恐怖
【透明骨格標本彼女】猟奇・怪奇バージョン
意識を取り戻した透花は、見知らぬ白い部屋の手術ベットのような黒革の台の上に、下着姿で手足を革ベルトで固定された格好で乗せられていた。
(どこ? ここは?)
殺風景な部屋──白い壁に目を向けた透花はギョッとする。
壁一面に隠し撮りされたらしい、透花の写真が貼られていた。
(いつの間に?)
視線を壁の反対側に移した透花の目に入ってきたのは、棚に並べられた標本ビンの中に入れられた生物の【透明骨格標本】だった。
赤や青や、紫や黄色の幻想的な骨格標本……芸術品を連想させる魚類やハ虫類や哺乳類のライトアップされた標本と並んで、棚に置かれた水槽の中に透花の目は釘づけになった。
並べられた大小の水槽の中には、透明骨格標本状態で泳いでいる魚が入っている。
生きている透明骨格標本で群れる熱帯魚。単独で飼育されているコイのような魚の体も透明骨格標本で、エラが動いているのがわかった。
(なにあれ? 骨が丸見えの魚が泳いでいる?)
透花が恐怖を感じていると部屋のドアが開き、医療白衣コートを着た若い男が入室してきた。
男は飼育している水槽の魚にエサを与える。
その時、男の足元からネコの鳴き声が聞こえた。
視線を男の足元に向けた透花は、恐怖に意識を失いそうになった。
男の足に体を擦り寄せているネコの体は、魚と同じ赤紫色をした。生きている透明骨格標本だった。
男は不気味なネコを抱き抱えると、頭を撫でながら透花にネコを見せるように近づける。
底知れない恐怖に絶叫する透花。
「いやぁぁぁぁぁぁ!?」
男は透明骨格標本のネコを床に置くと、ワゴンの上に置かれていた銀色のトレイから注射器を取り上げて、薬物ビンの中から薬剤を注射針で注射器の中に吸い上げると。
透花の両方の足裏を軽く消毒してから、針を刺して注射器の薬剤を透花の足裏に注入した。
「痛っ……いったい何を?」
男は透花の質問には答えずに、電子カルテのようなモノに記入すると、手術ベットに固定された透花の口に吸い口容器の水を飲ませ、アメのようなモノを透花の口に押し込んだ。
栄養アメをナメさせられながら、透花は無言の男に再度質問する。
「いったい、あなた誰? あたしをどうするつもり? ここはどこ?」
男は何も答えずに、透花の目にペンライトの光りを当てて、診察のようなコトをしてから、ネコと一緒に部屋を出ていった。
数十分後──注入された薬物の効果が、透花の足に現れはじめた。
透花の足首から先が透明骨格標本化しはじめた。
皮と肉が透き通り、血流が透き通った箇所の血液が水のような体液に変わっている。
赤紫色に染まった足の骨と青っぽい軟骨に透花は悲鳴を発した。
「ぎゃあぁぁぁ!? いや! いやぁぁぁぁ!?」
男は透花の体に足や手の先から薬剤を注入して、透花の体を生きたままの透明骨格標本化していく。
両足のふくらはぎ部分から大腿部、手の指先から肩までが透明骨格標本化された。
注入される薬物で、おぞましい姿に変えられていく透花。
「ああぁぁ」
生きたまま標本化していく発狂しそうな恐怖……男は無言で透明骨格標本化した透花の手足を撫でる。
「もう、やめて!! 何? その酸素吸引器みたいなの……なにするつもりなの、いやぁぁぁぁ」
男は透花の鼻と口に、吸引式の麻酔器を押し当てて透花を眠らせた。
次に透花が目覚めた時、下着が新しいモノに交換されていて。上半身には男物のTシャツがブラジャーの上に着せられていた。
どうやら男は透花の裸体には興味が無いようだった。
透花は眠らされている間に、下着を新しいモノに交換されたコトよりも、さらに透明骨格標本化が進行している自分の体に透花は言葉を失う。
透花の肉体は首から下が、完全に透明骨格標本化していた。
ベットの側面からライトの光りが投光され、より芸術性が高い骨格標本に、ライトアップ展示された透花の肉体。
呼吸をするたびに膨張と収縮を繰り返す透き通った肺。
絶え間なく動き続ける透き通った心臓のポンプ。
蠕動する透明な管の腸。
プラスチック容器のような子宮も下腹部に確認できた。
内臓の中には黄色い箇所を見える。
美しくも、おぞましい醜美な体に透花は、悲観した表情で首を横に振る。
「いや、いや、殺して……殺して!」
男は透明な骨格標本化した透花を満足げに眺めるだけだった。
透花の透明骨格標本化は首までで、頭蓋骨は透明化されなかった。
この時になって透花は男の目的をやっと理解した。
(コレクションにされた……生きた人間の標本にされた)
絶望の中、逃げ出すコトを透花が諦めて数日後──部屋にもう一人の人間が拉致されてきて、アクリル板を隔てた手術ベットの上に透花と同じように、下着姿で手足を固定された。
「てめぇ、
ベットの上に固定されたのは若い男だった。
この時、透花ははじめて自分を拉致してきた男の名前が、名字か名前かはわからないが『霧矢』だと知った。
拉致されてきた若い男は、透花の時と同じように霧矢から足の裏に薬剤が注入されて、透明骨格標本化処置が行われた。
赤紫色の骨格に変わっていく肉体に、拉致されてきた男は恐怖する。
「うわあぁぁぁぁ!?」
ベットの上で暴れる男の体を押さえながら、霧矢は大量の透明骨格標本化薬を、男の腹部に注射器で注入した。
男の腹部から下が、急激に透明骨格標本化していき、胸部の心臓辺りまで標本化が進んだ段階で男に異変が起こった。
「げはっ、がはっ、があぁぁぁ!!」
突然、苦しみだした男が両目を見開き、苦悶の表情で震えだす。
「ごぁ……がぁ……ぐぉ」
男は心臓が半分、透明骨格標本化したまま……急死した。
霧矢がポツリと呟く声が透花の耳に聞こえてきた。
「失敗した……大量に投与しすぎた……もう飽きた」
次の日──部屋の中では恐ろしいコトが起こりはじめた。
水槽の中を泳いでいた魚がすべて、腹を水面に浮かべて死んでいた。
ネコも口から白い泡を吹き出して死んでいた。
(毒殺したんだ……でも、どうして)
透花は昨日、霧矢がもらした「……もう飽きた」の言葉を思い出す。
(まさか、あたしも殺すつもりじゃ!?)
霧矢はどこからか、持ってきた空のロッカーの中に、昨日死亡した男の体を押し込めると。
透花の下着を交換する時に使用した麻酔用の吸引マスクを、透花の鼻と口にあてがった。
「いや、殺さないで! 殺されるのはいやっ!」
透花の意識が途切れた。
次に透花が意識をとりもどした時、狭いロッカーの中で両目を見開いた男の死に顔が間近にあった……透花は生きたまま、死体と一緒にロッカーに入れられ鍵をかけられていた。
ロッカーの隙間から射し込む明かりで見える、断末魔の男の死に顔。
透花は、誰もいない部屋の中で発狂に近い恐怖の声で絶叫した。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
【透明骨格標本彼女】猟奇・怪奇バージョン~おわり~
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