第13話〜母の激怒〜
一方その頃、テラの看病を受けていたエリスは夢の中でも悪夢を見ているのか魘されていた。
「ぁ…ぅ……や、…こないで…!」
「しっかりしろ…パパがついてるからな…!」
普段鉄を打つ槌を握る骨張った手は娘の手をぎゅっと握り悪夢に魘されている愛娘の傍らに寄り添っていた。
「リリス…何処行ってんだ…」
一時間経っても帰って来ない妻を案じるテラ、ふと、人の気配を感じるとそちらへ視線を向ければこの屋敷の管理者であるソフィアが息を乱しながら部屋へ駆け込んでくる。
「こ、これは……」
「姐さんっ、やっぱこれって…」
この時代でこと魔法に関しては賢者の名を欲しいままにするソフィアは視線を一巡させながら小さく頷く、それが意味する事にテラは意気消沈するもその手は愛娘の手を握り締めたまま離さないでいた。
「…復活の予兆だわ、あの最凶の魔竜神…アジ・ダハーカの…不味い状況ね…延命の為の術もあまり利いていないみたいだわ…」
「ユーく……に、げて……!」
喉から絞り出す様に紡がれる。死したはずの竜神の名を紡ぐソフィア、…過去から現代へと紡がれる運命の物語は現代を生きる者と過去に遺恨を残す者の前に姿を現しつつある…。
----------------
「随分広い所に出ちゃったね〜…地上だとどの辺だろぉ…?」
回廊を走り抜け辿り着いたのは巨大な玉座と薄汚れてはいるが、嘗ては豪華な装飾で彩られていたのが解る玉座の間であった。
リリス姉さんはルトさんとルカさんに跨りながら辺りを見渡すも薄暗くて何も見えない……だが、ルトさんとルカさんは匂いである程度周囲の状況が解るのかただ、一方を見つめている。
「ま、まさか…」
「そんな…、なんと無慈悲な…」
走り抜けながら徐々に気配を強く感じていたが…目の前に拡がる幻獣や聖獣の死体の山を暗闇に慣れてきた瞳で見つめると共に、檻の中で鎖に繋がれているユニコーンの親子に無意識に唇を噛む。
「───…ようこそ、我が君の御前へ。歓迎はするぞ?ガイア王国、閃雷のリリスとその他有象無象共よ」
錫杖を片手に握る骸、闇よりも昏い眼孔の奥に妖しく緋色の灯火を宿す血のように紅いローブに身を包んだ死霊…身に纏う魔力は全ての生きとし生けるものを呪い殺す様な獰猛さを隠そうともせず錫杖の先端をリリス姉さんに向けるもリリス姉さんは指をぽきぽきと鳴らし伸びをする。
「んー、私、骸骨に知り合いは居ないんだよねぇ…
───というか、寧ろ骸骨にした数の方が多過ぎて一々覚えてない。…何処何処で何時殺したか話してくれたら解るかもだけど」
ルトさんとルカさんから降りてとんとんと軽やかに足音を鳴らすリリス姉さん。
その口調は間延びはしておらず目の前の存在を敵として捉えている事が嫌でも分かる程に殺気と魔力に満ち溢れている。
「──…ふん、傲慢な事よ。だが私と貴様の間に紡がれた縁は並々ならぬもの…何故なら、私は貴様に一度殺されたも同然なのだからなぁ?」
よく見ると右の肋骨が不自然な形に折れ曲がっているリィンは底冷えする様な寒気と地の底から湧き出る様な笑い声をあげるがリリス姉さんはそれすは鼻で笑う。
「そうなんだ?なら尚更覚えてないかなぁ、私が殺してきたのは領主の地位を盾に王国に秘密裏で私腹を肥やしてたクズとか、態々人様の国に要人を攫いに来たドクズとかだから。
───間接的に接してただけの小物を、一々覚えてる程私は優しくはないし甘くも無いよ」
「私を小物扱いか…ふっ、良かろう。ならばその身に私の力を嫌という程刻み付けてくれよう「ごめん、話長すぎ」かっ!?」
言葉の応酬に飽きたとばかりに不死者王の莫大な魔力を帯びた手刀を6発、回し蹴りを1発を多数の残像を残しながらほぼ同時に繰り出す業、魔身流 拾弐秘拳・猪進(いしん)を叩き込み不死者王の身体は爆散する。
「二度と顔も見たくないから念入りに魔力を込めたよ。死なない程度に」
「ぐは…っ、き、貴様ぁ…っ!貴族の決闘の前の儀礼をなんと「ごめんね〜、私が産まれる少し前から私の家は没落貴族だから」ぐばぁっ!?」
粉々にしてからすぐさま頭部のみを再生したリィンに対し慣れた手際で追撃を食らわせるリリスさん、今度は雷系統の魔法を練り込んだ一撃を食らわせたらしく骨が真っ黒焦げに感電している。
先の戦闘で学んだ事があるが、アンデッドといえどそれ以上に強力な魔力を浴びせ倒せば消滅もするし、そもそも核が存在する以上それを潰されれば現世に存在する事自体難しくなる。
リリスさんは猛攻を繰り返しながらそれ等両方の視点からリィンを消滅させようとしている様だ。
「はぁはぁはぁ…お、おのれ〜…かくなる上は「…何かさせると思ってる?」うごぉっ!?」
何かをしようとしている頭部を掴みギリギリッと、そのまま握り潰してしまいそうな音を立て右手の五指を食い込ませるリリスさん…その姿は滅多に見せない怒りを鈍い私にもはっきりと理解させている。
「貴方さえ居なければさっきのお姫様は平和に暮らしていたかもしれないし、ユーくんも泣かずに済んだ…───私の息子を泣かせてただで済むと思うなよ?」
「ぐぎゃあああぁぁッ!?!?」
完全にブチ切れているリリスさんは全身の魔力を五本の指先に込めて一気に流し込むと頭は灰になりリィンの悪しき気も彼の断末魔の声と共にか細いものとなった。
「ぉ、のれ…かくなる上は我が魂を主に捧げ復活を……!」
彼が身に纏っていた装飾具も灰となり紫色の人魂の様な炎が50メートルはありそうな巨大な体躯を持つ、3つ首の内2つの首を斬り落とされた竜の亡骸に逃げる様に吸い込まれていった。
ドクン…ッ!!
「しまった!」
術を展開し放つよりも早く飲み込まれるのが早かった為、火魔法の火球と光魔法の大浄化とを重ね合わせた浄化の炎は魂には当たらず、代わりに竜の亡骸に当たるが巨躯を揺らし燃やすだけに留まる。
「…っ、ユーくん!急いで外までの門を開いて、わんこちゃん達は捕まってる聖獣達を誘導、急いで此処を離れるよ!崩落に巻き込まれたら一巻の終わり!急いでっ!」
「は、はいっ!」
「「ぎ、御意!」」
私は空間魔法を使い此処に辿り着く迄に覚えておいた地下に繋がる階段に続く巨大な門を創りルトさんとルカさんはリィンの支配下から逃れユニコーンへと戻った親子と捕まっていた生き残りの聖獣達を誘導する。
----------------
門を開いて生き残っている全ての聖獣達を逃がす私達が見たのは50メートルは超える巨躯を揺らし双眸に金色の輝きを灯した終焉竜であった。
だが、その身体に秘めた魔力は弱々しく、嘗て邂逅を果たした川の神と同じかそれ以下にすら感じる程しか無い。
「……昔出逢った頃よりはずっと可愛く感じるけど、放っといたらあの子が…!」
あの子…?
あれを放っていればどうなるというのか、それの意味する処は理解出来ないがあれだけの巨躯だ…放っておけば街一つ程度なら踏み潰す等訳ないがリリスさんの感情を此処まで揺り動かす存在等限られている。
そして、戦闘面ではなんら活躍の無かったリィンも気になる。
…仮に、本当に仮にだが、戦闘スタイルの優劣等関係ない場合、もしも“何らかの儀式により、かなりの魔力を消費していた“場合、ああもあっさりと討ち倒された事も仮定としては説明が付く。
「リリス姉さん…エリスに残された時間は?」
「ッ!…知ってたの?」
矢張りそうか、動揺した様に振り向くリリスさんに余計な気を遣わせない様に首を振りながら指示を仰ごうとするが…
「今気付きました、僕はどうすれ「…小僧、汝が目障りだ」…貴方とは初対面な筈ですがね?アジ・ダハーカ皇帝…!」
話を遮る様に終焉の地に声を響かせる巨竜から視線は逸らす事なく、この世界に於いては初めて向けられる怒りや飢え、哀しみといった不純物が一切存在しない純粋な殺気に対すると巨竜は口許を歪に歪める。
「───我、彼の娘の内より汝を見たり。その小さき身体に収まらぬ大望を持つ勇士よ、我と戦え…貴様の覚悟を我に見せてみるが良い…!」
「「そんな事…───私達(親)がさせる訳ないでしょ(だろう)!!」」
魔竜の指名に咆哮を上げたのはリリス姉さんと、一日ぶりに姿を見た父上だった、父上は空を滑空し、リリス姉さんは地を駆け巨竜へと各々斬撃と打撃を浴びせる
だが、私よりも強い筈の二人の攻撃は何か見えない壁か何かに阻まれ傷を負わせる事は叶わなかった。
「……効かぬ…剣王よ、貴様は嘗ての戦いで自覚していると思ったがな…我が持つ権能の一端を」
「…強制的に一対一へと引き込む戦闘狂らしい能力か、くそッ!貴様最初からユウキを狙っていたな!!」
「…彼の娘の希望を潰す…それが我が復活する足掛かりとなる……さぁ、戦えッ!」
頑なに私との一騎打ちを望む竜神は元は6つの眼を有していただろう、切断面が痛々しい首を揺らし最後に残った首と視線を向けている事に何か引っ掛かるものを感じながらも私は瞼を閉じ、瘴気で汚染された土地の気を体内に取り込み始める。
「…まさか嘗ての勇者達が倒した相手と刃を交えるとは思いませんでしたが…───エリス(家族)を救う為なら私は全身全霊で応えるのみ…!」
テイア…!と、力強く自身を縛る重力の枷を一時的に諌め、更に赤みを帯びた黒い気…魂剛を纏い嘗ての最強且つ最凶に挑むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます