第16話〜父と子の戦い〜
親愛なる家族の指導の元、鍛錬に明け暮れる日々を過ごし7年が経っていた。
「きゅうじゅう…っはち!…きゅうじゅうきゅうっ」
「…ふむ」
肉眼では全身が淡く黒に限りなく近い色の魔力の輝きが確認出来るだけだが、これはあの日架せられたヒュペリオンが私の魔力により変色したものである。
今では魔力のコントロールも、常に引き出す魔力も鍛えられ、更には全身に掛かる重力は地球の重力を平均として凡そ700倍、今の私の素の体重は42キロであり、プラス腕や脚、頭部以外の全てに計80キロの重りを付けた状態で特性の鉄棒で懸垂をしている。
平たく言えば、地獄だ。
「ひゃあぁっくッ!」
早朝から昼前に掛けての地獄のフルコースメニューは漸く終了した、漸く解放される────かに思われた。
「よし、次は模擬戦だ。」
「お、おにぃぃぃっ」
父の無情な一言に思わず鉄棒から手を離し地面に小規模のクレーターを作りながらへたり込む。
「はっはっは!私はお前に私の跡を継いで貰いたいからな、鍛錬に於いて手を抜くような事はせん。さぁ、さっさと立て!」
いや、私も前世では比較的体育会系寄りではあったが…たまについてけなくなる…。
内心滅入ってはしまうが、同時にこうして厳しくも暖かく育ててくれた父上には感謝しかない。
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むくりと身体を起こすと物を作る魔法に属する錬金を用いて片刃の木剣を精製し青眼に構える。
「…今日は、最初に鍛錬を始めた日から7年…か、
───記念だ、私に一撃与えられたら良い業を見せてやろう。」
「良い業…?ッ!」
互いに青眼に構えていたが徐に父の構えが変わった、刹那、私は全身から嫌な汗をかく。
(ッッ!!!)
咄嗟に目にも映らない程、まさしく神速の踏込みを以て繰り出される突きを鞘で軌道を逸らしながら、抜刀術の要領で振り向きざまに横一閃に振り抜くが斬ったのは父上の魔力と気が質量を持った残像。
(ち…ッ、捌ノ秘剣・羊影か…)
「あれを往なせる様になったか、7年前は踏み込んだ風速だけで吹き飛ばされそうになっていたお前が……成長したな?」
「師匠(家族)達が過去の大戦の勇者パーティですから…!」
破滅の邪竜神、アジダハーカを筆頭とする竜族の過激派一派を勇者である現女王と共に、たった6人で討ち滅ぼした大英雄・レオニダス…その剛剣で全てを断ち、威風堂々とした佇まいから仲間を鼓舞する最強の魔剣士は、ふ…と、満足気に微笑みながらここら一帯の空気中のマナすら断ち斬らんばかりの闘気をぶつけてくる。
「その勇者パーティの扱きに7年間耐え続け、更に夜な夜な魔法の鍛錬を自発的にしてきたお前はそこらの騎士よりは強いぞ?……まぁ、幾らお前が鍛錬バカとはいえ程々にしないとソフィアもリリスも気が気ではなさそうだが」
少しは身体を休めろよ?バカ息子、と笑いながら語る父上ではあるが、その闘気は常人であれば幻肢痛にも似た……否、それ以上の激痛を覚えるものである。
「そこらの騎士よりは、では足りないんです…!」
仮に言葉では褒められても、あの日抱いた無力感を忘れない為に、なによりも私が為そうとする野望には今よりも強くならねばならないんだ…!
父上と同等とは行かずとも、今の私が放てる全力の闘気はある程度、この場を支配していた闘気を押し戻し周囲のマナは焼き斬れんばかりに…互いの闘気が刃であるならば互いが互いの剣気を制し鬩ぎ合う。
「…ほう、ならばお前は何を望む?富か?名声か?…答えろ、ユウキ」
これは赤ん坊の頃から秘めていた想い、父上は疎かずっと気にしてくれていたエリスにすら言わなかった私の願い。
それを、父上に言うのは幅かられるが…それでも、言わなければならなかった…!
「───救済です、私は…全てを護りたい…ッ!」
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「…全てを護る、か。私は10年間父親としてお前を見てきたがお前が愚かでは無い事は知っている……──お前の言う全て、とは“何処まで”の全てだ?」
「…………」
真紅の髪が風に靡く姿はまさに獅子の鬣。
今も昔も剣王として、人類最強の魔法剣士として振舞う父親は息子である少年に問う、年齢の割に冷静で、思慮深く、心根の優しい自慢の息子に。
それは、縋るようでもあった…。
聞き間違いであって欲しい、そんな願いも込められていただろうが……少年の沈黙はそれ自体が答えであった。
───それ即ち、全てのヒトの救済、だ、と。
「……出来ると思うのか?」
長年、剣士として剣を振るってきた身だからこそ解る、少年がしようとしているのは敵対した者ですら救おうとするもの。
それは優しい理想論であり現実は違う、生き物は黙っていても争い合うし、世界はそこまで優しくも無い。
中には生き馬の目を抜く悪党も居れば、口先ばかりが達者な小物はざらである。
「父上…、───それでも、その最初の願いを違えたら今までの時間すら嘘になるし、何より───」
そうだとしても、行動しなくて良い理由にはなりませんから。
と、悲しげに微笑む息子に、最強の男(父親)は初めて、…否、改めて確信を得てしまった。
「……そうか、───師としては、今すぐお前の手脚を斬り落としてでも止めるべきだが……父親としては、お前の在り方を誇りに思う。」
「っ……ありがとう、ございます…!」
決して力量差は互角等ではなく、レオニダスが本気になれば今の間に3度は屠れるが7年間…いや、あの日、アジダハーカを打ち倒した時……否、もっと前になるか。
旧友でもある川の神を看取った時から強くなる意義を漠然とながら見出していた息子を決して過小評価する事も、構えを解く事もせず互いに、外界からも気を取込み闘気を内側で練り上げる。
「「魔心流・伍ノ秘剣・玄龍…!」」
練り上げた闘気は赤みを含んだ黒色に変色し手にする木刀に一時的にではあるが魔力と闘気の混合エネルギーである魂剛を帯びさせ、名だたる聖剣にすら匹敵する力を持たせる。
「……行きます、父上ッッ!!」
「───成長したな、…来いッ!我が奥義を見せてやるッッ!!」
「魔心流、弍ノ秘剣・駆牛ッ!」
「魔心流、三大奥義壱ノ型・無窮斬者ッ!」
龍の形状に酷似した闘気を纏う父子、互いにその喉に牙を突き立てるが如く玄の極光は周囲を呑み込んだ…ッ!
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力と力、速さと速さ、業と業のぶつかり合いを制したのは父上であった。
巨大な何かが這ったかのように足場は抉れ、所々青白い炎が今にも消えそうになりつつも燃えている。
「かは…っ…」
父上の奥義、そのあまりの規格外さに身体は宙を舞い、持っていた木剣は不自然な事に縦に真っ二つに斬られ、身を包む軽鎧も斬られていた。
大の字に倒れ咳込む私の傍で父上は刀身が折れた木剣を放り片膝を付く。
超人的な迄の剣速、力や速度だけでは無い……何故か人智を超えた片鱗に恐怖は無く、あるのは自分は未だ強くなれるという歓びであった。
「父上、今のは…?」
口を突くのは、自身が知らぬ奥義を繰り出された不平不満よりもそんな事だ、純粋に凄いと思ったからこその問いに父上は笑っている
「全く…お前という奴は、…魔心流が三大奥義・無窮斬者…無限に存在する未来の中で斬りたいと思ったものを斬る御業だ。」
「……斬りたいものを、斬る…?」
…恐ろしい技だ、咄嗟に繰り出した業が駆牛で良かった。
「あぁ、仮に空間転移で何処とも知らぬ異空間に逃げようがその瞬間首を斬る未来を斬れば首を落とすし、如何に護りを固め最高速度で駆け打突を繰り出す駆牛ですら斬る。…大方護りを固めて反撃に転じようとしたのだろうが、そこはお前の悪い癖だ、剣士ならば一太刀で断つ覚悟を持て」
尤も、その悪癖で傷も浅いがな。と、父上は笑う
「…ごめんなさい…でも……」
斬りたいとは思えないのだ、…例え意思の疎通が難しい魔物であろうと。
それが、血は繋がっていないとはいえ実父と同じ位に思っている人なら当然。
「……ユウキ、お前は優しい子だ、頭も良い…剣の腕も立つ。
…だからこそ、お前自身の優しさを押し留める強さを持て…私より早く逝く様な事があれば私はお前を赦さないぞ?」
薄れ行く意識の中で確かに聞いた暖かな声に、私は涙を浮かべながら微笑み意識を手放した。
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