第6話〜拾弐秘剣〜

 鍛錬を受けるようになり1年が経過し、今日は1年の成果を見せる日となっていた。


「…では、先ずは天眼を見させて貰おうか」


 父上はそう言うと試しの岩と呼ばれる岩を無属性の初級魔法、浮遊で3mはある岩を私へと飛ばしてきた。


「…はッ!」


 すかさず私は予め手渡されていた木剣を青眼に構えた後、標的を観察眼を戦闘用に転用した技術、天眼を開眼。


(…そこか!)


 迫り来る岩石を前に冷静に分析すると岩石の中央部に渾身の突きを見舞う、初めて父上が見せた技とは違い音の壁すら破れはしない脆弱な突き


 しかし、そんな突きでも岩の要を穿つには充分だったらしくバゴォーンッ!と、炸裂音を奏でたかと思えば岩石は爆散していた。


「…見事、ちなみに今の試しの岩の要は何ヶ所見えた?」


「…僕には六ヶ所は見えました、何れもサイズの問題で全て断つには私の技術では難しいので一番確実な部分を穿ちましたが」


「そうだな、…全てを同時に断つ技は今後教える。先ずは第一の試験は合格だ。…次は空歩を見せて貰おうか」


 何とか天眼は合格した、だが次は空歩だと告げる父上は一瞬で中腹から山頂迄移動していた。


(…集中しろ……──行ける!)


 身体を強張らせるのではなく、あくまでも自然体で。自身の魔力以外にも大気中のマナや龍脈を流れる気を感じ、流れに逆らわず、然れど流され過ぎない絶妙な力加減で。

 大地に流れる魔力をS極とするなら自身の魔力もまたS極、反発し合う力場を利用し肉眼では見えない道を走り抜けるリニアモーターカーとなった様なイメージで駆ければ瞬き程の時間も掛けずに父上が待つ3キロ先の山頂へと辿り着く。



「良いぞ、未だ荒削りではあるがそれが空歩だ。仙道でいう縮地と武術でいう縮地の特性を併せ持つ“超“高速歩法…単純な走力では成し得ない速度で移動する魔心流の基礎をお前は身に付けた事になる」


「やった…!出来ました父上!」


「あぁ、まさか1年で基礎を身に付けるとは思わなかったよ…試験は合格だ。よって明日からは魔心流拾弐秘剣を習得する為の鍛錬を追加する」


(ま、まじか……)


 基礎だけでも集中しなければならないのに、この上更に……


「ふ……安心しろ、追加すると言ってもやる事は差程変わらん。精々長距離の移動は全て空歩を使うのと素振りの数を500から1000に変える位だ…未だ身体は出来上がってないからな、筋トレ等に時間を掛けるよりも今は未だ柔軟や子供らしく外で走り回って遊ぶと良い」


 それにな、と父上は続ける。


「空歩と天眼が出来るならお前は参ノ秘剣・天虎は理論上は使えるぞ?」


 !?


「ち、父上…魔心流の拾弐秘剣全てを今此処で見せてもらう訳には…?」


「……良いだろう。だが、ちゃんと見ておけよ?今日は拾弐秘剣の全ては1回しか見せん」


 それから、幾つかの技はお前にも協力して貰うぞ?との言葉に私は力強く頷いた。



----------------


「先ずは壱ノ秘剣・幻鼠(げんそ)からだ、この技は主に力量差に開きがある者の意識を狩る対軍隊に於ける技ではあるが…取り敢えず、丹田に力を入れておけ、加減はするが一応の保険だ」


 父上は腕を組んだままそう言う、言い付け通りに力を入れていると突如として全身を斬り刻まれる様な感覚を覚え片膝を着く。


「〜ッ!」


「ほう、…耐え切ったか…次は弐ノ秘剣・駆牛(かぎゅう)。これは内気功による硬化で護りを硬め走力を以て刺し貫く技だ」


 未だ片膝を着いたままではあるが攻撃的な迄の闘志を用いた技に堪えた事に気を良くした父上は剣を引き抜く事無く拳を構えると音の壁を破るに飽き足らず、発火現象を引き起こしながら余りの脚力で地面を抉り、空間を捩じ切り10メートルはある岩石を素手で殴り壊す。


「順番は飛ばすがこれは拾ノ秘剣・燕翔(えんしょう)。空気の壁を蹴る事で空中を滑空する技だ」


 脚で空中を蹴っているように見えるが恐らく魔力で極小の壁を作り蹴っているのが見えた、その速度は父上本人の筋力に依存するのか恐らく有人機では最速であるX-15……いや、無人機であるX-51すら超えているだろう。


「直線的にしか跳べんが魔法で飛ぶよりも魔力消費も抑えられ、何より速いから私のおすすめでもあるぞ、──次は伍ノ秘剣・玄龍(げんりゅう)。これは大地や空気中の気を取り込んで自身が元々持つ魔力と練り合わせる技だ…魔力許容量次第では世界すら滅ぼす技だから加減しろよ?」


 空中で一回転した後着地した父上の手を見るとあれだけの岩石を殴っても薄皮一枚切れていない事を確認する。


(凄まじいな…)


周囲のマナが父上の身体を起点に集約されていくのを感じると父上の身体の周りは赤みを帯びた黒色の闘気……いや、魔力と闘気の混合とも呼べる純粋な力の塊に覆われていく。



「魔心流では魔力でもあり闘気でもあるこの力を魂剛(こんごう)と呼ぶ、そしてこの状態で打撃を加えると…」


 とす、と軽い一撃を木製の打ち込み台に加える父上、幾らなんでも叩き折るには弱過ぎる一撃だったが


 バキイィッ!!


「!!」


「内側から力を破裂させた、剛拳と柔拳の何方の特性も併せ持つのがこの玄龍という技の特質とも言えるだろう……更に他の技はそれぞれ補い合う事も出来る」



 今のは魔身流を習っていたから解るが…あまりに自然に内側を力で満たしていた。強過ぎる…これが勇者とパーティを組んでいた剣士の実力か…


「…恐ろしくなったか?」


「……恐ろしくない、と言えば嘘になりますけど…もっと強くなりたいから続きを見せてください」


「……良いだろう、次はお前にも手伝って貰おう…その木剣で背後から打ち込んで来い…タイミングはお前に任せる」



 言われた通りに、若干のインターバルを起きながら気配を殺して背中を向けている父上に対し袈裟斬りに打ち込むも、木剣は空を斬り背後に父上が立つのを感じた


「これは肆ノ秘剣・月兎(げっと)と捌ノ秘剣・羊影(ようえい)の併せ技だ、月兎は全方位から周囲の気や魔力を感知し、羊影は魔力や気で質量を持つ幻影を作り出す…何故空歩が基礎の歩法なのか解っただろう?」


 不意打ちを不意打ちで返せる、か…恐ろしい技だ…


「…さて、参ノ秘剣・天虎(てんこ)と玖ノ秘剣・猿賦(えんぶ)はお前も知っているから残りの禄ノ秘剣と漆ノ秘剣、拾壱ノ秘剣、拾弐ノ秘剣は連続で行く…その前に音魔法を使わせて貰うぞ?」


 疑問は無く小さく頷くと音が限りなく無音に近く感じる


「先ずは漆ノ秘剣・斬馬(ざんば)だッ!」


 無音の中に父上の声が僅かに、小さく聞こえるも声の出し方からして叫び声に近いのだろう。

 地面が裂け、隣の山の頂を縦に斬り裂く斬撃、何の魔法を使ったのかその斬撃が父上に向け帰ってくるも剣の平で受け流しつつ再び斬撃を打ち返す……否、先程よりも威力は倍増しているように感じる、横一文字に隣の山が斬り崩されたのがそれを物語っている。


「これが禄ノ秘剣・巳刻(みこく)ッ!そしてこれが拾壱ノ秘剣・冥犬(めいけん)ッ━━━━━━━ッッ!!」


(ぐっ!?)


 突如発せられた雄叫びに乗せられた圧倒的な魔力、魂剛の力をダイレクトに乗せている為もありその雄叫びは先程迄か細く聞こえていた父上の雄叫びが頭に響く程煩く感じる。


(この為の消音魔法か…っ!)


 山彦すら煩く感じるのだ、耳栓もせず近くで直接聞いていれば即死は免れないだろう。


「……さて、これが最後だ」


 不意に魔法が解除されたのを気配で感じると上空から女性の胴体に鳥の翼が生えたような魔物、ハルピュイアが10体程の群れを生し父上に襲い掛かるが


「──拾弐ノ秘剣・猪震(いしん)」


「gyaaaa〜ッ……」


 一瞬、父上が燕翔で空中を掛けたかと思うと“ほぼ同時に”ハルピュイアの群れを打ち落とす


「まぁ、天虎が破壊を主眼とした一撃特化の技なら猪震は複数の斬撃を繰り出しつつ斬り刻む連続斬りだ、尤もコンマ0.01秒にも満たない速度で連続で斬り刻む超神速の斬撃だが」


 打ち落としたハルピュイアの群れは各々が峰打ちだったのか落下中に体勢を整えると彼方へと去っていった。


 通常、峰とはいえ鉄の塊を身体に打ち付ければ骨折位はしようものだがハルピュイアの身体が丈夫なのか、それとも父上が寸前で剣速を緩めたのか…何方にせよ、日本刀とは創りが異なる西洋の片刃剣で、0.01秒という速度でその様な真似後を出来る時点で何故剣の王と呼ばれるのか…その意味を垣間見た気がした。


「…明日からはお前には伍ノ秘剣・玄龍と肆ノ秘剣・月兎、そして拾ノ秘剣・燕翔を先ずは習得させる為の鍛錬を施す。それ等を習得すれば自然と他の業のコツも掴める筈だからな?…何より、リリスにも師事を受けているなら伍ノ秘剣に関しては他よりも習得は容易いだろう」


「は、はいっ!ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します!」


 正直、こと鍛錬に於いては、何時も通り返事を後悔したのは今生では初めての経験だった。

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