ランジェリーフェチの純情少年と純愛青春
清十郎
神部麗美の章
第1話 お誘い
(RRRRRRRR……。)
自宅の電話が鳴り、留守番をしてリビングでテレビを見ていたパジャマ姿の少年は、電話機に近づき、受話器を手に取ろうとしました。その時、電話機の液晶画面に表示されている発信者の登録名を見て、少年はハッとしました。そして、次の瞬間には何故かうきうきとした気持ちとなり、嬉しそうに電話を取りました。
「はい、もしもし~。」
少年はそれと分かる弾んだ声で電話に出ました。そして、その後の会話も少年は楽しそうににこやかに続けていきます。
「……うん、分かった、レミお姉ちゃん。……うん、大丈夫。……明日だね、うん、学校からまっすぐ行くよ。……うん、うん、遠慮なくゴチになりま~す! ……そうだなぁ、お姉ちゃんの得意なオムライスが食べたい。……うん、それじゃ。……うん、ぼくも大好きだよ。……お姉ちゃん、おやすみなさ~い。」
チンっと電話を切ったパジャマ姿の少年は、まだあどけない11歳の小学6年生の少年です。その電話のあと、彼は心から嬉しそうな顔をしていました。どうしようもなく、自然に顔がほころんでしまうようです。それは、その電話の内容が、近所に住んでいる大好きなおばさんからの夕食のご招待であったからです。
小学生ではありましたが、まだ恥ずかしさもなく、正直に「大好き」と言えるところに、まだまだ子供らしさが抜け切れていないところがあります。子供としてはやや性に対する発育が遅い方なのかもしれません。
少年はソファに戻るとテレビの続きを見ようとしましたが、明日、大好きなおばさんのところに行くことを思うと、知らず知らずウキウキしてしまい、逆にテレビの内容が全然頭に入ってきません。……というか、もうテレビなんかはどうでもいいくらいに明日が楽しみで、嬉しくて嬉しくてしょうがないのです。
(レミお姉ちゃん……。)
ソファの上でクッションを抱きしめながら、明日は何をして遊ぼうか、お菓子作りの上手なおばさんは、今度はどんな美味しいお菓子を作って御馳走してくれるだろうか、そういえば、おばさんの部屋には新しいゲームソフトかあって、おばさんと一緒に遊んだそのゲームも、まだやりかけでした……。
優しくて綺麗で可愛い大好きなおばさんのことばかりが、少年の頭の中に次から次へと浮かんできます。もう、少年はまるで遠足前夜の子供のように、楽しい明日のことだけで頭がいっぱいでした。
おもむろに少年は立ちあがり、テレビの電源をリモコンでオフにすると、洗面所に向かいました。どうやら歯を磨いて、もう寝るつもりのようです。明日が待ちきれないから早く寝ちゃおうということです。歯を磨き終わると、少年は自分の部屋に入りました。そして、すぐに電気を消して、布団をかぶったのです。
「レミお姉ちゃん、おやすみなさい。」
小さな声でそう言うと、少年は目をつむりました。よほど少年にとっての大好きなおばさんなのでしょう、少年はおばさんの名前を声に出して『おやすみなさい』を言わずにはいられなかったようです。すぐに寝息を立てたその少年は、寝顔までもが無邪気でにこやかな表情をしていました。
少年の心を表すかのように、夜のしじまが街の中にしみわたっている晩春のおだやかな夜でした。
**********
その少年の名前は足立慎一といいます。少年の家庭は、少年が幼い頃から、共働きの両親との3人暮らしでした。幼稚園の時も、保育時間が終わると、別の託児所に預けられるという、子供にとっては寂しい日常が当たり前のように続いていました。そして、小学校に入学すると、既に低学年の時から一人での留守番を少年は強いられていました。
「お姉ちゃん、わたしがしんちゃんの面倒をみる! いいえ、しんちゃんの面倒を、わたしにみさせてちょうだい。 お願い! 」
近所に住む母親の妹が、専門学校から就職して3年が過ぎてそろそろ仕事にも慣れた頃、まだ小学1年で毎日留守番をしている甥っ子を不憫に思い、そう宣言したのは5年前のことでした。彼女の名前は神部麗美、彼女も当時はまだ20代の独身女性でありましたが、毎日ではないものの、出来る範囲で仕事を定時で切り上げて、少年を自分の部屋に連れてきては実の子供?のように何くれとなく面倒をみてくれていました。
彼女は、少年が赤ん坊であった頃から、それこそ実の弟のように少年の面倒をよくみてくれていました。また、少年の方でも、この若くて美しいおばさんを歳の離れた姉のようにとても慕っていました。少年が生れた頃、おばさんはまだ高校生でしたが、高校生の若いおばさんは、学校が終わると、よく姉のところに遊びに来て生れたばかりの赤ん坊を飽きずに抱いてあやしていました。セーラー服姿で赤ちゃんをあやしてしる姿は、そのまま歳の離れた本当の姉弟のように見えました。
それまで一人でさびしく過ごしていた少年は、一般的には母親に甘える子供のような普通の子供の生活を、急に与えられたからでしょうか。普通のおばさんと甥という関係性とは思えないほど、まるで本当の親子か兄弟のように思い切り甘えてなついたのでした。それが分かるからなのか、彼女の方も少年に対しては常に優しいお姉さんでいてくれました。
おばさんは、美しい黒髪の綺麗な人でした。少年は週に何度もおばさんの家に行き、テレビや漫画を見たり、宿題を教えてもらったり、おばさんとゲームをしたりして、いつも楽しく過ごしていました。両親の帰りの遅い平日は、ほとんどをおばさんの家で過ごしている時も少なくありませんでした。晩御飯を食べさせてもらうことなどは当たり前で、両親の帰りが遅いのが分かっている時など、まだ少年が小学生であったこともあって、おばさんと一緒にお風呂にもしばしば入ったり、そのまま一緒のベッドで寝たりしていました。
そして、少年が5年生の時には会社を辞めてフリーのデザイナーとなり、放送局や新聞社、番組制作会社等の外注仕事を在宅ワークでするようになり、かえって少年との共同生活は濃密になっていきました。今回の電話もおばさんからのお誘いでした。詳しくは少年にも分かりませんが、仕事が何かうまくいったらしく、早めに自宅に帰るので、一緒に晩御飯を食べようとのお誘いでした。もちろん、少年に否やはありません。
**********
翌日となり、いつものようにおばさんのマンションに行く約束をした日です。少年の気持ちを表すかのように、晴れ渡った気持ちの良い爽やかな朝でした。いつものように元気に登校した少年でしたが、朝から待ちきれないのか、学校の授業が早く終わらないかと、少年は1校時目の勉強から既に気もそぞろで、授業も上の空でした。
ところがこの日は、朝のあれほどの晴天が昼過ぎからにわかに急変し、午後からは空が次第に分厚い雲に覆われてしまいました。朝の晴天が、一転して稲光を伴う激しい雨となったのでした。この急な土砂降りのために、学校でも放課後のクラブ活動が急遽中止になり、少年には幸いなことに、予定よりもかなり早く学校から帰れることになりました。もちろん、この日も少年の両親は仕事で自宅にはおらず、昨日の電話での約束通り、夕御飯をおばさんと一緒に食べることになっていました。
「慎一、雨がやむまで体育館で遊んでいかね? 」
授業が終わると、クラスの友達が少年を遊びに誘ってきました。
「うん、でも、用事があるから、今日は帰んないといけないんだ。」
友達には悪いと思いましたが、少年には大好きなおばさんとの約束が最優先ですし、なにより、少年がそうしたかったのです。
「え~、この雨で? 慎一、傘、持ってないだろ? 」
それでも少年は行きたいんです。苦笑いしてバツの悪そうに答えます。
「うん、わりい、じゃな! 」
友達の誘いを断った少年は一刻を争うかのように、背中のランドセルを揺らしながら、バタバタと教室を出ていきました。
急な雨で傘も持っていなかった少年は、商店街のアーケードから回っておばさんのマンションのある方向に向かい、アーケード街を出ると、商店の軒下を伝いながら、ランドセルを頭の上に乗せて雨よけとし、小走りで雨の中を突き進んでいきました。目的地に着けば大好きなおばさんが少年を優しく迎えてくれて、あったかいココアを作って飲ませてくれる、それを思えば少年にとってこんな雨はむしろ恵みの雨です。
マンションに到着した時には、少年の両肩両腕はもうぐっしょりと濡れていましたが、それ以外は、ランドセルがずぶ濡れになったおかげで、思ったほどには濡れずに済んでいました。
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