第23話 窮地一転!

(これまでのあらすじ……)


愛するおばさんとの辛い別れを経て、大人の階段へ一歩を踏み出した少年の前に、ふとしたことから気になる女子生徒が現れます。少年は中学生活の中で、次第に少女への思いを募らせていきました。そして、少年は中学卒業を機に、少女へ思いを伝え、少女はそれを受け入れてくれました。少年の目の前には少女とふたりのバラ色の高校生活が広がっていたのでした。そして始まった高校生活、しかし、少年には少女には言えない淫らな妄執と性癖があったのです。ある日のこと、ふたりはいつものように放課後の時間を少女の部屋で過ごしていました。そして、少女が忘れ物をコンビニへ買い物に行った隙に、とうとう少年の悪い性癖が出てしまいました。少女の下着をあろうことか盗んでしまったのです。そして遂にその少年の性癖が少女の前にさらされる時が訪れたのでした。


**********


 絶体絶命の窮地に追い込まれていた少年でした。しかし、そこで劇的な状況の変化が生まれました。


 まず、二人の沈黙を破るかのように少女が唐突に立ち上がったのです。


(わたし、……しんちゃんの気持ちに応えてあげなきゃ。……ううん、わたしが、しんちゃんの思いに応えてあげたいの。)


 少年の男としての押さえきれない性の衝動に対して、それをどこまでも善意に捉えようとしてくれた少女が、遂に勇気をふるって行動に出ました。


(驚いた! な、何を始めるんだ? )


 一方、少女のそんな健気な献身的な思いに気付きもせず、後ろめたさに完全に考えがネガティブになっていた少年は、少女の突然の行動に驚きます。いえ、むしろひっぱたかれるんじゃないかと、首をすくめて、一瞬、目をつぶってしまいました。しかし、少女の取って行動は、少年の予想するそれとはまるで違ったのです。


 スックと立ち上がった少女は、ベッドにある自分の枕を取り出し、顔を枕でふさぐように、その枕を両腕で強く抱きしめました。


 少年の思いに応えようと決意した少女でしたが、しかし、やはりまだ十代の少女です。恥ずかしさには抗いようもありません。少女は、枕で顔をふさいだまま、耳まで真っ赤にしながら話し始めました。


「しんちゃん、男の子だから仕方ないよね、……男の子は我慢できなくなるんだよね、……でも、私も……まだだから、……よくわからないから……。」


 少女は消え入りそうな声で、途切れ途切れに言葉を発します。


「え?……な、なに?……。」


 少年も少女のこの唐突な反応にびっくりしました。


(……こ、こいつ、何を言い出すのか?)


 しかし、それに対する少年の反応を待たずに、少女が続けて言葉を繋ぎました。


「わたし、しんちゃんのこと、……好きだし、……しんちゃんは、いつも優しいし……わたし、信じているから……だから……だから……。」


 少女からの非難の声や罵声を覚悟していた少年はわけがわかりません 。


(……なに?だからなに?信じている気持ちを裏切られて、次は、……今度こそ、罵倒されちゃうか……、それとも平手打ち?……いやいや、やっぱりグーパンチだろうか……。)


 少年は頭が真っ白になって悄然としています。いや、少女の言わんとしていることが、そもそも少年には理解できないようでした。


「だから、……しんちゃんが、思うように、好きなようにして良いよ。……好きにしてって言うのは、……あの……私のことを好きにしてもってことで……ううん、違う違う……そうじゃなくて……でも、だから……だから……服は脱がさないで、……下着も……取らないで……だから、それなら……だって……まだ、……違うの、だから……恥ずかしいから……」


(えぇぇぇ~! わたし、なに言ってんだろ~! しんちゃん、我慢できなくなったらどうするの~! 好きにしてって、……好きにって、どこまで~! やっぱ、キス? ……わ、わ、わ、AじゃなくてB? ……いやいや、Bって、どこまで? ……言っちゃった!ど~しよ~!」


 しどろもどろになりながらも、そう言うと少女は枕に顔を更にぎゅっと押し付けて、ベッドの上に腰をおろしました。少女の耳たぶまで真っ赤になっているのが少年の目にもよくわかりました。


(こ、こわいよ、……どうしたら良いの?……しんちゃん、お願い、来ないで、……来ないかな?……いやいや、決めたんだから、……でも、しんちゃんは、わたしをどうするの?……しんちゃんは、どんなことがしたいの?)


 相手への信頼はあるものの、半分は、この先で何をされるのか、まるっきりの相手任せになってしまった未知への恐怖にとらわれてぃまいました。


(でも、本当は、しんちゃんの腕でしっかりと抱きしめて欲しい、……ずっと前から、しんちゃんの胸に顔を埋めて抱かれたかった、……そして、しんちゃんから優しく頭をなでてもらいたい……。)


 一方で、少女は改めて少年とは手もあまり繋いだこともないことに気づきました。恋に恋い焦がれる十代の少女として、慎一との甘い抱擁を夢見たことは何度もありました。しかし、その機会がこんな形で唐突に訪れるとは思ってもみませんでした。


 しかし、少女は恥ずかしさのあまり、まだ自分でも気付いてはいませんでしたが、枕で顔を塞いだが故に、少女の望む甘い抱擁を享受する態勢にはありませんでした。


(しんちゃん、わたしを強く抱きしめて……。)


 枕の奥で、少女は自分の願いを強く念じるのでした。


 こうなってくると、女の子よりも男の子の方が度胸が小さいものです。少年はしばらくはどうしていいかわかりませんでした。しばしの合間、少年は、少女の前で茫然となって固まってしまいました。


(い、今、理恵子を好きにして良いって言ったの? ……え? 好きに……どういうこと? ……脱がさないで、とか? ……え? 怒ってないの? ……ええええ! なに~! )


 まず、少年は少女の言った言葉の意味が、まったく理解できませんでした。それで、頭の中が完全に混乱してしまいました。


(ひょっとして、誘われてる?……ま、まさか、そんな美味しいこと、ある?……でも、信じてるって?……理恵子……ま、まさか、……お、オレ、理恵子を、だ、だ、だ、だ、だ、抱いていいの?……。ど、どこまで……A?B?……って、どこよ!)


 しばらくして、少年は、少女の言葉をなんとか整理して、少女の意図に見当をつけることができました。でも、まだ半信半疑でどうして良いかも分かりません。


(そ、そりゃ、理恵子を抱きしめたいし……キ、キ、キ、キ、キ、キスしたいし……え~!まさか……、胸、も、さわっていいの……さわったあがりに、ひっぱたかれるんじゃ……まさか、ドッキリ? )


 少年の混乱はなかなか収まりませんでしたが、でも、少女がここまで勇気をふりしぼってやっているのに、少年がここで逃げてしまったら、もう二度と少女に合わす顔がないことでしょう。


 据え膳食わぬは……ではありませんが、これがドッキリでなければ、少年としてはやるしかありません。やる……でも、何を?


(す~~~っ、は~~~っ、す~~~っ、は~~~っ、す~~~っ、は~~~っ、落ち着け、落ち着け、慎一、す~~~っ、は~~~っ、しっかりしろ、慎一!)


 少年は誰かから前に教わったような気がする呼吸法を思いだし、何度か深呼吸を試みてみました。そして、何回かする内に次第に落ち着きを取り戻しました。


 ……というか、しばらくしてふんぎりがつくと、少年には少女の身体とスリップに対する欲情がムラムラとわいてきたのでした。


(理恵子を……抱いて、良いんだよね。理恵子を抱いて……。理恵子を抱ける……。)


 恥ずかしくて顔を塞いではいるものの、少年の前には、綺麗に濃紺のプリーツが並んだ少女の下半身が無防備に少年を誘っています。


(うん、この態勢だと、……キスは無理、……かと言って、胸に抱きつくのも……、となると……、ま、まさか、下半身に……、い、いや、そこしかない、……ス、スカートに、……。)


 大好きな少女の、そのスカートが。少年はごくりと一回生唾を飲み込んで膝立ちになり、上体を前のめりに動かし始めました。

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