を片手に「見たなぁ~~~~~! 」と出てくるところでしょうが、どうしてもあの大好きなおばさんと、恐ろしい鬼婆は結びつくはずもなく、少年は何がいけないものなのかも分からぬまま、混沌とした意味不明の罪悪感にとらわれていました。
しかし、そんな思いとは別に、緊急を要する生理的肉体的な要請が少年の身体の内側から叫びだしてきたのです。それこそ突然、唐突に、なんだか急にオシッコがしたくなったような不思議なおちんちんの感覚に襲われてしまったのでした。もはやどうしても我慢できないほどに、急いでトイレに行きたくなったのでした。少年にはそれが尿意かどうかもよく分からなかったのですが、生まれて初めて感じる股間のどうしようもない不思議なうずきを感じたのです。
少年は、今更ながらにおばさんのマンションのトイレを使うわけにも行かず、もちろん、おばさんに声を掛けることもできないまま、隙間の開いた扉をそのままに、音をたてないように玄関まで四つん這いで後ずさりしていきました。玄関までゆっくりと戻ると、物音をたてないように靴を履き、そして、静かにマンションの玄関の扉を閉めて、少年は外に出ました。
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少年は、いつも、優しくて、可愛いくて、綺麗なおばさんとはまったく違う別の誰かが、鬼婆ではないにしろ別人の誰かがそこにいたようにさえ思われました。もしかすると、少年は不可思議な恐怖すら感じていたのかもしれません。
しかし、それは性に対する無知から、そのように思っただけのことかも知れません。おばさんならずとも、男女を問わす、自慰行為は正常な発育の帰結でもあります。ただし、少年がそれを理解するには、もう少しの時間が必要なようでした。
今の少年は、訳もわからずにただ逃げるようにおばさんのマンションから出ていってしまったのでした。とにかく、今は早くトイレに行きたいと、土砂降りの雨の中を、近くの自宅に向かってひたすら駆けていくのでした。
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