第39話 きみを抱いても良いですか?
(これまでのあらすじ……)
愛する麗美おばさんとの辛い別れを経た少年は中学生活の中で思いを募らせた理恵子と愛を育てますが、高3の春、理恵子は異郷の土地で不慮の事故死を遂げた。その前後、理恵子の死に責任を感じる少年の前に朱美が現れますが、少年は心を閉ざし朱美と別れます。その後、受験勉強に集中する道を選んだ少年の前に現れた後輩の朋美は、少年へお守りをプレゼントしましたが、そのお守りはかつて理恵子からもらったお守りとうり二つでした。その偶然に驚きつつも、理恵子と朋美の二人からのお守りを手に少年は大学合格しました。その後、聖バレンタインに少年のもとへ合格祝いに駆けつけた朋美を、一旦は突き放そうとした少年でしたが、その熱意に心を動かされ、朋美にこれまでの経緯を語るのでした。そして、朋美は不慮の死を遂げた理恵子に思いを遂げさせてあげるため、自らの身体を投げ出しました。それは慎一の夢であったのか、幻覚であったのか……少なくとも慎一の中では、遂に慎一と理恵子はかたく結ばれたのでした。
**********
朋美はいつのまにか慎一の腕の中でスヤスヤと眠っていました。慎一は、自分の胸に寄り添い眠る朋美の寝顔を、飽きずに眺めています。
(強い子だ……、それに健気に可愛い……、ばかだなぼくは、こんなに一生懸命に追いかけてきた女の子の大事さに気づかなかったなんて……。)
慎一はこんな幼子のように邪気のない可愛い少女が、次第にいとしくてたまらなくなっている自分に気づき始めていました。
もちろん、可愛い妹のような後輩なんかじゃありません。自分にもかなわない芯の強さをもったひとりの大人の女性として、慎一は朋美を愛しているのです。
(こんなにも近くに、こんなに大事な子がいたんだね。きっと、理恵子が君をぼくのところに連れて来てくれたんだ。……理恵子、ずるいよ。きみは彼女のことをよく知ってたくせに、リモートで知らないフリして、ぼくに意地悪して。)
慎一は、理恵子とリモートで朋美のことを話した時の場面を、懐かしく思い出していました。理恵子は朋美のことを聞いて驚いたろうに、そんなことはおくびにも出さず、慎一に制服女装した自撮り画像を送るように言ったのでした。
この少女は心から彼を信じ、どんな障害をも乗り越えて、ひたむきに彼を慕い追いかけてきました。今また、彼女自身だけでなく、理恵子たちの思いもすべてをこの小さな身体に抱えて、彼に飛び込んできたのです。
高校に進学してからはもちろん、理恵子の事件の後も慎一を励ましに来てくれて、慎一の大学受験の激励にも来てくれました。その前後も友人たちから強く制止を受けながらも、慎一のもとに来ようとしてくれていました。
見えていないふりをしながらも、実は、慎一はいつもそれに気付いていました。その時の情景は、朋美の必死な哀しい表情とともに慎一の瞼の裏に焼き付いていました。
慎一は、そんな朋美を心から愛おしく思うとともに、自分の出来る限り、全力で彼女の願いをかなえてあげたいと思いました。
(……しんちゃん、朋美ちゃんは良い子よ。彼女のことを大事にしてあげてね。)
そう言った理恵子が望んだ通り、彼女を『大事に』しなければならないと、慎一は心に誓うのでした。それに、朋美の心は、見えない糸で、確実に理恵子と繋がっているのですから……。
そして、今、慎一の腕の中で、朋美がようやく目を醒まそうとしていました。
**********
(……あれ……なんだろう、わたし、何をしていたんだろう……なんか、夢の中に、理恵子さんやみんなが出てきたような……。え? せんぱい? ……え? ……わたし? ……。)
まるで寝ぼけたように記憶を混濁させて、朋美が顔をあげて慎一を見上げました。目の前に朋美が慕う慎一の顔がある……それが夢ではないことが分かり、朋美は今更ながら驚いたように瞳を大きくしました。
「せんぱい……。」
「ありがとう、朋美ちゃんのおかげで、みんなに愛していると伝えることができた。それに、理恵子とも、ちゃんとお別れができたよ。」
朋美は今こそ目を見開き、慎一に聞き返します。
「先輩、大丈夫でしたか? ……わたし、ちゃんと先輩のお相手が出来たんですか? 失礼なこと、なかったですか? ……わたし、まさか……まさか……まさかまさか、肝心な時に、……寝ちゃってたんですか!!!」
かなり慌て気味の朋美のそんな様子も、慎一にはとてもひたむきな可愛らしさに感じられました。そんな朋美に対し、慎一は優しく答えました。
「うん、大丈夫。……安心して、みんなきみのおかげだよ。」
「……ほんとに? ……ほんとにほんと? 」
意気込んで慎一の胸に飛び込んだ朋美でしたから、まさかのとんだ居眠りで慎一を袖にしちゃったのではないかと、気が気ではない様子でした。……まさかに、そうであるならば、確かにとんだ間抜けな話しです。
しかし、オロオロしている朋美に、慎一は大きく頷きながらニッコリ笑いかけました。
「本当に、ありがとう。」
その慎一の笑顔が、作り笑いなどではなく、慎一の心からの喜びを表していて、本当に幸せそうな表情をしているのが、朋美にもよく分かりました。
「よかったぁ。」
朋美はほっとしながら、慎一の胸に抱きつき、顔を埋めました。彼女もまた心からの幸せな安堵の表情をしていました。
「あれ? じゃあ、わたし、もう処女じゃなくなったのかな? 」
ふと、朋美があどけない様子で可愛らしく、とぼけた疑問を呈しました。ロストヴァージンて、痛いんじゃなかったの?……そんな耳年増の女子高生的知識から、不思議に思ったのです。破瓜の痛みにも気づかずに寝ていたとしたら、我ながら相当なタマじゃない?なんて馬鹿な思いを巡らします。
慎一はそんな朋美の疑念を知ってか知らずか、優しく答えます。理恵子と愛を交わした慎一にとって、朋美は間違いなく清らかなる乙女のままなのです。
「いや、きみはまだ処女だよ。中村朋美は、まだ今も乙女のままなんだ。……だから、ぼくはきみにちゃんとお礼をしなければならない。」
朋美には慎一の言う意味がよく分かりませんでした。でも、慎一がそう言うのならば、そうなんだろうと思いました。
(わたし、……先輩に抱かれた……んだよね。ということは、先輩と、その、……ナニをしたということで……でも、先輩は理恵子さんとナニをして、わたしの身体で、ナニを……ナニがナニで……ん~~~~~わかんない!先輩がそう言ってんだから、いいか!)
肉体的に、そして、生理学的には朋美は既に処女ではないのかもしれません。しかし、なぜか不思議なことに、朋美には慎一と身体を重ね合わせた意識も感覚もないのでした。心地よい夢の中に漂っているようなおぼろげな感覚で、その中で慎一や理恵子たちの優しい声が聞こえたような……そんな気がしていました。
(わかんないけど、先輩は理恵子さんとお別れが出来たと言って満足してるみたいだし、……先輩がそれで良ければいいんだよね。わたしはそのお役に立てたんだもの、理恵子さんも喜んでくれる。うん!それで良いんだ!)
慎一にとっては、愛する理恵子と結ばれたという喜ばしい思いがあり、そして、自分はそのお役に立てたという充足感があり、朋美にはそれだけで十分でした。朋美には、満足して幸せに満ち足りたような慎一の笑顔を見られただけで十分なのです。
そして、その後に続く慎一の言葉は、朋美にとっては更に嬉しいものでした。
「今頃、こんなことを言うなんて、ごめん。でも、言わずにはおれないんだ。……ぼくは、今、きみのことを、心から愛おしく思っている。きみのことが、大好きだ。」
「えっ?」
朋美は驚いたように慎一の顔を見つめました。
(先輩、今、大好きだって言った?誰を?え?わたしを?わたしのことを?)
今、確かに慎一は自分のことを、愛おしい、好きだと言ってくれた。聞き間違いではないかどうか、朋美は慎一の顔を凝視しています。
「ぼくは、心から愛しく大切に思っているきみと、……誰でもない中村朋美と、心から愛し合いたい。……可愛い妹なんかじゃない、一人の大人の女性としての中村朋美を、いますぐ愛したい。これはぼくの嘘偽りのない本当の気持ちなんだ。」
(えええ!ええええ~~~~~!先輩、マジですか~~~~!!!!)
慎一は笑顔をただし、真剣な眼差しで朋美を見つめ直します。
「朋美ちゃん……いや、中村朋美さん、……改めてぼくから申し込ませてください。」
(せ、せんぱい……しん、いち、さん……。)
慎一も朋美も、ふたりながら緊張感の中で、ゴクリと唾を呑み込みます。朋美は心臓が爆発してしまいそうな緊張感で、慎一の次の言葉を待ちました。
「……今から、……きみを抱いても良いですか? 」
その言葉に、朋美は涙に瞳を潤ませて、これ以上はない感激と喜びに包まれたのでした。
(せんぱい!……慎一さん!……ど、どうしよ……こら、しっかりしろ、朋美!……泣くな!……先輩に……しっかり、答えるんだ!)
慎一の瞳に、潤んだ瞳で見つめ返し、意を決して、朋美はしっかりと答えたのでした。
「はい、慎一さん。……喜んで。……よろしく、……よろしく、お願いいたします。」
今こそ朋美は、愛される最高の喜びをもって慎一の胸に抱きつきました。慎一は誰でもない朋美を愛し、朋美を抱きたいと、自らの言葉で言ってくれたのでしたから。
(いいんですね! わたし、先輩を好きなままでいいんですね! 先輩を好きになっていいんですね! 嬉しい! 先輩! )
慎一の腕の中で、今こそ朋美は、今まで以上に幸せを噛みしめていました。
「慎一でいいよ。……朋美、ずっと待たせて悪かった。きみの無垢な誠意にいつも目をそむけてばかりでごめん、今度はきみに十分に報いてあげたい。……ぼくからこそ、言わせてほしい。きみが好きだ、大好きだ。心から愛している。」
慎一は朋美を抱き上げ、唇を重ね合わせました。二人はお互いの首に腕を回し、お互いの頭を大切に抱えながら、長い長い口づけを交わし続けました。
(ありがとうございます!先輩!……わたし、わたし、最高に嬉しい!……この時間が永遠に続きますように!……先輩と……ずっと、ずっと、一緒に……。)
朋美の若い小さな身体は、それでも十分に女性としての機能を過不足なく満たしています。小さいながら形よく美しく盛り上がった乳房は、慎一の手のひらを弾力をもって受け止めます。
朋美はついに愛する男性と結ばれる喜びを迎えることができたのです。慎一の手のひらが自分の乳房を包み込む感触を感じます。慎一の唇が自分の乳首を優しく愛撫する感触を感じます。
いつの間にか寝てしまっていたのかと錯覚するようなことはまったくありません。朋美は身体の隅々に慎一の優しい愛撫の感触を敏感に感じるのでした。
(わたし、先輩を信じてきて良かった。先輩はやっぱりわたしが信じて来た通りの先輩だった。わたし……、わたし……、先輩が大好きです!)
自分がどこまでも信じてきた男性が、あちこちにぶつかり自らもひどく傷つきながらも、朋美に対する誠実さの一点では、誰からも非難されない、非難なんてさせない人であることを、朋美は、今こそ、喜びとともに誇らしげに思うのでした。
慎一は優しく朋美を抱きしめ、朋美の身体への愛撫を繰り返したあと、おもむろに自然なタイミングで朋美の中へと入っていきます。
「あっ……ああっ……。」
朋美は慎一の熱いのを受け止め、自分の身体の中にしっかりと慎一の存在を感じて、心から幸せを得たのでした。
(先輩、……今、……わたし、……とても幸せです。……ありがとうございます。先輩。)
普通の出会いや性交では決して得られない至福の満足感、どこまでもひたむきに信じ続けた末に得られた愛し合う者同士の感情の共鳴が、音叉のように幾層倍にも広がる福音を、自分に与えてくれたように、朋美には感じられたのでした。
朋美は、自分と慎一の周囲には、多くのあたたかい思いがあることを感じて、慎一と結ばれた喜びを心から感謝できたのでした。もちろん、慎一と会わせないようにしていた柏倉久美子たち友人に対しても、その温かい友情に心から感謝したのです。
(朋美ちゃん、ありがとう。きみに出会えなかったら、理恵子を失ったぼくが立ち直れることはなかった。本当にありがとう。)
(先輩……、ありがとうございます。わたし、今のこの幸せを、この最高の思い出を、一生、忘れません。)
朋美は、慎一のものを胎内に感じながら、心からの幸せを強く噛み締めていたのでした。
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