呪い・呪い・呪い
【呪いの代償】
数ヶ月前に悪魔が言った言葉が。拘束具で体の自由を奪われて、警察病院の個室の冷たい床に転がされたオレの頭の中に繰り返し甦る。
「呪った本人だけが、呪われた相手よりも幸せな人生を歩むコトは……ありえない……呪った側にも災厄は訪れる、当然の結果だ」
窓枠には鉄格子、金属製の無機質なドア。
そして、オレの視線の先には青白い顔をしたアイツが、膝を抱えて座って無言でオレの方を見ている。
(どうして、オレがこんな目に……どうして?)
【数ヶ月前】
オレには、殺したいほど嫌いなヤツがいた。
そいつの言動、顔つき、性格すべてが嫌悪する。
顔を思い出すのも嫌なヤツを心底、この世から消してしまいたいと思ったオレは、思わず悪魔に祈った。
「大嫌いなアイツを、呪い殺してくれ!」
オレの願いに応じて、顔が黒い男が、突然白い煙の中から現れた。
尖った耳、牙が生えて裂けた口の悪魔だった。
現れた悪魔が言った。
「本当に、呪い殺したいのか……その気があるなら、力を貸してやるが」
「呪い殺してくれ! 憎いアイツを!」
「死んでからの魂が、地獄に堕ちるぞ……それでも、相手を不幸にして呪い殺したいか?」
「構わない!」
悪魔は不気味な笑みをオレに見せた。
「いいだろう、おまえが望む相手を呪ってやる……後悔はするなよ」
悪魔はオレの希望通りに、嫌なヤツに災厄の不幸を与えてくれた。
まず、嫌なヤツの身内に不幸は訪れた。
嫌なヤツの母親が、事故死をした。遺体は悲惨な状況だったらしい。
次に嫌なヤツの会社勤めの父親が定年を前に、上司の横領に関与したと汚名を着せられ……架橋から道路に飛び降り自殺した。
度重なる身内の不幸に、精神に変調をきたした嫌なヤツの妹は、自我が崩壊して入院した。
嫌なヤツも、身内に次々と振りかかった呪いの災厄に耐えきれず……首を吊って……死んだ。
嫌なヤツが死んで、清々していたオレが、公園のベンチに座ってコーヒーを飲んでいると、悪魔が現れて言った。
「どうだ、嫌なヤツが死んで満足か?」
「あぁ、最高の気分だ」
悪魔が笑う。
「次は、おまえが呪いの代償を払う番だな」
「どういう意味だ?」
疑問視するオレのスマホが鳴る。
「もしもし、えっ!? 警察? オレの家を隕石が直撃して火災が発生している?
外出していた母親が、大盛りメニューにチャレンジして完食後に食べ過ぎで具合が悪くなって、病院に搬送?
車を走らせていた親父が、うっかり川に転落して、沖まで車ごと流されて車の屋根で弁当を食べながら救助を待っている?
姉ちゃんが酒で酔っぱらって、大型家電製品の冷蔵庫を、堂々と万引きしようとして逮捕されたって?」
連続して起きた身内の不幸に、パニックになったオレは悪魔を睨みつけて怒鳴る。
「どうして、オレの家族まで呪ったんだ?」
「言いがかりだ、わたしは何もしていない『呪いの反動代償』だ」
「呪いの反動? 代償?」
「まさか、呪われた相手の方にだけ不幸が訪れて。呪った方は無傷で済むなんて、甘い考えをしていたワケじゃないだろうな……呪いは、呪った方にも影響が出る……それを覚悟の上で行うのが、呪いだ」
話し続ける悪魔。
「呪った本人だけが、呪われた相手よりも幸せな人生を歩むコトは……ありえない……呪った側にも災厄は平等に訪れる、当然の結果だ」
「そんな……」
「おまえにも、すでに呪いの代償は、はじまっているぞ……ほら、おまえの後ろ……おまえが呪い殺した相手が幽霊になって、恨めしそうに見ているぞ」
悪魔が示した先には、青白い顔をした大嫌いなヤツが恨めしそうにオレを見ていた。
「うわぁぁ!」
その後──オレは、拘束具を装着されて。警察病院に入院させられた。
オレが周囲の人間に、何度も「そこに、呪われて自殺したヤツがいる! こっちを見ている!」
いくら伝えても、他の人間には呪われて死んだ幽霊は、見えていなかった。
四六時中、近くにいる幽霊に半狂乱になったオレは、刃物を振り回して幽霊を追い払おうとした。
「オレに近づくな! 離れろ!」
刃物を振り回していたオレは警察に通報され、精神鑑定の結果。
警察病院に入院させられた……身内は誰も面会に来てはぐれなかった。
当然、スマホも没収された。
(呪いの代償……呪いの代償……あの悪魔は実在したのか? オレの妄想の産物じゃないのか? そもそも、オレは誰だ?)
まだ、少しばかり正常に働いている脳の部位で、オレは悪魔の言葉を反復する。
「呪った本人だけが、呪われた相手よりも幸せな人生を歩むコトは……ありえない……呪った側にも災厄は訪れる、当然の結果だ」
【呪いの代償】~おわり~
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