第8話 麗美の決意

(これまでのあらすじ……)


小学6年生のある日、少年は大好きなおばさんのマンションでおばさんの不思議な姿を覗き見してしまいました。その時、少年は不思議な興奮と恐怖を感じて、おばさんの部屋から逃げ出してしまいました。その後、何事もなかったかのようにおばさんの部屋に泊まった少年は、脱衣場でおばさんのスリップとパンティを見つけます。おばさんのスリップとパンティを身に付けた少年はその感触に魅入られてしまい、初めての精通を経験してしまいました。時は流れて1年後、少年は中学1年生になりました。思春期を迎えて異性を意識するようになった少年は、大好きながらもおばさんへの照れも出るようになりましたが、相変わらず仲良しなのは変わりません。いつものように週末、おばさんの部屋に行き留守番をしています。しかし、少年にはおばさんを待つ間、密かにやっている秘め事がありました。それは、おばさんのランジェリーで下着女装をして自慰に耽ることです。この日もまた、おばさんの寝室のベッドの上で、ひとり遊びに興じる少年でした。


**********


 ガチャリとドアを開ける音がすると同時に、ドサッと何かが床に落ちるような音がしました。その音と同時に、ベッドに横たわっていたスリップ姿の少年が、思わず視線を音のした方角に振り向けた直後、少年は驚いたように顔も身体も硬直してしまいました。


♀「!!! 」


♂「!!! 」


 その少年の視線の先には、ドアのところに、目をまんまるくして、両手で口を塞いで、声もあげられないほどに驚いているおばさんが立ちすくんでいたのです。恐らくは忘れ物を取りに帰ったのであろうおばさんに、少年はそのあられもない格好をまともに目撃されてしまったのです。少年は、まもなく絶頂を迎えようというその時、急転直下、奈落の底にたたきこまれてしまったのでした。恥辱の海に投げおとされて、爆発寸前までに怒張していた彼のモノが、急速に萎えしぼんでいったのでした。。


**********


 この直前、おばさんは駅まで行ってホームに出た時、クライアント企業の担当者からの連絡で、企画会議予定の急な変更を知らされました。それで時間が出来たので、駅前の商店街でお菓子を買って、可愛い甥っ子とお茶を楽しもうと帰ってきた処でした。彼女は少年と過ごす時間が出来たことを心から楽しみにして帰ってきました。そのような中で一体誰がこのような状況を予測できたことでしょう。


 ドアの所に立ちつくしていたおばさんは、想像もしていなかったものを目撃して、頭の中は混乱の極みにありました。しばらく固まってしまった彼女でしたが、すぐに我に帰ると自分の対応策を考えました。が、一体、何をどうしたらいいか、皆目、見当もつきません。


(な、なに? しんちゃん? ……あれ、女の子の下着? ……まさか、わたしの? ……で、でも、しんちゃん、男の子なのに、どうしてわたしの下着を着ているの??? )


 いきなりの混乱の渦中に投げ込まれた彼女でしたが、まず、自らの動揺を落ち着かせるかのように、ゆっくりとかがんで床に落ちた自分のショルダーバッグを拾いあげようとしました。……でも、それくらいで気持ちが落ち着くわけがありません。彼女自身も、何か見てはいけないものを見てしまったような、まるで自分が悪いことをしてしまったかのような錯覚の罪悪感にさえとらわれていたのでした。まちがいなく、彼女はうろたえていました。


(……いったい、どうなっているの? ……わたし、どうすればいいの? どうしよう? )


 何故か少年の方角に目を向けられず、大きく瞳を広げた視線の先の床を見つめたまま、彼女はバッグを拾い上げました。彼女の心の不安を表すかのように、彼女は拾い上げたバッグを肩に掛けるでもなく、両手で胸の前に抱え込み、ギュッと強く抱きしめるようにしていました。しかし、その間も動揺は隠しきれません。頭の中では「なぜ! なに! 」を無限ループで繰り返しています。


 一方、ショルダーバッグを拾いあげることで、おばさんからの視線が自分から外れた刹那、少年はベッドから急いで起きあがりました。しかし、そこから次の動きができません。入口のドアにはおばさんがいますから、部屋を出て逃げるにも逃げられません。それに、素っ裸になってしまいますから、スリップを脱ぐにも脱げません。結局、どうしようもないまま、少年はスリップを着用した姿で、うなだれたようにベッドの上で正座しているような形となりました。


 少年の心臓は、最初におばさんの部屋に入った時とはまるで違うドキドキの緊張感に襲われていました。とんでもない恥ずかしい行為を見られたことと、おばさんの下着を汚しているいけない行為を知られたことで、少年の顔は蒼白になってしまいました。今、少年の頭の中は真っ白になって何も考えられなくなっていました。


 混乱していたのはおばさんも同じでした。おばさんとは言っても、まだ30歳にも満たない20代の独身女性です。ましてや男の子の生理現象をよく知っているわけでもありません。予想外のものを見させられて、びっくり狼狽してしまい、頭の思考回路がなかなか混乱の渦中から抜け出ることができません。


 しかし、たとえどんなに狼狽し混乱し動揺していたとしても、目の前のそこに悄然として蒼白な顔で固まっている愛すべき大事な甥っ子の姿を改めて見た時、これではいけないと、頭の中を必死に整理しようとしました。そして、とにかく落ち着こうとして、大きく深呼吸をしたのでした。最初はぎこちなかった深呼吸でしたが、何度か無理にでも試して深呼吸が出来るようになると、不思議と気持ちが落ち着いてきたような気になりました。


(よし! 頑張れ、わたし! しっかりしろ! )


 深呼吸で少しは気持ちを落ち着けることができても、すぐには次の行動に移ることができませんでした。おばさんが少年にようやくの思いで声を掛けるまで、その場の二人にとっては、かなりの間があったように感じられました。でも、その気まずいインターバルのお陰で、少年のその行為が思春期の生理現象による形態のひとつであると、若い独身女性のおばさんにも何となく分かってきました。


(そう、しんちゃんは……オナニーをしていたのよ。……若い子なら、当たり前、普通のことじゃない。恥ずかしいことなんかじゃないわ。……でも、下着は? ……女装? ……まさか、まだ中学生よ。)


 おばさんは少年のいるベッドの前に膝まづき、少しだけ少年ににじり寄りました。そして、やっとの思いで最初の言葉を紡ぎ出し、少年に対して上目遣いに優しく語りかけてきました。


「男の子がそうなるのは、お姉ちゃんにも分かるつもりだけど、……しんちゃん、女の人の下着に興味があるの? 」


 そう聞いてきたのに対して、少年が「はい、そうです」と応えられるわけもありません。顔を真っ赤にしてうつむき、正座している膝の上に、両の手のひらを握りこぶしで置きながら、少年は視線を落としたままでした。なかなか反応を見せようとはしない少年でしたが、しかし、無言でいた少年も、しばらくの沈黙のあと、かろうじて何とか、やっとの思いで首を横に振りました。


「じゃあ、どうして? 」


 おばさんは遠慮がちながら、更に聞いてきます。今度は、それほどの間をおかずに少年は言葉で答えてくれました。声にならないようなか細い声で、頬も耳たぶも真っ赤になりながら、彼は絞り出すように言葉を紡ぎ出しました。


「ぼく、……麗美お姉ちゃんのこと、……好きだから……。お姉ちゃんが好きだから……。」


 と、小さなかすれ声で少年は返事をしました。


 その返事をおばさんは複雑な思いで受け止めました。それまでは理解不能な男性の生理現象に恐怖心さえ抱き、まさかに甥っ子に襲われることを考えたわけではなくとも、無意識に警戒しながら恐る恐る話しかけていました。でも、顔を真っ赤にして怯え震える少年の姿を見ている内に、それがとてもいじらしく、いとおしくさえ感じられてきました。では、いったいどうしたら良いか、まったく出口の見えない暗闇の迷路に困り果てていました。でも、「好きだから」と直接告白された若いおばさんは、少しだけ頬を赤らめて、ちょっぴり嬉しそうでもありました。


「しんちゃんは……、わたしの下着が、……その……、着てみたかったの? 」


 ……と、ちょっと口ごもり、言いにくそうになりながらも、おばさんは質問を続けました。少年は単刀直入に聞かれてまたまたドキリとしたようでしたが、もう、これで押し通すしかないと開き直ったのかもしれません。それはそれで事実であることには間違いないのですから。


「麗美お姉ちゃんの、スリップだから……。」と。


 合理性のある妥当な回答ではなくとも、とりあえずの行動の理由がハッキリとしたことで、何となく、おばさんは緊張感からは解放されたようになりました。同時に、告られた若いおばさんとしては、少年に深刻な女装癖があるようではないのを知って、少し安心したようです。おばさんには、どうして良いかの落とし所について、自信を持って言えるものがありません。でも、たとえ正解ではなくとも、ベストではないものの、少年を傷つけないで済むような方策はないものかと思いました。そして、考えに考えた中で、漠然とひとつの方法を思いつきました。


(よし。……なんとか、しなきゃ。しんちゃんを助けてあげられるのは、わたししかいないんだから。)


 おばさんは立ち上がると、「ちょっと待ってて」と言って、スリップ姿のままの少年をベッドの上に残し、寝室から出て行ってしまいました。

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