第4話〜過剰な贈り物〜
鍛錬2日目、私は今、元々母上が父上の為に作った屋敷の近くの森林を経由し山道を摺り足で歩いていた
「そうだ、このまま摺り足で1キロ歩くぞ」
「はい…っ」
頭に水を目一杯溜め込んだ一定の魔力で割れる材質の風船を括りつけて、だが。
バシャッ、と、力む度に中に入った水が頭から全身を濡らす事3回目。
「父上…もう一度お願いします…っ」
割れる度にスタート地点からやり直しを繰り返す、午前中は母上に簡単な魔法薬学を学んだ為時間に余裕はあるが…
「……良いだろう、だが少し休め。子供の足で10キロは流石に体力的にも魔力もきついだろう」
確かに、体力的には限界に近いが…
「……いや、体力は兎も角魔力は未だ余裕があるのか…お前が魔法の気配を感じさせたのは1歳からだったが…普段はどんな訓練をしていたんだ?」
「その…たまたま手元にあった魔導書を開いていたら本の中に吸い込まれような感覚を覚えています。その中には魔導書や地図、世界史のようなあらゆる分野の本が存在していてその中から魔導書を見て扱えそうな魔法を見て魔法陣を頭の中で反芻し、毎日魔力を練っていたら何時の間にか使っていました…」
魔力は未だ衰えは見せない様子に父上が訊ねれば、ある程度真実に近い話を切り出す事にした。
下手に嘘を吐くよりもその方が後々良いと判断した結論ではあるが…一瞬、父上の表情が強張るのを感じた。
「……そうか、…今話した事は私以外には話すなよ?ソフィアが聞いたらかんかんに怒るだろうからな」
----------------
子供の戯言とは思えない話に私は内心衝撃を受けていた。
先ず、あの屋敷にはこの子が話したような所有者を異空間へと呑み込む類の魔本は置いていない。これはエリスが居たから、という意味合いが大きい。
ならばユウキが嘘を吐いているのか、となるとそれも違う。未だ幼く、本人の性格からか魔心流や魔身流の才能の片鱗を見せていないエリス以外は私やソフィア、リリス、たまに帰ってくる弟分の全員が既存のどの魔法にも該当しない異質な魔力の気配に勘づいている。
(…アカシックウィンドウ……実在するとはな…)
世界の…否、宇宙誕生から現在、未来というあらゆる記録を記された情報集合体に部分的にアクセスする窓口。伝説上の存在だとばかり思っていたが…
(だが、こうして実際にアクセス出来る存在が居るのを目の当たりにしていればあの異質な魔力にも頷ける)
伝説上の存在に触れられる、それ自体は幸運以外の何ものでもないが、この子(ユウキ)はそれを悪用していない。
あくまでも自身の技術や知識を高める為…一般的な魔本でも出来る事をしているだけだ。
ならば、この子を育てると決めた親としてはその努力に報いるのが当然というものだろう。
「…さて、休憩は此処までだ。次で登り切るぞ?」
「はいっ!よろしくお願いします!」
ひたむきに努力を続けるこの子を、今は見守ろう…。
それが、この子を護り切れなかった不甲斐ない私が唯一出来る事なのだから。
----------------
鍛錬3日目、私は今母上から魔法の各種属性の基礎を学んでいる。
このウィルビウスという世界には私が前世でプレイしたRPGやMMOといった、魔法が存在するゲームにとっては定番とも言える火、土、風、水、木、金の基本属性に加え、それ等の派生系と特殊属性である氷、雷、光、闇、時、空、心、創、音、無の16からなる属性が存在するのだが、各々の属性にはLvという概念が存在し一種類の最高Lvが5=Sであり、A、B、C、D迄のランク付けが為されている。
例えば火の魔法、Lv1だと加減をする事で小さな火の粉を飛ばしてちょっとしたライターの代わりにしたり、全力で撃てば成人女性の掌に収まる位の火球となり野生生物(狼や熊)位ならば火を怖がる性質から撃退出来た、等という話も多く存在する。
Lv2はそれよりも大きく、火力も上がる火炎弾を打ち出す他、焔を集約して所謂熱線を放つ事で光線銃の様に放つ、これに伴い熱量のコントロールも学ぶ。
Lv3ともなると火炎弾が着弾すると小規模の爆発が生じ民家程度なら跡形も残らず灰となる。熱線も太く、貫通力が増すだけでなく術者の力量差によるが一度に複数発の熱線を打ち込む事が可能となる。熱量のコントロールもLv2よりも早く精密になる。
Lv4はLv3の内容をよりグレードアップさせたものと考えて良いが、特筆すべきは本来火など起こり得ない場所でも火気を起こせるという処か。水中で村一つ灰にする熱線を複数打ち込む、という事も可能だというのだからこの世界で科学があまり発展せず魔法が発展した理由が解ると言うものだ。
そして、Lv5にもなれば…国一つ滅ぼす等容易い。
まぁ、尤も普通の魔法士はLv3以上を習得出来るかどうかは魔力許容量という人間が生まれ持った才能に左右される。
例えば魔力許容量がランクBとされた場合、Lv3迄の魔法なら本人の努力次第ではあるが全ての属性を習得するのは実は可能だ。
ただ、Lv4以上の魔法を習得しようとすると運命力と呼ばれる絶対不可侵の力で習得出来ないようだ。……無理に習得しようとしてそれまで培った魔法の知識を白紙にされた、という内容の昔話を童話にしたものを昔エリスに聞いていたのをこの時思い出した。
(そう考えると…私の2つ目の転生特典だろうな)
改めて私自身のステータスを確認してそう思う、或いは一つ目の特典が関係しているのかもしれないが際限無く強くなるチャンスを貰えている私は恵まれているだろう。
「と、ここまでは多分貴方も理解出来ているわね。此処からは派生系と特殊属性である氷、雷、光、闇、時、空、心、創、音、無について説明していくわ」
「よろしくお願い致します、母上」
黒板に各属性の特徴を書き出す母上、私は与えられたノートと羽根ペンで要点を書き写していく。
先ず、氷に関してだがこれは水魔法からの派生で火魔法の熱量コントロールと原理は似通っているらしい、異なるのは火魔法が熱を上昇ないし加熱させるのに対し氷魔法は熱を低下させ空気中の水分を凍らせ魔法として使用するという点だ。
続いて、雷。これは風魔法からの派生であり同時に光魔法の性質も持ち合わせているようだ。
光は主に野生生物を死に至らしめ魔物に堕とす瘴気を浄化させたり回復魔法が光魔法の大半を占めているがそれ以外にも速度や粒子に関係がある魔法らしい、まぁ、光魔法を攻撃に転用出来るのはLv4以上…つまりAランク以上の魔法士である為、人族ではあまり使い手が居ないのが現状だろう。エルフや天属の系譜が主に使うとの事だ。
闇は主に魔族や一部の高い知識があるモンスター、リッチ等の元々高位の魔法士がアンデッドと化した者が扱うもので影に質量を持たせ小間使いにしたり、血を凝固させ剣や槍、果ては無数の弾丸にしたりという攻撃的且つ隠密性の高い魔法を数多く占めている。それ以外にも霧のように声や姿を正しく認知させない認識阻害の魔法等もあるが、光魔法の高位魔法にはそれを打ち消す魔法も存在する為、光と闇はこの世界でも対立する属性だというのが解る。
時は時間に関係する魔法であり魔法士であれば魔法を発動させ任意のタイミングで放つという極短い期間内であれば誰でも使用しており、Lv1からLv3迄は魔法の発動タイミングを早めたり、逆に任意のタイミングで時間差で打ち込むといった補助的な使われ方をする事が多いが、Lv4以上にもなると光魔法の回復魔法とは理屈そのものが異なる時間逆光による再生や世界そのものの時間を止める事が可能となる。
但し、一見強力に見える時魔法も強力故に一歩扱い方を間違えれば世界すら消し去る諸刃の刃でもある為完全に制御出来るのは時空の支配者の名を関する母上位だろう。
空は空間に関する魔法であり、実はこの屋敷の周りにも常時この属性の魔法は掛かっている事は魔法を使い始めて間もない頃に気付いた。
空間魔法は例えば本来ある敷地を何倍にも拡げたり、肉眼では見えない異空間への行き来を可能とする魔法であり他にも、A国からB国といった長距離の移動を可能とする魔法でもある。
但し、やはりというかなんというか…高位のLvとなると空間を抉り取ったりする事も可能らしく時魔法と同じく繊細な魔法でもあるようだ。
創魔法は魔力という元手となるものを媒介に短時間ながら頭で思い描いたものを創る魔法であり、同時に素材を用いて術を使用した場合錬金術の側面を担う魔法でもある。但し世界の在り方を害する為万能という事もなく素材を使わなかった場合は一定時間を過ぎれば霧散する。
また、作れるものもLvに依存しており以前、前世で馴染みのある89式小銃を創ろうとしてぐにゃぐにゃと捻じ曲がった鉄クズが出来たのは苦い想い出である。
音は音全般に纏わる魔法であり、恐らく過去の大戦で大きく貢献した魔法であろう。
この世界では科学の代わりに魔法が発展したが、こと戦争という観点に於いては寧ろ現代社会よりも数段発展しており情報戦ではこの音魔法を予めマーキングという印を刻んだ対象に直接伝達する事も可能だ。
通信機や無線を使用せず伝達出来るという点は現代社会での戦争をなまじ学んでいた私からすれば目から鱗だった。…それ故に一般の暮らしを営んでいる人々が扱えれば、という気持ちも大きいが。
無魔法は全16種類に分類されない魔法であり強化魔法、防御結界等の属性を持たずとも一定の利用価値がある魔法が大半を占めている。Lv4以上ともなると全ての魔法を上手く発動させ難くさせるジャミング魔法が扱えるようだが。
最後に心、これはその名の通り心に因んだ魔法であり幻術を掛ける魔法や声魔法のように心に思った事を伝達したりするものがLv1と2、3の魔法の中に存在するが、Lv4以上になると術者の心に巣食う幻獣や聖獣、或いは魔獣を顕現させLv5になるとそれ等の獣を武具として身に纏う心闘術を使用する事が出来る。
「…最後になるけど、Lv3迄しか習得出来ない魔法士がLv4以上の魔法士に勝てない、という事は無いわ」
(来た…!)
「例えば、Lv3の火魔法をLv4の火魔法にぶつけても普通は勝てないけど、Lv3の火魔法にLv3の土魔法を組み合わせれば突破する事は可能よ」
それはあの図書館で一人鍛錬をしている時に知ったが問題はどの様に異なる魔法を組み合わせる複合魔法スキルのLvを上げるか、だ
「複合魔法スキルの技術Lvを上げるコツは同レベルの魔法を組み合わせてコツを掴む迄使い続けるのが実は一番の近道なのよ、例えばこんな風に」
母上はそう口にすると右手に赤色の魔法陣、左手に橙色の魔法陣を展開し手を突き出すと火炎に包まれた岩が出現する
「これはLv2とLv2の魔法を掛け合わしたバーニング・ロックという魔法、威力だけなら火魔法Lv4と同程度よ」
なるほど、つまりより強い魔法を習得したい場合は高レベル同士の魔法を掛け合わせれば良い訳か。私の探し方が悪かっただけであの図書館で探せば未だ色々と探せそうだな。
「ふふ、貴方は勉強熱心なのね…今日の授業はここまで、また解らない事があったら遠慮せず聞いてくるように」
「はい、ありがとうございます、母上」
前世の学校生活のように一礼をすると母上は空間に歪みを作り何処かへと外出した。
よし、取り敢えず今日の授業を参考に試行錯誤するか…。
私もまた部屋を後にすると例の図書館で魔法の探求に勤しむのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます