第4話
さて、拙者の刀を持っていった
ミフユは変わり身の術の応用で、全体的に黒っぽい忍装束に変わった。
役場の廊下は、物が散らかし放題になっていて、窓も板を打ち付けて塞いであるなど、元の様子が完全に失われていた。
本来、そこは柱の左右にある、魔法石式ランプで過不足無く照らされているが、今は半分以上割れて全体的に薄暗かった。
うーん。
音を立てない様にしながらも、足早に廊下を移動して探っていると、ミフユがやって来た後方からドタドタと血相を変えた強盗団の男がやって来た。
おっとっと。
ミフユは素早く天井に張り付いてその男をやり過ごし、通過した所で足の力だけでぶら下がると、キセルに偽装した吹き矢で麻酔針を男の首筋に打ち込んだ。
「うっ――」
小さな呻き声をあげた男は、顔面から床に倒れ込んだ。
まだ騒がれると厄介でござるからな。
ミフユはその男を軽々と引きずって縛り上げると、近くの書類倉庫へ放り込んだ。
物陰やらを利用して、その後もうろつく強盗団をやり過ごしつつ、2階建ての役場をこそこそと探る。
どこに持って行ったのでござろう……。あれは常人が扱ってはいけないものでござるのに……。
そう思いながら、ミフユは1階の屋根裏点検口を発見し、屋根裏に侵入した彼女は耳を澄ませながら慎重に進む。
「あの女の持ってたこの剣、なんか鞘から見ても薄いし細いし弱そうだよな」
すると下の食糧備蓄庫から、呑気な男達の声が聞こえてきた。
むっ、ここであったか。さて、降り口はどこでござるかな。
「なんか試し切りするもんねえか」
「乾燥トウモロコシあるぞ」
「よっしゃ。それぽいっと投げろ」
「あいよ。行くぞ」
干したトウモロコシを見つけたもう1人が、それを下手に振りかぶって、刀を手にしている方が鞘から抜いた。
「あばばばばッ!?」
その瞬間、刀身からスパークがほとばしり、男は感電してその格好のまま痙攣した。
それは男が気を失っても止まらず、
「お、おいっ! ぎゃああああ!」
助けようとした男も感電した。
その強い光で枠が四角く光ったことで、点検口を発見したミフユはそこから降下する。
「その刀は『雷電』という妖刀でござってな。認めた者以外が抜くとご覧の通りでござる」
男2人が
「うう……」
「か……、あ……」
「って聞いてないでござるよな」
失神してピクピクしている2人は当然無反応で、ミフユは小さく肩をすくめると、元の格好に戻って『雷電』を
都合良く近くに
「さてと、得物も戻ったことでござるし、懲らしめてしんぜよう」
意気揚々と出陣しようとしたミフユだったが、直前に腹の虫が高らかに鳴いた。
「――その前に腹ごしらえでござるな」
ナイフを拝借したミフユは、男が食べようとしていたリンゴを手に取って投げ上げると、ナイフを素早く動かして空中で皮を剥いた。
一瞬後に、カットと芯取りも終わった果肉が、ストンとミフユの
「うむ。うまいうまい」
もっしゃもっしゃ、と彼女がそれを食べていると、
「ふいー、やっと晩メ――」
見回りのために食いっぱぐれていた男とバッタリ遭遇した。
「ちょいと失礼でござる」
男が騒ぎ出す前に鞘ごと抜き、その先で
「て、敵襲ーッ!」
しかし、偶然その場面に出くわした、もう1人の仲間が叫び声を上げ、聞きつけた者達の足音がドタドタと集まってくる。
「あちゃあ、でござる」
残りのリンゴを一気に食べると、ミフユは先に倒した男をひょいと跳び越え廊下に出る。
鞘を右手に柄を左手に持ち、後から入ってきた方の肩の筋を後ろから居合いで切った。
「ぴ……」
彼はあまりの痛さに泡を吹いて失神した。
「いたぞぉ! いたぞおおおお!」
その直後、廊下の左側から野太い声と共に、構成員のほぼ半分程度が集結し、剣やら魔法やらでミフユに襲いかかる。
「死にはせんでござるが、死ぬほど痛いでござるよ」
だが、そんなものが『神速』の2つ名を持つミフユに通じる訳も無く、ワラワラと群がる男達は、間を通った彼女にすれ違いざまに斬られまくる。
残像を見せながらその列を抜けると、先頭から順にバタバタバタと倒れて、皆一様に床に転がって
「んー、いまいち歯ごたえがないでござるなぁ」
その地獄の様な呻き声をバックに、ミフユは無駄に刀を振り回して血を払い、懐から出した紙でそれを拭ってから納刀した。
この手の組織の首領は強いというのが定番でござるが、この前みたいなこともあるでござるからなあ……。
自由都市の一件で対峙した、完全に名前負けしているボスを思い出し、ミフユは渋い顔をしながら強盗団のボスを探して堂々と廊下を歩いて行く。
長だから村長室だろう、と考えたミフユが、そこに向かって2階の廊下を歩いていると、
「ぬ」
メリケンサックを着けた筋骨隆々の男が、彼女の進んでいく行き先にぬっと現われた。
「貴様だな! 俺の可愛い子分をいたぶったのは!」
男はそう叫びながら、凄まじい勢いでタックルを繰り出した。
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